みんなでパーティー
昼少し過ぎから、テッサード家の広間で立食形式のパーティ。
メロディの希望で、エメルやノイシャ、例の誘拐事件の時に救出に駆けつけてくれた国境守備隊の面々、それに本来は関係ないのだがナタリーやクロフォード姉妹、オーレリーまで出席。
とにかくみんなで賑やかにパーティーで結婚を祝おうということだ。
真紅のカクテルドレスのローザさんを発見。身体の線がよく分かってエロい。
「今日は意外と露出が少ないですね」
「あら。そんなに気にかけてもらって嬉しいわねえ」
オーレリーが昨日買ったエメラルドグリーンのドレスで登場。
「すぐ次の日にドレスをお披露目できるとは。セーラの言う通りだな。しかも料理も酒もうまい。ここは天国だな、デレク」
「あんまり羽目を外さないでよ」
ローザさん、オーレリーを見てビクッとなった。
あ、しまった。
「ちょっと、デレク」
ローザさんにグイグイと引っ張られて部屋の隅へ。
「デレク。あたし、あの人のこと知ってると思うんだけど」
「あー。うー。えー。そのー。」
「もしかしてメディア・ギラプールじゃないかしら」
「……覚えてました?」
「覚えてるに決まってるじゃない。あたしは死にそうな目に遭ったし、エイドリアンの従者は死んでるのよ?」
うーむ。急にパーティーに出席しようってことになったからうっかりしてた。
ローザさん的には、目撃した殺人犯が目の前にいるという状況なわけだ。
「そうですよねえ。……で、どうします?」
「そりゃあ、縛り上げて処刑台送りにしたい気分だけど、なんでここでのんきに、しかもメロディの披露宴に出てるのかしら」
「ちょっと説明しますね」
会場を見回してセーラとリズを呼ぶ。
「そうだったわね、あたしもうっかりしてたわ」とセーラ。
「セーラとリズも承知の話ということ?」
「実はそう」とリズ。
俺からローザさんに説明を試みる。
「まず、まだ一般には知られていないと思いますが、エスファーデン国王が数日前に崩御しました」
「へえ。確かに知らないわね」
「ゾルトブールの内乱に介入したり、例の大使館の事件を指示したのは国王なんです。メディアはマミナク地方を取り戻す正義の戦いだと吹き込まれて戦わされていたらしいのですが、例えそうであっても大使館を攻撃するのは犯罪に該当します」
「そうね」
「本人も最近、国王の悪事に気がついて、エスファーデン本国で盛大に内情をぶちまけて出国してきたんです」
「はあ」
「本人はゾルトブールやラカナ公国に捕縛されて裁かれることも覚悟していたようです。で、すいません、ここから俺の独断なんですけど」
「なんでそこにデレクが出てくるのかしら」
「彼女を極秘に出国させたのが俺だから、なんですけど」
「はあ? 何でよ」
「まず、彼女はあまりに有名なので、現時点で捕縛などされると、一切の悪事の責任を押し付けられて一連の騒ぎの幕引きをされる可能性が高いです」
「それは確かにありそうな展開ね」
「それから、内乱をはじめとするさまざまな悪だくみの背後にはデーム海諸国と、デルペニア海賊がいます。それらと対峙することを考えると、彼女は切り札のひとつとなりうる存在です。彼女の断罪なり処罰は、それの後にするつもりでいます。傲慢と言われても仕方ありませんし、事件に関係した人たちの理解が得られないかもしれないことは承知の上で、彼女を今、監視下に置くという判断をしました。ちなみに今はオーレリーと名乗っています」
「ふむ」とローザさん、ちょっと考えてから言う。
「あのさ。地下室からあたしたちを助けてくれたのはデレクだよね」
「えっと……」
「あ、まあ聞いてよ。デレクが何か裏でやってるのは感じていたから、そのことのために必要と考えたなら、感情的にはちょっと納得できない部分もあるけど、デレクのことを信じることにするわ。だから、細かいことは詮索しないけど、あたしを裏切るようなことはしないと約束してくれるかしら」
「もちろんですよ。今まで裏切るようなことはしたことはありませんし、これからも決してしないと約束します」
「うんうん。ま、あの事件のお陰でエイドリアンといい感じになれたし、悪いことばかりではなかったと思うことにするわ」
「ローザさん、リズと最初に会ったときのことを覚えていますか?」
「ええ。よく覚えているわよ。今だから正直に言うとね、なんか人間離れした変な子を連れてるなあ、って思ったわ」
「あとでケイから、ローザさんが俺たちのことを信頼しようって言ってると知らされて、俺、うれしくて。あの時から、ローザさんには全幅の信頼を置いています。本当に有難うございます」
「あら。そうなの。……分かりました。これからはより一層、互いに道を踏み間違えないようにやって行きたいものね、デレク」
「よろしくお願いします、ローザさん」
セリーナのそばにいたケイが、我々が隅に集まって何かしているのに気がついてやって来た。ケイは、前に俺と出かけて買った黒いドレスを着ている。腰からのラインがピッタリしていて、何度見てもいい。
「あら? 姉さん、今日はおとなし目なのね」
「まあ、今日の主役はメロディだからね」
「みんなで何やってんの?」
するとセーラが言う。
「デレクがちょっとやらかしたので、みんなで文句を言ってたのよ」
「へえ。どうせ女の子がらみでしょ」
「ははは。ケイは鋭いなあ」とリズ。
そこへナタリーがやって来る。
「ローザさん、ケイさん。ガパックの件ではお世話になりました」とナタリー。
ナタリーは急に出席することになったので、いきなりドレスというわけにいかず、しかし清楚な感じのワンピース。
「あれ。ナタリーさん、こっちに来たんだ」とケイ。
