ソロ活動ー13

 何らかのスイッチが押され、あの曲が流れているのだろう。

マスタールームの3人の女性は、ヘッドフォンを付けて集中している。


カーリーはしばらく動かない。



そして、いきなり弦を一度だけ派手にはじいた。



その途端、3人のミュージシャン達の表情が変わった。

驚きとも怒りともつかない表情で、顔を上げた。



何をやらかしたの?

たった1音出しただけなのに……



そして、その後カーリーは、時には同じ音を弾いていき、時には左手を移動させていく。

それを繰り返すカーリー。



途中、ジュンさんが立ち上がった。

心音さんが椅子の背にもたれかかり上を見る。

そして、

アシーナさんは腕を組み、無表情で下を向き考え込んでいる。



演奏が終わったのだろう。

カーリーが手を下ろす。



機械を操作していた男の人がカーリーに話しかけているようだ。

待てを言い渡されているのだろう、カーリーはレコーディングブースから出てこない。

かったるそうに動き回り、そのうち椅子を見つけて座り出した。


マスタールームの3人のミュージシャンとその男の人が、何か話し出した。

ジュンさんはヒートアップしているようだ。


カーリーは、その間も待たされている。

何かやらかしたの?



 結構長い時間待たされた後、男の人がマイクで再びカーリーに話しかけている。

カーリーは椅子から立ち上がり、ベースを肩から下げたままレコーディングブースから出てきた。



すかさず、私は駆け寄り、カーリーに尋ねた。


「何かあったの?

何かやらかしたの?」


カーリーは肩を竦める。



カーリーはいつもと違う。

その表情は、いつもの不思議ちゃんで、人の目も見られない程の人見知りのカーリーじゃない。

どうとでもなれと腹を括り、不敵な表情さえ浮かべている。


ミュージシャンのカーリーの顔だ。




男の人がマスタールームのドアを開け、カーリーは中に入っていった。

マスタールームのミュージシャン達が、椅子に座り、腕を組み、カーリーに鋭い目を向ける。

ただ一人アシーナさんだけは、カーリーの目も見ずに考え込んでいるように見える。


カーリーは立たされたままだ。

斜に構え、片手をポケットに突っ込んでさえいる。

その生意気な態度が、他のメンバーを一層駆り立てる。



ヒートアップするジュンさんと心音さんの声が、時々聞こえてくる。


「どういうつもりなの?」

「自分だけ目立とうってわけ?」

「台無しじゃない」


 しばらくすると、アシーナさんが顔を上げ、男の人に椅子を用意するように指示したようだ。

レコーディングブースに椅子を取りに行って、再び戻ってきた。



 私は、その時書類を落としたふりをして、ドアにハンカチを挟んだ。

マスタールームのドアは閉まりきっていない。

会話の内容はよく聞こえない。

でも、アシーナさんが対立するカーリーと他のふたりの間に入り、色々と説得しているようだ。


そして、男の人にレコーディングした曲を流すように言った。

例の曲が、ドアの小さな隙間から聞こえてきた。



ーMiyukiー




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る