第6話 〜第5世界〜
気づくと俺と全能神は新しい世界に飛んでいた。
「この世界は妖精というものが住む予定ではあるのですが、それ以外にも多くの生物が暮らすことになると思います」
「そうか。妖精か」
「はい。注意事項としてはこの世界は2面性を持つ世界となっている点です」
聞きなれない単語に反応する。
「2面性ってどういうことだ」
「そうですね」
それではあそこに移動しましょう。そういって全能神に案内された場所に移動する。
足元にぐにゃっとした感触がある。
「ここに膜のようなものが張ってあるんですがわかりますかね」
「あぁこのぐにゃっとした感覚のことだよな?」
「はい。そうです。それでは少しの間、足元見ていてくださいね」
俺は言われた通り足元を見る。先ほどまでは気づかなかったが俺の姿が反射されて写っている。そこでふと違和感を覚える。
……全能神の姿が写っていなかった。
「これはどういうことだ?」
俺は顔を上げて全能神に聞いた。
「……それは可能性の1つです。こちら側と膜の向こうは同じような世界に見えますが、そうではありません。こちらで起こるかも知れなかった可能性があちらの世界で起こるんです。まぁいわゆる並行世界というやつですね」
「本当なら俺はこの世界に全能神と来ない可能性があったってことか」
「はい。僕はずっと休んで情報を整理しなければいけなかったですからね。それは流れ込んでくる情報の1つでもありました。しかし僕はその可能性を捨ててこうして創造神と一緒にいるわけですね」
わかるようなわからないような。全能神は未来まで見ることができるのか。そして変えることもできるのか。
同じ神でもやはり格が違うんだろうなと思った。
「あなたは今私たちがいるこちらの世界を描けば並行世界の方は勝手に選択して進んでいきます。できれば並行世界と上手く付き合っていって欲しいですね。まぁこれは僕のわがままですが」
「そうか……」
上手い返しが思いつかなかった。でも並行世界が常に見えるのってそれはそれで怖いよな。
「あっ!そう言えば新しい機能なにか増えてないのか?」
「そうですね。神格レベル上がってますね」
そう言うと全能神は俺のステータスを確認した。
「能力は……」
なにやらぶつぶつと言っているがよく聞こえない。
「えーっとすいません……神格レベルは上がってるんですが、新しいスキルは描くのと特に関係ないかも知れないです」
「ん?そうなのか?スキルってあんたが決めてるわけじゃないのか?」
「いやぁ僕が決めているわけではないですね。他の神達もいますし、全員分毎回決めるの大変じゃないですか」
ん?そうかと思いながら寝てばかりだったから仕方ないのかとも思う。
「取り敢えずですね、今回は”喜怒哀楽”の妖精達がサポートとして選択できるようになったみたいです」
「あぁ?喜怒哀楽だ?」
「はい、全部で4体みたいですね」
4体ってことは”喜””怒””哀””楽”それぞれが妖精ってことか……。
「試しに呼んでみましょうか」
そう言って全能神は妖精を呼んだ。
俺の正面に4体の妖精が並んだ。
妖精は俺の顔くらいの大きさで、手足は俺の指くらいの長さだろうか。
表情が違うこと以外に見た目は大きく違わないようだ。
おそらく向かって左から”喜””怒””哀””楽”の順で並んでいる。
「えーっと君たちは喋れるのかな?」
俺は優しく話しかけた……つもりだが4体ともビクッと身体を震わせた。
「こらこら創造神。顔が怖いですよ。そんな表情では怯えてしまいます」
いつも他の神と話しているのと特に変えてないのに表情が怖いとは……。
俺は頬が引き攣りそうなぐらいの笑顔を作ってもう一度妖精に話しかけた。
「創造神です。君たちの敵ではありません。……仲良くしてください」
ぷっあははは。
横を見ると全能神が大きな声で笑った。
この神もこんな大きな声で笑うことがあるのか。
それを見た妖精は安心したのか緊張感が和らいだようだ。
「僕たちは喜怒哀楽です。実は創造神が来ることを楽しみにしてました。この世界はあなたにもできないことがいくつかあるので、それを僕達がサポートします」
喜がそう言うとみんな俺を見た。
俺はひとつだけ気になっていることがあった。
「キミ達服装も全く一緒だけど、俺が色をつけたら怒るか?」
手伝ってもらうなら顔をわざわざ見ずとも見分けられる手段が欲しくそう提案した。
喜怒哀楽は不思議そうな顔をしたが喜が「いいですよ」と言った。
俺はどういう配色にするか悩む。やっぱりわかりやすい色の方がいいのか?それともこいつらに好きな色聞いてみるか?