「ええ、聖都のお屋敷で働かせて頂くことになりました」
「そっかあ。あたしもあの屋敷には時々顔を出すから、よろしくね」とローザさん。
「はい」
「時々顔を出す? 住人みたいに3食昼寝付きで過ごしてますよね?」
「ははは。やだなあ。温泉の件を進めてあげようと思ってるのになあ」
「あ、あれはどうなりました?」
「うん、サメリーク家の出入り業者が今度現地を調べてくれることになったよ。その結果が出てから具体的な開発方法を決めることになるわね」
「そうですか、よろしくお願いします」
ローザさん、ナタリーを見ながら言う。
「しかしナタリーさん、パーティーに出るならあたしのカクテルドレスを貸してあげたのになあ。ほら、サイズもほとんど一緒だったでしょ?」
「いえ、そんな」
「あたし、結構エグいの持ってるから、それ着たらデレクを悩殺できちゃうかもよ」
「え、いえ……」
「姉さん、何言ってるのよ」
ちらっと見たら、オーレリーはあちこちのテーブルの料理を堪能しまくっているようだ。エメルとノイシャの監視が付いているものの、あまり抑止効果はない模様。
ローザさん、その様子を見ながら俺に聞いてくる。
「なんか一種独特な人だけど、どんな感じ?」
「一般常識がちょっと欠如してますけど、根は素直というか、そうそう、さっきメロディの式に参列したんですけど、感動して涙をぽろぽろ流してましたね」
「へえ。意外ね」
「ローザさんのこと、伝えておいた方がいいですか?」
「いえ。あっちは気づいていないみたいだし、あたしもどんな人なのか観察させてもらうことにするわ」
「分かりました」
新郎のクリスさん、新婦のメロディが挨拶に回ってきた。
「デレク様。本日は有難うございます」
「クリスさん、どうして毎朝、東邸にコーヒーを飲みに来るのかと思いましたよ」
「あはは。いやいや」
メロディがセーラに言う。
「次はセーラの番かしら?」
「うふふ。そうなるといいわねえ」
クリスさんがローザさんに言っている。
「ローザもそろそろ考えた方が良くないか?」
「え? そうねえ。今度チャンスがあればダズベリーに連れてくるわ」
クリスさんに聞かれる。
「デレク様はエイドリアン殿と面識がおありとのことですが……」
「ええ、かなり切れ者の上にイケメンでねえ。ちょっと嫉妬しますね」
「あら、デレク。あたしに未練があるなら今からでも遅くないわよ」
「姉さん、何言ってるの」
相変わらずな感じの会話で和む。
ふと見ると、クロフォード姉妹が所在なげに二人きりでいるので、リズと一緒に近寄って話しかける。
「ごめんね、誰も知らない所でちょっと戸惑うよね」
「いえ、ご馳走が大変おいしいです」
「聖都に行ったことはある?」
「いえ、初めてです」
「ラカナ市もかなり大きい街だけど、やはりこの近くの国の中では聖都、レキエル中央市が一番大きいし、色々なお店があるよ」
色々話をしてみると、商人の家の子なので、金融のことをある程度知っているようだし、計算なんかもちゃんとできるようだ。
ローザさんを呼んで相談。
「この二人の家は、ラカナ公国で
「そうなの? えっと複利計算って分かる?」
「はい」
「手形割引はどうかしら?」
「はい、知っています」
「いいわねえ、これは有望よ」
「メイドの追加要員で考えていたけど、そっちの方が向いているかもしれませんね」
「ええ。あたしはまだダズベリーでサグス商店の仕事があるから、聖都に帰ったらチジーに相談してみてくれる?」
「とりあえずレイモンド商会で雇用することになりますかね?」
「そうね」
「そうなると、結局は泉邸に住み込みかな」
レイモンド商会の建物ができるのは来年の予定。チジーも現在は泉邸に仕事部屋を構えている。そこの手伝いだな。
「そっちの方が、おなじ年頃の女の子がいっぱいいていいと思うわよ」
「そういえば、クロチルド荘のRC商会には誰か雇うことにしたんですか?」
「ええ。試験的に2人。店番というか、手紙のやり取りや、商品の在庫管理みたいな簡単な作業をしてもらってるわ」
「練炭はどんな感じですか?」
「ふふ。なかなかの手応えね」
「それは何より」
ケイに「ダガーズの指輪」を渡しておく。
「え、あたしはセリーナ様の護衛だからそれほどの魔法が使える必要はないと思うけど」
「新しい魔法のすごい所は、ストレージが共有できることなんだけど」
「だから?」
「聖都で俺が新刊を買って、ダズベリーでケイが取り出す事ができます」
「デレク。ありがとう」
「どういたしまして」
オーレリーの件を除けば、パーティーは楽しく和やかに終わり、参加者は皆、にこやかな笑顔で会場を後にした。いい結婚式だったなあ。
夜。ゾルトブールで、1日に新体制の発表が行われると言っていたのを思い出して『耳飾り』のチェック。
【ウマルヤード監視】 Y8qbb3T6
▽: ゾルトブール王国の新体制について発表があった。これまでの連合王国体制は継続するが、国王はスートレリア王国の女王であるメローナ1世が一人で兼ねる。
▲: それは以前から聞いている。新しい情報はないか。
▽: ゾルトブールとスートレリアには、それぞれ国民の投票をもとに選ばれた議員からなる議会を置いて、その代表者が国を治める方式にするらしい。
▲: 何だそれは。
▽: 詳細は書面で細かく規定されている。とにかく、王族は政治に直接タッチしないらしい。
▲: スートレリアもか? 自ら権力を放棄するとは、意味不明だな。
いやいや、よく分かるよ。君臨すれども統治せずってやつだ。
思い切ったことをするな、メローナ1世とダンスター男爵。
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