乗り継ぎ

「朝日が綺麗だね」

「フェリーから見る日の出は格別や」


 アリスに言わせればやっと日の出だよ。四時過ぎには起こされてまずは朝シャン。


「朝は風呂やってへんからな」


 着替えて荷物をまとめて朝食に。


「第二便やったら朝食バイキングやったのにな」

「軽朝食でもあるだけ感謝よ」


 ここまで済ませてデッキで朝日を見てるのよ。名門大洋カーフェリーは、


 第一便・・・十七時発 → 五時半着

 第二便・・・十九時五十分発 → 八時半着


 ツーリングに使うならどちらでも良いのだけど、


「今日は乗り継ぎせんとアカンからな」


 そこ、そこなのよね。乗り継ぎ便は、


 ・零時五分発 → 四時四十五分着

 ・十時発 → 十四時四十五分着

 ・二十二時半発 → 三時二十五分着


 この三便があるけど、


「だいたいやな、四時四十五分とか三時二十五分に着いても困るだけやんか。トラックの運ちゃんにはエエのやろうけど、ツーリングやったらどないせえ言うんよ」


 そういうこと、出航時刻もあんなんだから、途中で仮眠を取るにも中途半端なのよね。消去法で十時発になるのだけど、


「博多まで二時間でもキツイねん。ナビで八十キロぐらいあるからな」


 十時発と言っても、九時にはフェリーターミナルに着かないといけないものね。新門司に行くだけなら神戸からなら阪九フェリーもあるのよ。でも新門司に着くのが七時十分なの。


「着岸した瞬間に出発出来る訳やあらへん」

「三十分は見ておく方が無難なのよ」


 それは実際にフェリーに乗ってみてよくわかったもの。だからわざわざ大阪南港から名門大洋フェリーの第一便に乗り込んだってこと。


「高速を走れたら阪九フェリーでもギリギリ間に合うた可能性もあるけどな」

「高速走れても渋滞があったら微妙よ」


 平日だものね。


「車両デッキに下りるで」


 荷物を積み込んでスタンバイ。順番が来てランプウエイを渡って新門司上陸だ。


「この瞬間は何回やってイイよ」

「そやな。そやけど、今日は市街地突破や」


 新門司からは県道二十五号、さらに国道三二二号を南下して行く。田川からは国道二〇一号で博多に。


「渋滞がこれぐらいで済んで助かったわ」


 ずっと先導してくれたのはコトリさんだけど、なにが凄いってツーリングの標準装備のナビを載せてないのよね。


「ナビは便利やし、コトリも休憩中に使うけんど、ナビに縛られたらおもろないやん」

「そうだけど、だからしょっちゅう迷子になる」

「どこがしょっちゅうや」

「しょっちゅうじゃない」

「それならユッキーが先導せえ」


 あの二人はしょっちゅう口喧嘩みたいになるけど、ホントに仲が良さそう。


「どこがや。ホンマに相性悪いんやで」

「そうよそうよ」


 でも息は本当にピッタリ。もうそろそろだと思うのだけど、


「あそこのタワーのあたりよ」


 ホントだ、タワーがある。


「次の信号をベイサイドプレイスの方に行くで」

「らじゃ」


 博多にもこんなタワーがあるんだ。博多ポートタワーって言うらしいけど、


「右のビルみたいや」


 壱岐、対馬、五島フェリー乗り場って書いてあるものね。ここからの手続きは。


「そんなもんターミナルビルで切符買うて乗るだけや」


 ウェブでも予約は出来るフェリーも多いそうだけど、このフェリーのバイクは先着順なんだって。ここから対馬を目指すのだけど、


「トラックの都合だと思うけど、ツーリングにはホンマに使い辛いよね」

「フェリーもフェリーやで」


 博多から五時間足らずで対馬に着くのは良いとしても、どうもこの時間がネックみたいで、


「フェリーでメシ食うとこあらへんねん」


 十時に乗り込んで十五時頃には下りるフェリーだから、お昼はフェリーになるのだけど、なんと食堂がないのよね。まあ他の便なら時間帯的に必要ないと言えばそれまでだけど困るのは困るのよ。


 そうなると弁当の持ち込みを考えるけど、十時出航で九時にはフェリーターミナルのタイムスケジュールがネックになる。こっちだって新門司からタイトなスケジュールで走って来てるから、朝からやってる弁当屋を探して買うのは大変だもの。


「そやから二階に行くで」


 これは喫茶店みたいだけど、なるほどテイクアウトのお弁当を売ってるのか。


「ミックス弁当」

「牛やき肉弁当」


 アリスはチキンカツ弁当にした。このビルも年季が入ってるけど、喫茶店も相当だ。喫茶店と言うより食堂みたいにも見えるけど、


「昭和の喫茶店や」


 食事メニューも充実してそうだから、ここで食べたいけど時間が早すぎるのよね。せめて弁当を待つ間にコーヒーを頂いて、乗船待ちの駐車場に。名門大洋フェリーに較べると、


「なんとなく場末感があるな」


 コンテナの間みたいなとこだものね。待つことしばしで乗り込み開始。なるほどコンテナもフォークリフトで積み込むのか。ある種の貨客船みたいなものかもしれない。船室に上がると、


「こんな船でも一等とか二等指定があるんやな」


 アリスたちはタダの二等だけど、


「夜の便が多いさかい仮眠をとるためやろ」


 船室は椅子席と雑魚寝部屋がある感じだ。船は・・・


「年季が入っとるな」

「サイズは明石の国道フェリーぐらいかな」

「そんなもの誰がわかるか! たこフェリーぐらい言うたれ」


 それってどこのフェリーの話なんだ。五時間足らずの船旅だけど、近いような遠いような。


「そやな、佐渡島に行くのが二時間半ぐらいやったな」

「隠岐で四時間半ぐらいだったから同じようなものかな」


 佐渡島や隠岐まで行ってるのかい。なにか感覚がおかしくなりそうだけど、対馬って隠岐ぐらいの距離感なのか・・・と言われてもさっぱりわかんないけどね。そうそう九州郵船のフェリーも対馬への直行便もある。、


「ああ二十二時半出航で三時二十五分着のやっちゃ」


 なんだよね。それがトラックに便利なんだろうけど、どうにも使いにくい。壱岐経由も博多発以外にも唐津発もあるんだよ。今日は博多から壱岐経由で対馬に向かう便だけど、


「十四時四十五分着もホンマに使いにくいんよ」


 フェリーを下りたら十五時だものね。そんな時刻に下ろされてツーリングスタートと言われても、


「今日は宿まで行って終わりや」


 どこかを見て回るにしても時間が中途半端過ぎるところがあるものね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る