前日譚 少女の半端ない裏事情?
安全な場所で自由に暮らしたい……絶対かなうはずのない夢で妄想だった。
現実の因果律と世界の理で……永遠に交わることがなく定まらない境界線。
どこかで聴いたメタな思考に逃げたくなる状況は現実感がないだけだと思う。
それでも同時に浮かんだ純粋な想いは『運命の人がいるなら傍に行きたい』
状況とタイミング次第で時空とセカイまで交錯してねじ曲げる未来予想図だ。
ダンジョンは日本に八ケ所生まれた。それでも世界の総数なら六十四か所。
ちょっとだけ違う歴史を経て国境線が異なる北日本帝国の首都は樺太になる。
ロシア連邦が実効支配する北海道と北方領土は社会主義で自由を認めない。
目端の利く者は合法的に境界線を超えようと生命を賭けてまで運命に抗った。
ダンジョンを創造した誰かの思惑に便乗して意志の力で未来を切り開ける。
「いよいよ念願の三十二層……うまく意思を伝達すりゃぁ本土に跳べるんだ。
長いながい道のりだったがよ激レア。水魔法使い嬢ちゃんのおかげだよなぁ」
言葉とは裏腹に下卑た笑いとクネクネ動かす気色悪い手のひらにあきれた。
オッサンから三下扱いで身体の頑丈さしか秀でた部分がない二人もおバカだ。
二十五層で手こずるぐらい種なしロクデナシの男たちは本来なら用がない。
ちょっとラクしたいと利用させてもらったけれど最初から下心は見え見えだ。
考えないヤツから先にいなくなる……それがダンジョンの掟で理だからね。
こっそり背後を移動したつもりだろうけどデカい図体が隠れる場所はない。
うす暗闇が定番で一本道を奥に進むしかないダンジョンは洞窟型迷宮構造だ。
国家が差配する探索者協会に所属する人間なんてピンキリだから仕方ない。
斥候を自称する癖にノロマなカメのオッサンは足元から絶対零度に固める。
「うぎゃっ」カエルみたいな呻き声にジタバタする両手の動きは救いがない。
顔面からつんのめるオッサンを見届けることもせず背後に水球の目つぶし。
絶対零度の水珠を頭上からリアルに浴びたおバカたちは声もだせず昏倒した。
暴れるとうるさい男たちは足先を固めることで身動きできないようにする。
平凡な水魔法しか使えないと信じるようなおバカに生きる価値はないんだよ。
くだらないつまんないバカみたいでどうしようもない男しかいない世界だ。
三十二層の奥で待ち受けたボスがヒト型だからわたしとの相性は最高すぎた。
結局のところはオッサンとおバカな二人の助けなんていらなかったみたい。
「カミサマかしんない。こんなわたしでも運命の人がいるなら傍に行きたい」
意図したわけじゃなく強いお願いじゃない。頭で浮かんだからつぶやきだ。
【少女ノ要望デ解析ト演算】いきなり脳内に声?【解析ガ終了デ時空ヲ転移】
こんなことしらない聴いたことがない現象はなに。わたしどうなっちゃう?
【転移先ガ別次元ノ大阪ダ】本土に行けちゃう?【再転移ハ七日内デ迷宮奥】
なんでこんなことになったの。いきなり不思議な七色光に全身が包まれた。
たぶん瞬きもできないぐらいの一瞬で……周囲が下町の路地裏に変わった。
長く使われていない酒屋さんみたいなお店の前にガラスが割れた自動販売機。
わたしの現出と同時に七色光は消え宵闇からひんやりとした明け方になる。
「いるいるいる……マジこんなとこいるよ。光とともにやってきた女の子?」
「光とともにやってきたとかお前バカじゃん。ウルトラマンエースじゃねえ」
よくわからない漫才をくり広げる三人の若い男たちはかなり派手な見た目。
どこかなよっとした雰囲気の十代後半だけど長い髪が赤青金でかなり派手。
信号機みたいと笑っちゃいそうだし着崩したスーツは珍しすぎる原色なんだ。
「とにかくこいつを連れてきゃいいんだろ? どこだっけ京都のどっかまで」
「えぇっと京都駅の近くにある店……だったと思うんだ。イマイチわかんね」
わたしとは正反対に見える褐色肌を持つ男は純粋な日本人じゃないだろう。
褐色の手のひらで細い左二の腕をつかまれると強引すぎる力に引きずられる。
もちろんダンジョンじゃないからスキルを使えない。か弱いお子ちゃまだ。
ほんとは成人を迎える十八歳になったばかりだけど……ってそれは関係ない。
男女の違いによる腕力差で抗う術もないからより細い路地に連れこまれた。
いつの間にか夜は空け暗い周囲に人影なんて見えないからどうしようもない。
かなり旧型らしくけたたましい排気音とジャリジャリ路面から伝わる摩擦。
猛スピードで前方から迫りくる扁平な車体は真っ黒だけど大きくは見えない。
呆然と見つめるだけの黒い車両がかなり減速して青髪男の尻にツッコんだ。
声もだせずにいきなり目の前から吹き飛ばされた男は起き上がる気配もない。
「なにしやがるクソ野郎っ!」前でカエルみたいに跳び跳ねた金髪男が叫ぶ。
ヒョロっとした赤髪は運転席に駆け寄るなり開いた前扉にぶつかり転げた。
「ぐえ」ガラスに頭をぶつけてわめくひょろいおバカは笑いを誘う滑稽さだ。
「お前らマジにおバカばっかだな。ミナミの路上で誘拐とかシャレなんねぇ」
黒い細身パンツにチェック柄のチョッキ。目立つサングラスと右手に拳銃。
二メートル近い背たけでも細いバネみたい。白い素肌の金髪は自然体だった。
一見した感じで年齢が想像つかない。たぶん二十代後半の日本人じゃない。
見つめるしかないピンチに颯爽と現れたヒーローが運命の人かもしんないね。
トゥンクと聞いたことのない音が心臓から響いた……いや弾けた気がする。
それでもわたしが生まれた世界じゃないことを考えて行動する必要がある。
魔法スキルをダンジョンで使えちゃうだけで大した取柄がない普通の女の子。
急激に体温まで上昇した気がする。運命は自らの手でつかみとるしかない。
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