未来世界のモノノケガール

希依

プロローグ  月光に舞う

   プロローグ


 少女は笑っていた。

 ステップは軽やかに、踊るように。

 細い腕がくるりと回るたびに血しぶきが上がる。


「―――!」


 断末魔の叫びとともに仮面をつけた女たちが肉片と化す。

 どろりと濃い粘液が床を音もなく流れ、少女の足が無遠慮にそれらを踏みにじる。

 ナイフが月光を浴びてきらりと煌めく。

 それも一本だけでなく、数十本。

 まるで凪いだ海が輝いているかのようだ。

 少女を取り込んだ仮面の女たちが一斉に刃を振り下ろす。

 しかし、それらよりも先に、少女の黒い角棒のような何かがナイフの中に飛び込む。

 圧倒的な質量の差。

 ニュートン力学の奴隷たちはその不条理な現実を受け入れるしかない。

 為す術なく、小さな少女の暴力の赴くままに。


「―――!」 


 死はいつだって唐突だ。破壊はいつだって虚しい。消滅はいつだって無惨だ。混沌はいつだって何もありはしない。

 だから、この世に生まれたどんな存在でさえも手を伸ばすのだ。

 生きたい、と。


「お姉さま、私と踊りませんか?」


 白い、月光の生まれ変わりのような少女がにっこりと笑う。

 前髪からちらりと覗く瞳は虹色に煌めく。

 伸ばされた手のひらは歪み、少女がこよなく愛する色と同じ色をしたワンピースは20世紀の前衛絵画のように汚されていた。


「こんなにも、世界は美しいですわ」


 ―――ああ、そうか。そういうことか。


 もう一人の、死体同然の少女は妙に納得してしまったのだ。

 このマトモなものなど何もない狂気そのものの世界のなかで。



 高度に発展した科学技術が”魔法”とほとんど変わらないのなら、

 それらによって変質してしまったヒトは、

 妖精や悪魔、あるいは”モノノケ”の類と変わらないのではないか?



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