住所不定元バーテンのラリー車で魔女と目指そう広島ダンジョン。助手席ちゃん魔法少女だよ（汗）

第1話 天使が来りて笛を吹く？

――大阪は「ちょっぴり異なる歴史を歩んだ」並行世界と先にお断りします。

この社会と密接しながら触れない裏の出来事を紡いでお伝えする物語です――

「キャアァアァァァッ！」少女らしい絶叫が夜明けのミナミ路地裏に轟いた。

　夜の帳を引き裂くような女の叫びが木魂すると夢中にいた意識は浮上する。

　頭で理解する前からアクセルをベタ踏みで悲鳴の震源に視線をよぎらせた。

二つ先の路地に少女を引きずろうと動く男たちは目立つ髪色で派手なスーツ。

　食いはぐれたホスト崩れかとフロントのガラス越しに状況を認めて検証だ。

明け方でも際立つ小麦肌と長い水色髪はアダムの新人ホスト……サムじゃん。

　ささやかな日常でもいざ終わりの瞬間が見えると人間は頭を抱えるようだ。

古い映画みたいに明日は明日の風が吹けば成り行き任せの人生も悪くないが。

　極東の国じゃ南の最果てになる離れ小島で生まれて母と流れた博多育ちだ。

　顔を見たことがない父は大柄な白人種で屈強な在日米軍の海兵と耳にした。

おかしなヤツだと遠巻きにされた田舎の学校はそれなりの成績で卒業できた。

　過度な期待感を背負わされて上京した進学先は国で一番伝統のある赤門だ。

いろんなことが起こり都落ちしてミナミ三津寺でバーテンダー見習いの生活。

　それなりに楽しくておかしな毎日がマスターの失踪で終わりを告げられた。

　２０２３年５月６日──大阪市中央区三津寺一丁目スナック街が始まりだ。

　五階建て雑居ビル一階の老舗オーセンティック・バーであるトワイライト。

地下に潜むオレを電撃訪問した裏ミナミで超有名な絶世の美人オーナーさま。

　マスターが遺したあぶく銭と黒いワーゲン・ゴルフを手切れ金に託された。

彼女の指示どおりミナミをしばらく離れるように準備した明け方の茶番劇だ。

　最近バカみたいなツキがあった反動からとんでもない状況まで引き寄せた。

結局のところは因果応報で……先の未来なんて誰にも予測できるはずがない。

　適度な減速で女を引きずる男の尻からフロントのフェンダーをぶち当てる。

「なにしやがんだクソ野郎！」カエルみたいにジャンプする金髪男が叫んだ。

　赤髪のヒョロい男が近くまで駆け寄ったから力任せに扉で防御してやろう。

「ぐえっ」ガラスに顔をぶつけて転がるカエルみたいな鳴き声のひょろくん。

　運転席下のダッシュボードからガバメントを探してのっそりと起き上がる。

「お前らマジおバカばっかだろ。ミナミ路上で誘拐なんてシャレになんねぇ」

　イマイチわかんない状況でも住所不定無職になったオレに怖いものはない。

　なんだかんだで流されたミナミに愛着あるし日中クズのパチンコ生活者だ。

クソみたいな環境に育てられたゴミ野郎でも身体の頑強さはそれなりだろう。

　ゆっくり進みながらうずくまって怯える膝を抱えた少女から目が離せない。

　ロリィタには興味ないが無類の女好き。額の汗がやばい速さで止まんねぇ。

ガリガリに瘦せた少女はかなり栄養不足で髪先から素肌まで全身が真っ白だ。

　白黒ワンピースと灰色スニーカーは着古した大量生産品でも普通じゃない。

そもそも人間じゃないような真っ赤な双眸は……アルビノの特徴だったよな。

　学部で後輩だった白のカナちゃん。あっちとは違い彫が深い白人種になる。

一見した感じ中学生より上じゃない……ティーン・エイジャーのお子ちゃま。

「うぇっまさかのジロウさんすかっ？　トワイライトのバーテンダー見習い」

　こっちを見て後ずさる水色髪のクズ野郎はポリネシアン。アダムのサムだ。

　ミナミ生まれの日系としてシンパシーを感じるようで幾度となく絡まれた。

　三津寺じゃ老舗のホストクラブになるアダムは実質オーナーが同じ姐さん。

系列か姉妹店になるか不明だが同伴やアフターに訪れるホストは常連なんだ。

　キャバクラの形態ならイヴ。あっちは同伴のオッサンたちからぼったくり。

「誰の指図とか興味ねぇよ。だがレンさんにチクると首チョンパされるぜ？」

　こちらの顔色を伺いながら隙を見て逃げようと動くおバカたちに忠告する。

「ジロウさん見逃してくれませんかぁ。こいつが客の女に頼まれたんすよぅ」

　泣きそうな顔をしたサムが斜め下でうずくまる赤髪ヒョロ男の頭を抱える。

「おバカですんません。どこかのキャバ嬢に連れてきてって泣かれちゃって」

「オレかんけぇねぇんで消えますわぁ」逃げようと走る金髪に照準を向けた。

　メタリックに輝く右手のコルトＭ１９１１Ａ１ガバメントは黒い自動拳銃。

　もちろん鉛の弾丸は発射できないちょっとした強度がある改造エアガンだ。

「うあっちぃてぇいてぇ」尻を抑えて飛び上がるおバカにいいお注射だよな。

　ギリ法的に許される範囲でパーツ強化してあるが殺傷力はありませんので。

　知能指数でボーダーラインに近いおバカな三人それぞれ日本語に不自由だ。

それでも見た目や雰囲気で優位に立てる縦社会に必要なのは言葉より実行力。

「「「お嬢さんジロウさんっ！　オレたちどアホですんませんでしたぁ」」」

　これが流行りのざまぁってヤツ？　実害ないから告げ口は勘弁してやるか。

　微妙なネタに収束させるエンディングは探偵物語の当時からこんな感じだ。

もちろん工藤ちゃんみたいなベスパの探偵じゃないミナミの元バーテンだよ。