深夜のコンビニで、優等生なS級美少女に出会した件
残飯処理係のメカジキ
プロローグ 深夜のコンビニ
あぁ、腹が減った。
平日なのに、深夜に起きた男の一言目だった。
原因は今朝方まで何十時間もぶっ続けでゲームをしていたことなのだが、今更親に対しても学校に対しても言い訳のしようがないことを悟った一ノ
ここで知り合いだの学校の先生に見つかれもすれば大変厄介なことになるのだが、育ち盛りの健全な男子高校生にとっては、『一日何も食べていない』という現状の方が到底受け入れ難いもので、気がつけば、すっかり真っ暗になった外に繰り出していた。
近くのコンビニは歩いて数分もすれば着く場所にあるので、これから食べ物を手に入れることができるワクワクに胸を躍らせながら、少しばかりスキップ踏みつつ、その入り口が見えるところまで来た、というところで、コンビニから丁度出てきた人物が夏向の視界に入った。
夏向が通っている秋ノ宮高校にて有名な人物である。
しかも同じ学年で同じクラス。
黒色のサラサラとしたストレートヘアに、少し赤みがかった茶色の瞳。肌は透けるように白く滑らかであり、整った鼻筋も相まって、可愛いというよりかは綺麗という印象を抱かせるような美しい容姿をしていた。
その圧倒的な容姿に加えて、テスト及びスポーツの成績は学年トップレベル。
おまけに学級行事ではリーダーシップを発揮してクラスをまとめ上げたりとコミュニケーション能力もずば抜けているし、言葉遣いも優しい?というか、丁寧。
話し方や普段の仕草も凛としていて、高貴な印象。
もうここまで完璧だと、異名がつけられるのも時間の問題で………。
四月に入学してから二ヶ月で、『女神』だの『天使』だの『妖精』だの、とにかく彼女の存在を表現するための名称を日々模索しているのが校内男子生徒の現状だ。
そんな優等生な少女が、こんな夜更けのコンビニにいるのは珍しい……いや、優等生な彼女のことだから、何かしら理由があるのだろうか。
が、無駄な
雛坂結希という少女は有名な人物であるため夏向は認知しているが、彼女としては、特に有名でもなければ秀でているわけでもない空気のような存在である夏向のことなど知るわけでもないからだ。
ここで詮索しようものなら、『そもそもあなた誰?』とか『変な人がジロジロ見てくる』とか、『とりあえず通報ね』とか言われかねない。
だからこのまま、何食わぬ顔ですれ違うべきなのだ。
少し顔を伏せながら、コンビニへと突撃していく夏向。
当然彼女は夏向のことなど気にも留めないままそのペースを乱さずにこちらに向け歩き続け…………ることはなかった。
驚くべきことに、彼女は夏向の予想に反し、まるで彼を待ち構えるようにその場に立ち止まったのだ。
「は?」
と、思わず声を漏らしてしまう夏向。
伏せていた顔を上げ、彼女の顔を視界に捉える。
彼女もまた、その美しい瞳で夏向を見ていた………というか凝視していた。
そして、少し考え込むような表情を見せた後、口が動く。
「こんばんは、一ノ瀬くん。こんな所で奇遇ね。今日は学校に来ていなかったみたいだけど、どうかしたの?」
「……なっ!?」
存・在・を・把・握・さ・れ・て・い・る………だと。
流石はクラスをまとめ上げておられるお方だ。
個人の名前は勿論、学校での現状に関してもある程度の情報は手に入れているらしい。
これは素直に受け入れるべき事案だ。
「あ、朝から体調が悪かったんだよ……」
適当な理由をつけて誤魔化す夏向。
が、その姿は優等生の彼女からすれば、嘘をついていると分かりやすい態度だったのかも知れない。
「……ふぅん」
と、ジト目に呆れ顔。
その表情から、『オメェ何嘘ついてんだ?あぁ?ちょいと顔貸せや』という彼女の心の声が伝わってくる(夏向の妄想)。
「ま、いいけれど」
勝手な妄想でたじろぐ夏向を
そして、右手に持っていた鞄からとある封筒を取り出すと、夏向の前に差し出してくる。
その封筒には、担任の筆跡で「一ノ瀬」と書かれていた。
どこからどう見ても、休んだ分のプリントだ。
「はいこれ」
「……………ども」
お礼まがいの短い単語を吐きつつ、素直に受け取る夏向。
その封筒を、こねくり回すように観察して、一言。
「なんで君がこれ持ってるの?」
「担任の
「なるほど。改めてありがとう、雛坂さん。でも断ってくれても良かったのに」
「断る?」
不思議そうに首を傾げる結希。
何か変なことでも言っただろうか。
彼女のその反応に軽く違和感を覚えながらも、夏向は言葉を続ける。
「いや、大変だったでしょ?雛坂さんの予定だってあるのに」
「まぁ……あなたの家の呼び鈴を何度も鳴らしたのに、誰も出なかったのは大変だったわ。何故か郵便受けもないし」
「…………本当にごめん」
「別に気にしてないわ。帰る途中に少し寄れる程度の距離だったし……ってなんでそんな梅干しの種みたいなシワクチャな顔をしてるの?」
いやぁ……だってさ。
こんな有名人にプリントを自宅まで届けさせた上に、当の本人はガチ寝をかまして気付かなかったですぅ、なんて事、同学年のみんなや全学年の男子生徒に知れ渡ったら本当にどうなることか。
まぁフルボッコにされるのは当然のこと、最悪裏山とかに埋められかねん。
ここは漢らしく、誠意を持ってその旨を伝えるとしよう!!
