第34話 ストアヌイ
「何をやっておるか! 相手は丸腰だったのだぞ!」
戦士長が叫ぶ。
私と
背の高い
対して私は長剣を勢いに任せて振るう。
一撃をいなして相手の腕や太腿に力任せに叩き込んだ。
「上から弩で射るのだ!」
「し、しかし……」
「さっさとやれ!」
この近い距離での弩による撃ち降ろしは板金鎧など容易に貫く。
「――魔法か!? 今代の勇者は魔術が使えないのではなかったのか!」
実際にそう言う魔術はある。
何にしろ、
「……使え」
「――勇者殿の戦い方は裸剣術だからな」
裸剣術――つまり
成人までは先程まで彼女が見せていたような剣術を叩きこまれていたはずが、化け物相手では通用しなくなった。そのために私は最初の頃の戦いで苦悩したのだ。
ひとり、またひとりと両手剣で打ち倒していった。
「な、なぜだ、相手はたったの二人だぞ。加護も無いただの飾りの勇者が……」
戦士団は既に半数ほどに減っていた。鎧が
「いったい、どういう考えでこの暴挙に出たのか教えて貰おうか」
私は戦士長に問うたが、返事は無かった。
「――必ず聞かせてもらうぞ」
目の前の戦士の斬り下ろしを
呆けている戦士をよそに、今度は右側から肉薄してくる戦士。剣を打ち合わせ、
今の私には篭手も鎖のミトンもない。両手剣を細かく突いて使うには適した防具が無い。それゆえ刃を掴めず、大振りで多くが振り下ろしになる。そこを狙ったのだろう。先ほど手斧を投げてきた男は何とか私の一撃を躱し、踏み込んできた。切り上げは間に合わないと判断し、咄嗟に握り手を
「嘘……だろ……!?」
先ほど蹴り飛ばした男が起き上がってくるが、現状におののいていた。
起き上がってきた男に――やるのか?――と切っ先を向けて問うと、男は逃げ出していった。
「さてどうする? 二対二だ。悪くない勝負だと思うが」
戦士長に問うと、傍らの男は武器を取り落とし、駆け出した。
「あっ、おいっ!」
最後の味方が逃げ出し、独りになる戦士長。
戦士団の矜持は無いのかと砦で問われていたが、この男には欠片も無かったようだ。
戦士長は降伏した。
「どういうことか聞かせて貰うぞ」
◇◇◇◇◇
砦の領兵も投降させ、落とし格子を上げさせた。
「
「……
戦士長を締め上げると、どうやら領主代理たちと共謀して先の潰走を私の責任にしようとしたらしい。実のところその通りではあったので私としては何とも言えないのだが、戦士長は領民である
その後、荷馬車の御者は領兵のひとりに任せ、私は自分の馬を駆って領境の町へと戻った。町まで戻ると、町を守る兵士が何事かと驚いていたが、――勇者を亡き者にしようとした――と伝え、牢に入れさせた。その際、身分を保証してくれたアシスは目を丸くしていた。
◇◇◇◇◇
「まさかヤツら、そんな暴挙に出るとは」
「それ以前に団長、よくご無事で……」
「その戦士が並外れた
「しかし、それにしたって……」
「団長、もしかして加護が戻っておられるのでは?」
「いや、それは無い。以前のような
「え? 私じゃないですよ? そもそもあれは半刻しか持ちませんので常にかけておくような魔法ではありません」
「いや……だが、弩の
「
私はもうひとつの可能性を思い浮かべた。
だがそれはあり得ない。だって
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『堕ちた聖女は甦る』でも度々出てきた鎧のゲージ数は現在の軟鋼シートの厚みをベースにして、実在の鎧の厚みの記録や鎧の作り方の本を参考にしています。エリンの国の板金鎧の胸当ては14ゲージ(2mm弱)が標準です。国内にも残ってる南蛮胴みたいなものに比べてずっと薄いはずです。
――というわけで、ラヴィーリアは戸惑いながらの地味な戦闘でしたが、今回は自信のある二人でしたので、めいっぱい(?)派手にした地味な戦闘でした!
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