第5話 決戦
「あれは何!? キモチワルい!」
ルシアが叫んだその先には、輝く槍を持ってビタビタと這いずり回る、立てば身の丈はおそらく十尺はあろうかという巨大な人型の化け物がいた。化け物は体の表面に神殿で見られるような聖なる文字の羅列を包帯のように纏っていた。頭や腕から垂れ下がるその文字の羅列は人型本体の黒さとは反して光を放っていた。
「あれは
「何ですって!? それは間違いないの!?」
目の前で這いずり回っている
「ああ、間違いない」
「ウィカルデにはとても見せられない……」
ウィカルデたち
「相手が何だろうと構わん、まずは排除しろ!」
前線を維持する
「兄さん、いけます!」
オーゼの指示で
「任せる! いつでもいい」
オーゼが言い終わるが早いか、ルシアは
「……こりゃ味方に当たらなくてよかったわ」
全てが終わってそうボヤいたのは
「そのために自封してるのよ、わかんないの?」
ルシアはこの四年で少々扱い辛くなっていた。この強大な力を持て余していることも理由のひとつではあったが、長期間、オーゼが単独行動を取ることが多くなったのが主な理由だった。そしてそのオーゼはと言うと……。
「大丈夫なの? 魔力が尽きた?」
彼は肩で息をしていた。本来ならば魔力を体力に回すことで、我々は長時間、疲れ知らずで行動できる。特に加護持ちならば常人の及ばぬほどの連戦が可能だった。それが最近……いや、オーゼはこの四年を通して徐々に弱くなっていた。他の三人は経験を積んで強くなっているというのに。
そして彼はほとんど魔法を使わなかった。
「これが
「戦侍女は天界で神さまに仕えているのではないの?」――ルシアが問いかける。
それに答えたのはオーゼだった。
「ああ。戦侍女はおそらく神に引き摺られて地上に堕ちたのだ」
「どういうこと!?」
オーゼは何かを知っているような口ぶり。彼と彼の
「勇者でなくては魔王は葬れない。当たり前だ。オレの推測ではおそらく、この先で待ち受けるのは堕ちた地母神ルメルカそのものなのだ」
「地母神が魔王になったとでも言うのか!?」――ジルコワルが驚きを隠せずにいた。
「そうだ。でなければこの国全てが瞬く間に魔王領に堕ちるなんてことは考えられない」
「どういうことだ……いや何が起こればそんなことになると言うのだ……」
「それはわからない。だが、国を作った神が魔王になったと言うなら、その国の民が支配の下に置かれると言うのは納得がいく。兵士や民までもが尋常では無かった」
「でもオーゼ、あなたは領主たちを説得したのよね」
「ああ…………」
オーゼに逡巡が見え隠れする。私には珍しく見えた。
「――少なくとも領主たちが魔王から離反したことでその領地の兵士や民は正気に戻った」
「領主は神の代行者として領民を預かるとかいう誓いを立てるが、まんざら迷信というわけでも無かったのだな」
私はジルコワルの言葉に頷いた。ただ、そんな仕草もオーゼは気に入らなかったのだろうか、眉を顰めて私を見る。そんな嫉妬をしている状況ではないと言うのに。
◇◇◇◇◇
私たちは神殿の奥へと進んだ。さすがはこの強大な国を治める地母神の神殿だけの事はある。広い回廊は馬車が何台も並べられるような幅、高い天井には巨大ないくつものドームが形作られていた。回廊の先には通路の幅いっぱいに広がる黒い壁のようなものが見えた。最初は武器を掲げた兵士の一団が居るのかと思っていた。だがそれはそんな生易しいものではなかった。
すかさず
ルシアは怯まず
「何よ……何なのよあれは……」
怯えるルシア。ルハカを始め、
「全団前へ! ここが死に時だぞ! 止めろ!」
ロージフが声を上げると
「障壁を並べろ!
オーゼの号令に
オーゼは不意に一団を離れこちらにやってくる。そして――。
「中央一本、ブチ抜けエリン!」
オーゼが声を掛け、私の背に触れる。
――瞬間、オーゼの魔力が流れ込んできた。
オーゼは今まで隠し持っていたのか、強大な魔力を私に託し、
「
輝きを増す私の手の中の聖剣。
込められた魔力は光の柱のように聖剣を変えて行く。
そして接触。
視界の端で、
それでも
次々と際限なく振り下ろされる剣。
耐える
隙間を駆け抜けて振り降ろした聖剣は
不意の事だったため、何名かがその飛び散った剣や腕の一撃を受けて倒れた。巨大な怪物は両端三分の一程を残して物の見事に飛び散った。飛散による損害は想定以上に大きかった。ルシアやルハカと傍に居た魔術師たちはオーゼが障壁で守ったが、それ以外の者の多くは負傷していた。
だが進むしかない。こうしている間にも、魔王は次々と化け物を産み落としているかもしれないのだから。再び
「動ける者は来い。魔王は目の前だ」
慎重を旨とするオーゼも今回は口を挟まなかった。彼も状況は理解している。
そしてオーゼとルシア、ルハカと魔術師たち、ジルコワルと幾人かの戦士たちが私に続いた。
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派手なんだか何なんだかわからない戦闘ですね!
個人的にどんでん返しがあまりに長く続く戦闘って冗長で好きではありませんので、決まるときにはスパッと決まります。消耗戦とかも面倒なので文章だけで飛ばすことが多いです。
次回、『魔王』です。
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