番号109

 そんな部長の恐怖には本当に共感できないものだろうか?

 僕も感じていたはずだ。


 何か、大きな動きに巻き込まれていると。

 そして、その中心にいるのは――鶴城美穂という女性だ。


 もしかして僕達は……


「ねぇ、ちょっと外に出てみない? 外って言ってもそこの庭だけど」

「え?」

「お互いに、ちょっと頭を冷やした方が良いなって……」


 この暑さを抱いたままの夏の夜では逆に茹だってしまうかもしれない。

 でもそれでも……


 いつしか部長の――葎仙さんの手が僕の手に重ねられていた。

 

「それとも、飲んでみる? 喉元を過ぎるまでは冷たくて良い気持ちよ」


 葎仙さんは見上げるようにして、僕にグラスを差し出す。


「喉元を過ぎると……どうなりますか?」

「熱いわ」


 葎仙さんは真っ直ぐに僕を見て、そう答えた。


「何もかも忘れることが出来るほどに熱い」

「それは……魅力的ですね」

「二人一緒なら、もっと忘れることが出来る……」


               ◇


 そして僕達は、全てを忘れるための夜を過ごした。

 翌朝になるまで、鶴城美穂という女性がいなくなっていることに気付かないまま……


ノーマルエンド

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