足りない音色ー15

 耐えきれなくなったカーリーが、コントロールルームから早足で出ていった。

俺は、後を追った。



 カーリーは、煙草を手に練習場の外にいた。

手が震えて、ライターの火を付ける事すらできないでいる。


「煙草やめたんじゃなかったのか?」


「いつもレイちゃんが、郵便受けの中に煙草隠してる」


俺は、カーリーをそっと後ろから抱きしめる。

全身の震えが伝わってくる。

カーリーの手に自分の手を添えて、煙草に火をつけてやる。


震える手で煙草を吸い煙を吐くカーリー。


「ルーは怒ってる」


「だろうな」


「私が怒らせた」


「そうだな」


涙を落とすカーリー。


「お前は、イメージを植え付けるために、ルーにあの曲を聴かせたのか?」


「それは違う。

どうしても聴いて欲しいっていう衝動が抑えられなかった」


「ルーのプライドとかは考えなかったの?」


「考えたよ。

傷付けるかもしれない、怒らせるかもしれないって思って、散々迷ったよ。

自分のイメージを押し付けることになるんじゃないかとも考えたよ。

それでも、聴いて欲しい気持ちが抑えられなかった」


「それなら、しかたないじゃん!

そうしないといられなかったんだろう?」


「私たちは、もう終わり?」


「それは、ここからのお前ら次第だろう」


「私は、ルーを失った?」


「でも、ルーは負けてなかっただろう?

最後の言葉覚えてるか?

自信満々だっただろう。


ルーはいつもはあんなだけど、俺たちなんかに負けない経験と信念を持ってる奴なんだよ」


「今日、私は色んな物を無くした」


しゃくりあげて泣くカーリー。


「それは違う。

ルーとお前はほとんど喧嘩しない。

でも、今日ふたりに亀裂が入ったとしてもだ、お互い唯一無二の存在だろう?


俺たちの事もそうだ。

あの頃に戻ることはもうできない。

でも、そこで培われた物が俺たちの中には残っている。

俺はこの呪縛を解かないと、先に進めないんだよ。

カーリー、お前もだろう?」


「私のこと嫌いにならないでね!」


「その言葉は嫌いだな」


「私のこと捨てないでね!」


「もっと嫌いな言葉だな」


ロンドンでの最も危なかしかった頃のカーリーが出てきた。

それだけ、今日のことは、カーリーにとって狂おしいほどに胸を痛める出来事だったのだろう。


「俺は、お前を愛している。

レイちゃんもだ。

バンドメンバーとか、友情とか、恋愛とか、そんな物で計れる何かじゃない。

もっとそれ以上の何かだ」


カーリーが振り返って抱きついてきた。


「キモいよ、ショウくん」


くそっ!


「でも、ありがとう」



ーShowー


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