「そもそもキミ達は色の認識はあるのか?」
俺は絵を描く時の色見本のパレットを開いて色を見せる。
「うわぁすごーい」
「僕これがいい」
「キラキラしてる」
みんな楽しそうにしている。
「気になる色があったら教えてくれ。一旦それで染めてみるから」
すると哀が1番最初にこれがいいと色を教えてくれた。
「おっ。いいな」
喜と怒も決まったので希望の色に染める。
しかし楽だけはなかなか決まらないようだ。
「大丈夫か?」
「色何個か選んでもいい?」
予想外の質問に「あぁいいぞ」と答えた。
「じゃあ」と言って妖精4体の色が決まった。
並べてみると喜から「黄色・赤・青・虹色」といった順番になった。
楽だけ色の圧が強いが、目立つからいいか。
「これでいいか。楽みたいに何色か使いたいなら今ならまだ変えてやれるぞ」
しかし意外にも他の妖精は自分で選んだ色を気に入っているのか変更したいというものはいなかった。
「よしそれじゃ世界創造始めるか」
喜怒哀楽にも確認するとみんな服に色がついたのが嬉しいのかどことなく醸し出す雰囲気が温かい。
「全能神はそろそろ帰るのか?」
「いえもう少しだけここをみていこうと思います。気づけばあなたが世界を創るところを見てませんでしたから」
「あっ、そうか。まぁどうぞ」
すぐに帰るものだと思っていたので、返事がしどろもどろになってしまった。
並行世界ということでこの世界の50%は並行している世界なので他の世界よりは描く範囲が狭い。
俺は早速ペンを取り出す。並行世界との境界に描けるのか試してみた。
バチッ。瞬間ものすごい衝撃が走りペンが飛ばされた。
妖精達は驚いていた。全能神はこうなることを知っていたかのようにいつも通りの穏やかな表情でこちらを見ていた。
境界には描けないことは理解した。
さて何から描き始めるかな。
妖精達が近づいてきた。
「花をたくさん描いてくれませんか」
妖精といえば自然。なるほどそう言われるとしっくりくるな。
「OK。花な。なんでもいいのか?」
「はい。たくさん必要なのでお願いします」
俺は芸術神が花を描いていることを期待して、素材サンプルを開く。
おっ!さすがだな。
俺はその場で芸術神が描いてくれた素材をひたすら具現化させる。
妖精達は自身の羽を使いあちらこちらに配置しに行ってくれる。
どうやらこの世界では俺はこの場所で絵を描くだけで、配置とかは妖精が行ってくれるようだ。
なんて楽な世界なんだ。
俺は具現化することだけに特化する。
しかし素材サンプルは一定数出すとしばらくクールタイムが入る。いくつもあった花の素材サンプルのその全てがクールタイムに入ってしまった。
妖精達がまだ設置し終えていない花がたくさんあったので少し休憩していようかと思ったのだが、意外にも妖精達は皆機敏に動くようで、あっという間に花が減っていった。
だいぶ減ってきた時に怒が近寄ってきて「まだまだ花が足りません。草花でもいいのでもっと描いてください」と言って去っていった。
「まじか」
確かに具現化された花はどこへいったんだというくらい見渡す限りまだ何もない世界だった。
俺は花をいくつか描いてみた。これをコピーすれば一気に花を創り出せる。
コピーしようとしていたその時、楽が近づいてきた。
「おっ?楽どうした?」
「それはなんですか」
俺の描いた花を見て言った。
「花だぞ」
「そんなの花ではありません」
いやいやいくらなんでも、頑張って描いた俺にそんなこと言うか?
「創造神は僕たち、暮らす生物のこと考えてないですよね?」
「えっ?そんなこと初めて言われた」
いやそもそも今まで生物なんていない世界だったから、言われなかっただけか。
そういえば最初の世界は俺の絵が下手すぎて芸術神が一新したんだった。
「なぁ全能神。もしかしなくても俺は」
絵が下手なのかと聞こうとしたが、それは新たな登場人物によって遮られた。
「下手だぞ。創造神の絵は。まぁ最初の頃よりは大分上手くなったと思うけどな」
芸術神がいた。
「まぁお前はものを生み出すのが本当の役割なんだからそれでいいだろ。そこに修正をかけていくのが、私や命与神、知恵の神の役割だしな」
「えっ。もしかして」
もしかしてだが、そう言うってことは今まで俺が描いてきた世界は修正されてきたってことか。
「もしかしても何も創造神。見てきてないのか他の世界。とは言っても」
芸術神はまだ何かを言っていたが、俺には芸術神の話が入ってこなかった。
1つ目の世界については目の前で変えられていたが、他の世界まで変えられていたなんて。俺の努力はなんだったのだろうか。俺は今まで何をしてきたのだろうか。
俺は持っていたペンを折った。
「ごめん。もう描くの辞めるわ」
俺はやる気を失った。
一生懸命描いた絵を……。造った世界を……。世界創造よろしくねと全能神に言われてからどうにか描いて、ここで5つ目の世界……。
ため息を吐いた。その一瞬で先ほどの場所から転移したようだ。
「あーそういえば転移できるんだっけ」
いつもは転移してもらっていたので、初めて自身の力で転移した。
ここがどこだがわからないが、近くには誰もおらず、この不貞腐れた感情と向き合うにはちょうどよさそうだった。
心地のいい潮風と、空を飛ぶ鳥。
その心地よさに俺はただただぼーっと横になり見つめた。
どうして俺には絵心がないんだろうな。
考えることにすら疲れて目を閉じた。
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