思い出は 今も在りしや 黄金虫

思い出は 今もりしや 黄金虫こがねむし



 季語は黄金虫、季節は夏。

 テーマとなる虫はコガネムシ科のアオドウガネという種。さらに近縁のヤマトアオドウガネという種も入るかもしれない。


 初期案では、下五は青銅金あおどうがねだったのだが、字余りでリズムが悪いのと、季語として存在しないため黄金虫とした。あと、コガネムシの漢字表記として『金亀虫』というものも存在するのだが、カメムシの仲間にキンカメムシ科というのがあるため、この表記は使わないこととした。


 さて、表題の句であるが……。


 子供のころ、家族旅行で瀬戸内海の島にある旅館に泊まった。

 夜になると、部屋の窓には大あごの発達した一見クワガタムシのように見える謎の黒い虫と、緑色のコガネムシの仲間が多数、明かりに引き寄せられて集まっていた。

 当時から昆虫に興味のあった筆者は、何匹か持ち帰って、祖父に買ってもらった図鑑で名前を調べてみた。


 謎の黒い虫はカミキリムシ科のクロカミキリ、緑のコガネムシはアオドウガネと分かった。実はその図鑑が不完全とは思ってもみなかった。時代が時代なだけに仕方のない部分もあるが。


 アオドウガネに非常によく似た種に、ヤマトアオドウガネというものがいる。

 近年では南方系のアオドウガネが、ヤマトアオドウガネやドウガネブイブイを追いやりつつ北上している、と言われている。

 というわけで、子供のころに見た『アオドウガネ』だが、実はヤマトアオドウガネの方だったのではないか。大人になってから、そんなことを考えた。


 もし今あの場所に行ったら、あの頃と同じ光景は見られるのだろうか。

 状況の変化により、虫たちは少なくなっているか……あるいは、別の虫に置き換わっていたりするのかもしれない。

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