不思議なバイク
佐須浦からどうするのだろうと思ったら、県道二十四号を北上するのか。これも結構な山道だ。二車線のところもあるけど、山に入ると一車線じゃないの。それもまあクネクネと、
「ワインディングロードや」
「楽しいでしょ」
バイク乗りはワインディングロードが好き・・・らしい。きついカーブをいかに颯爽と走り抜けられるかでバイク乗りの腕がわかるとか。
「そういうとこはあるな」
「まっすぐの道も嫌いじゃないけど、バイクでカーブを曲がるのはクルマより難しいじゃない」
クルマより難しそうなのは御意だ。バイクはクルマと違ってハンドルだけで曲がるものじゃない。どっちかと言わなくても自転車に近くて重心移動で曲がるものね。カーブに適した重心移動を行わないといけないのだけ初心者がきついカーブでやると、
「アリス、もうちょいスピード落さんと無理や」
「その速度なら、もっとバイクを倒しこまないと、さっきみたいに膨らんじゃうよ。そんなところに対向車が来たらお陀仏になっちゃうよ」
下手なのは認める。だってまだ初心者だもの。カーブへの速度調節も不十分なところはあるし、車体を倒しこむのも怖い。だけどだけどだよ、アリスだってこれぐらいのワインディングなら走れるはず。道路が狭いのは嫌だけど。
今の問題はどうしてあの二人はあんなに速いのよ。それも腕のせいだけとは思えない。だってだって、あの二人のコーナリングは走り屋ものじゃない。ごく普通に減速して、ごく普通に車体を倒してるだけにしか見えないもの。
つうかコトリさんにしろ、ユッキーさんにしろ基本は安全運転だ。マナーの良くないバイク乗りがやる、信号待ちとかで停まってるクルマの左側をすり抜けたりはやる素振りさえないもの。
「狭い日本、そんなに急いでどこに行くや」
「マッチ一本、火の用心だよ」
火の用心は関係ないだろ。バイクの性能だって大差はないはずだ。細かいことを言いだしたらキリがないだろうけど、エンジンの馬力も同じぐらいだし、車体重量だって誤差の範囲ぐらいしか差が無いはず。
なのにだよ、振り切られて置いて行かれそうになんるんだよ。アリスが一番後ろなんだ。だからカーブに突っ込む速度はあんまり変らないはずなんだ。なのにカーブを曲がり終わった後の加速が違い過ぎる。
これはカーブを曲がる時の速度がアリスが遅すぎるのだと思って、速度を上げて突っ込んでみたんだよ。それがあのザマだ。でもそうしないと見る見る置いて行かれそうになっちゃうんだよね。だからと言って突っ込めば、
「危ないで。そんなんしとったら壁に突っ込むか、海に飛び込むか、対向車の餌食になってまう」
「ダックスはレーサーじゃないのだから、無理は禁物よ」
それはわかってるのだけど、普通に曲がったらコトリさんたちに置いて行かれそうになてしまうってなんなのよ。これがAT車とMT車の差なんだろうか。そう言えばこっちが四速で向こうは五速のはずだから、それがこんなに差になるとか。
「コトリ、もっと気を付けてあげないと」
「ああそうやった。小型バイクとツーリングなんか久しぶりやもんな」
「しまなみ海道の時以来かな」
へぇ、マスツーするときは中型とか大型とする時もあるのか。よく付いていけるものだ。でもきつい坂道はやってないよね。
「う~ん、志賀草津道路は走ったな」
それって日本国道最高地点があるところじゃない。
「磐梯吾妻スカイラインとか、鳥海山ブルーラインもマスツーだったよ」
鳥海山ブルーラインは知らないけど磐梯吾妻スカイラインは有名な絶景コースだ。でも物凄いヘアピンの連続のはず。
「近いところなら三方五湖レインボーラインの時もそうやった」
レインボーラインで一緒に走ったのがトライアンフのロケットって、化物みたいなバイクじゃない。どうして小型でついて行けるのよ。いや、頂上での待ち合わせだったとか。
「あいつら、よう付いて来れたな」
「さすがは大型と思ったよね」
はぁ、話が逆でしょ。よほどペースを落としてもらわないとマスツーなんで出来るはずがない。原付二種は免許が取りやすいし、原付一種より速度とかがが厳しくないし、維持費も安上がりで車体も小柄だから人気はある。
だけど走りになると大型は愚か、中型にも敵わない。高速が走れないのもハンデだけど中型や、ましてや大型とマスツーは下道でも辛いとこがあるのよ。こういう登りのワインディングになると苦しさの塊になるもの。
「アリスもようわかってるやん」
「車体が小さいのは小柄な女の子にはメリットだけど、非力だからハンデはあるからね」
でも話ながらわかったのは、コトリさんたちは小型なのに、もっともっと早く走れるみたいなんだ。それも腕じゃなさそうだ。いや腕もあるだろうけど、たとえば小型と大型なら腕なんかでカバーできない性能差はあるもの。そうなるとカスタムしてるとか。
「ちょっとはな」
「女の子向けに少しだけね」
なにしたんだろう。
「とりあえず軽量化よ」
「つうか軽量化も、ここまでやったらやり過ぎや。風が吹いたら飛んできそうやんか」
えっ、えっ、えっ、たったの二十キロしかないって、電動ママチャリ並じゃない。あのね、オリジナルは軽いと言っても百キロはあるのよ。そりゃ、それだけ軽かったら速いだろうけど、そんなものどうやったら出来るのよ。
「馬力も少し上げとる」
「ホントは違法改造になるから、これは秘密よ」
二十キロへの軽量化だって違法だと思うけど、パワーアップの理由ぐらいはアリスでもわかる。ボアアップだ。キットも市販されるものね。
「惜しいけどボアアップやないねん」
「エンジン換装なの」
へぇ、エンジンを換えてるのか。でも見た目はオリジナルのままじゃない。
「そう見えるけど三百七十五ccやねん」
「そうじゃないでしょ、五百六十三cc換算よ」
なんだって! それって大型のエンジンじゃない。あっ、担がれた。そんな無茶苦茶な軽量化とエンジン換装なんて出来るはずがないじゃない。もしやろうとしたら、カスタムとか改造なんてレベルじゃなくて、バイクをエンジンから作るようなものじゃない。
「バレたか」
「コトリがエンジンの話なんか出すからよ」
もう、油断もスキもあったものじゃない。だけど不思議な点もあって、前輪が二重ディスクなんだよね。あんなカスタムみたことないもの。それに大型すぎるオイルクーラー。初めて見た時に水冷エンジンかと思ったぐらいだもの。
それより何よりビックリさせられたのがセルじゃなくなぜかキックもあったけど、燃料タンクが二つあるのよ。オリジナルのタンクと別にシート下にもあるんだもの。
「ああそれか。とにかく燃費が悪うてな」
「これだけ積んでもアリスのダックスに勝てないのよ」
それは見た。横目で見てたけど、アリスのダックスの二倍ぐらいガソリン入れてたものね。そのくせ、ダックスより給油タイミングが早いもの。だから何らかの方法でパワーアップはしてるのだろうけど、
「ダックスの性能とアリスの腕前はだいたいわかったから、もう無理させへん」
「ツーリングはトコトコ派が王道よ」
あのね、ダックスならトコトコしか走れないの。
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