住所不定元バーテンのラリー車で魔女と目指そう広島ダンジョン。助手席ちゃん魔法少女だよ（汗）

第6話 ショッピングと神戸牛？

　夕闇が迫る時間帯を迎えてホテルの裏口からフラフラと繁華街を目指した。

蒸し暑さを意識するジメジメとした梅雨はまだまだ先で夜風が素肌に染みる。

　オレは黒いチップ＆デールに細いスラックス。まくった黒シャツは長袖だ。

十八時に予約済ステーキハウスはドレスコードに肝要だからラフなノータイ。

　輝くネオンに興味津々のリリを見下ろしてブティックが先かなと考え直す。

「そのワンピースお気に入りかもしれないが流行のデザインから外れすぎだ」

　厳しい言い方になるのは一端の男として許容できない本心だから仕方ない。

　チェシャ猫を追いかけるアリス時代なら分相応でも令和の世に微妙すぎる。

「とりあえずセンター街のブティックが先かな。着心地いい服でも捜そうか」

「あれあれぇ。ジロウくんらしさがないんだけどきれいなお洋服なら歓迎よ」

「神戸牛のステーキハウスを予約した。手荷物が邪魔になるけど正装なんだ」

　散策と呼べるほどの距離はないが当座の目的地を三宮センター街に変更だ。

　ウインドウ・ショッピングしつつお店を探しディナーに向けたお召し変え。

ちょっとだけオシャレな若年向きの高級ブティックで総取っ替えしちゃおう。

　若さを感じさせない店員にお任せして着替えを終えたリリは深窓の令嬢だ。

派手じゃなくオシャレすぎないギリギリのラインを攻めたオーセンティック。

「全体のラインがはっきりするのはアレだけど白い肌にクリーム色がいいね」

　もちろんオレとの統一感が優先でコーディネートされた既製服でも可愛い。

　ちょっとしたオシャレ系イヤリングやネックレスを合わせてお買い上げだ。

　そこそこの諭吉を代償に見た目だけは上品な山手レディが完成体に変わる。

「晩飯はステーキ専門店。溶ける神戸牛だけどドレスコードは肝要なんだよ」

「ガストで食べたチーズのハンバーグより格段に美味しかったりしちゃう？」

「あんなニセモノと比較するのが大間違い。もちろんお値段で十倍差がある」

「ちょちょっと待って。ハンバーグと焼いた牛さんステーキそんな違うの？」

「ハンバーグはオージービーフとメキシコ産の豚をミックスした合挽ミンチ。

もちろんあれはあれで美味いけどＡ５ランク神戸牛サーロインは別ものだよ」

　軽い口調で伝えながらリアルで三大和牛を食べた記憶なんて遠い過去の話。

　まぁ実際のところは姐さんに報告しても問題視されない程度のプチ贅沢だ。

仔犬や子猫じゃないけれど拾ったんだから別れる瞬間まで面倒見るしかない。

　標準より痩せた体を抱き心地よくしたい……じゃねぇよ思考がヤバすぎる。

ＪＲより山側になる阪急神戸三宮寄りでトアロードに近い路地裏コスモビル。

　ビルの地下にあるステーキ・ダイニング彩は神戸ビーフが専門の繁盛店だ。

ディナーに使用するＡ５ランク神戸牛サーロインは絶品と客の誰かに聴いた。

　オレはドライ・エイジング処理した神戸牛ステーキの２００ｇを選択する。

乾燥熟成することで旨味が凝縮されたナッツみたいな芳香とジューシー感だ。

　こだわりがないからスペイン産のスパークリングワインはローアルコール。

もちろん未成年のリリは無難な銘柄の炭酸水。代名詞みたいになるペリエだ。

　口説く対象じゃないが見かけだけは最高すぎる絶品の美少女を墜としたい。

ゆったりした環境音楽が流れる店内は悪くない客層と雰囲気で高級感もある。

　もぐもぐしながら蕩けるように微笑む美少女を前にすると格別のご褒美だ。

ゆっくり進む時間と普段なら食べられない最高のディナーは現実感に欠ける。

　出会いがあればどこかで別れがくるのは必然でもいつになるかわからない。

「欲しいものリストじゃないが靴や服だ。物価の安い神戸でたくさん買おう」

　地下倉庫を追いだされたオレに手荷物なんてないからトランクはガラ空き。

「あんまり目立っちゃうとまずいんだ。どこでもおかしくない安いのが理想」

　それがリリの希望ならお財布に優しい。バッタ物が普通に流通する港町だ。

　質の悪い中国製は別にして数から選ぶならリユース品で十分かもしれない。

サンキューマートやセカンドストリートならいくつかの店舗があったはずだ。

　服飾類と別にＷｉｎｄｏｗｓのタブレット端末とシムカードを入手したい。

オレの訳ありスマホは基本的に常時電源オフでたまにやるメールのチェック。

　酔い覚ましに歩いたセンター街や元町高架下の古着屋を何件もハシゴする。

古着類ならタグを外せれば目立たなくていいが問題は大容量バックパックだ。

　女性向けはロゴの目立つノース・フェイスやフィラ。アネロはヤバいよな。

背負ったままで元の世界に戻れるならハイブランドは色彩面で目立ちすぎる。

　いっそのことメンズの黒いコールマンなら３３リットルがそこそこお安い。

吉田カバンのポーターは全国区になる地場メーカー良品質でも値段は高めだ。

　コールマンはキャンプ用品でトップ・ブランドだから品質と信頼性が違う。

シンプルなデザインの割にフィット感もよくて軽いからリリは大喜びだった。

　古着の類をぎゅうぎゅうに詰めこんだ重さを実感したリリの顔まで歪んだ。

荷物持ちがいるから問題ないしワーゲンゴルフのトランクルームは空っぽさ。