「このことは誰にも言わないで…………下さい」
「言わないけど……何で敬語で涙目なの?」
「何でもなんですぅ………」
「そう」
全然漢らしくなかった。
むしろ、駄々をこねる赤子のような表情でのお願いだった。
まぁ、結果オーライだったのでヨシ。
「ところで、雛坂さんはこんな時間に何してるんだ?」
「んん?まぁ、遅くまで用事があったから、その帰りに寄っただけよ」
「こんな遅くまで……用事か」
チラッとスマホを確認すると、今は夜の十二時過ぎ。
夏向のような生活リズムが狂っている不真面目少年にとっては今が絶好の活動時間であるのだが、彼女のような優等生にとって、いくら遅くまで用事があると言っても、出歩くような時間帯ではない、と思うのだが。
しかも女子高生一人で。
「あなたも人の事言えないじゃない。こんな時間にコンビニなんて」
「朝から何も食べてないんだ、仕方ないだろ?冷蔵庫は全滅してるし……」
軽く言い訳をこぼす。
いや、本当に家に何もなかったんだよ。
基本的に、僕は放任されているから。
父親の姿はここ数年は目撃していないし、母親も店の経営で自宅には殆ど帰ってこない。
つまり今の一ノ瀬夏向には、自分で買い物に行く以外に食料を得ることができないののだ。
「どんな生活してるのよ」
「……ほっとけ」
「ふぅん……まぁいいわ。山寺先生に頼まれていたプリントも渡したし、私はこれで」
「あ、あぁ。ありがとな」
スタスタと駐車場の方に歩いて行く結希。
はて?誰かを待たしていたのか?
彼女は、夏向の立っている場所から一番近い車の助手席の窓の側で止まる。
すると、窓が開き、会話が始まった。
暗くて見えないが、おそらく保護者だろう。そりゃこんな優等生でS級美少女を一人で深夜に外出させるわけがないか。
その様子を横目で見つつ、本来の目的であるコンビニへと再び歩き始める。
彼女と会話してから何十分も経過していたせいか、もう空腹に耐えられないとばかりにお腹が悲鳴をあげる。
と。
コンビニの扉に手を掛ける。そんな時だった。
再び雛坂結希がこちらへと歩いてくる。
ずんずんと、早歩きで。
えぇ………。僕まだ何かしたかな……。
そんな心配をする夏向の右横で、彼女はまた立ち止まる。
「や、やぁ。雛坂さん。まだ何か用?あ、山寺先生からの伝言とか?」
「…………」
え、無言。
怖い、怖いヨォ。
やっぱり優等生の彼女にプリントを届けさせた罰が下るのかなぁ。
カタカタと震える夏向。
そんな彼を他所に、彼女はガバッと夏向の右手首を掴んだ。
そして歩き出す。
彼女に釣られるように、夏向も歩き始める。
コンビニとは正反対の方へ。
「ほ、本当に何?」
「あなた、朝から何も食べてないって言ってたじゃない?」
「うん、言ったけど」
「なら黙ってついて来なさい」
「うん?話の意図が全く分からないんだけど」
「ご馳走してあげる」
「はぁ!?」
「何?要らないの?」
「うぅぅぅ………要ります」
一瞬、奴ら(同学年のみんなと全学年の男子生徒)の恐ろしい顔が見えたが、今は空腹で死にそうだ。
背に腹はかえられぬ。
こうして不真面目少年は、深夜のコンビニで出会した、優等生なS級美少女について行くことになった。
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