ゴーレム戦

 石造りの小屋に入ってみると、宝箱はなかったが、テーブルの上に蓋つきのコップのようなものが置いてある。

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 【無限コップ】


「お、これはいいですよ。蓋をしてからコップをひっくり返すと、コップに水が入るそうです」

 実際にやってみると、確かに水が溜まる。これはびっくりだ。

「いちいちひっくり返す必要があるのか。ちょっと面倒だな」とジョナスは贅沢なことを言っている。

「でも便利」とケイ。


 思いついて提案。

「これは、守備隊に寄付したらよくない? 山の中を捜索して歩き回る時の水分補給に役立つんじゃないかな?」

 カーラがこの意見に強力に賛成してくれる。

「そうだね、それがいいよ。これまでは水系統の魔法で水が出せるあたしなんかが必ず引っ張り出されていたからね」

 全員一致で寄付が決定。


 小屋の中で少し休憩。さっきのコップで水分補給。


 少し離れたところにまた同じような石造りの小屋がある。

 用心しながら近づいてみる。


 扉が開いて、人型のような、奇妙なものが複数体、わさわさと出てきた。

「カカシ?」


 カカシ、と一応呼んでおくが、丑の刻参りで使う藁人形みたいである。そいつらが手に手に鎌と盾を持って襲って来る。

「鎌で刈り取られるのは藁の方だろ?」


 カカシのくせに(?)動きが素早く、こちらの攻撃を盾で防いでくるので、なかなか倒せない。しかも、石造りの小屋から次から次へと新しいカカシが出て来る。


「ファイア・バレット!」

 わらでできた身体に命中すればカカシは燃え上がって消滅するのだが、普通に真っ直ぐに射出すると盾で防がれてしまう。

「面倒臭い相手だな、こいつら」

「ファイア・バレット!」

 マーサもファイア・バレットを懸命に打つのだが、ことごとく防がれてしまっているようだ。


「ファイア・バレット!」

 俺は、わざと少しずらしてゆっくりした速度で撃ち出し、カカシの近くで急に曲がるイメージを思い描く。

 

 命中! カカシは燃え上がった。


 この方法だと着弾までその火球に集中しなければならないので、数をたくさん撃つことはできないが、命中率は格段にアップする。


「あれ? デレク、何そのファイア・バレット」とマーサ。

 国境検問所なんかで一緒に戦闘したことがあるケイやジョナスは知っているが、そうでなければきっと初めて見るだろうな。


「ファイア・バレットは撃ち出したあとで強くイメージすると軌道を変えられるんですよ」

「そんな話聞いたことないぞ」とグスタフさんも知らないようだ。


「もう一回やってみます。ファイア・バレット」

 火球はカカシのそばまで真っ直ぐ飛んで、急に軌道を曲げてカカシに命中。

「え、ウソぉ」とマーサ。

 ジョナスがいつものコメント。

「デレクはこんな風に怪しい魔法を使う奴なんですよ」

 褒め言葉として受け取っておこう。


 次々に現れるカカシをせっせと倒して、やっと終了。

「結局、20体くらいいた?」

「もっといたような気がするけど」

 俺は、結果的に火球のコントロールの練習になったかな。


 さて、小屋の中に入ると、テーブルの上に小さな筒が置いてある。

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 【遠見の筒】


 やった。大当たり。幸運度を上げておいた効果だろうか。


「すいません、これ、俺がもらっていいですか? 魔力がないと使えないようですし」

「いいけど、何?」とジョナス。

「魔法が使える人なら、遠くのものが見えるらしいです」

「え、ちょっとやってみてよ」とカーラ。


 詠唱はどの系統でもいいはずなので、目に当てて、火系統の詠唱を唱えてみる。

「あれ? 何も起こらないです」

「ダンジョンの中だとかえって効果がないんじゃないか?」とグスタフさん。

「その可能性はありますね。外でもう一度試してみます」



 戦闘が終わったので、全員、さっきの調子で、石造りの小屋の中で休憩。

 と、突然、小屋の壁を何かがガン、ガンと強い力で殴りつける。


「うわ!」

「きゃー」


 強い衝撃に耐えられず、小屋が壊れそうだ。

「逃げろ、崩れるぞ」


 女性陣を先頭に、小屋から外に逃げ出す。


 残念ながら、小屋の一番奥に悠然と座っていたグスタフさんが逃げ遅れて、落ちてきた屋根に片足を挟まれてしまった。

「うわ。しまった。あいたた。足を挟まれた」

「怪我は? グスタフさん」

「怪我はしとらんが、とにかく足が抜けん」

 板葺きの屋根が落ちてきた上に、壁だった石材が積み重なってしまっている。


 襲ってきたのはゴーレムだ。

 少し離れたところに3つ目の石造りの小屋があったはずだが、今見ると、ない。


 これまでと同じように、小屋の中に次のモンスターが潜んでいると思い込んでいたが、どうやらゴーレム自体が小屋のフリをしていたらしい。


「ゴーレムが出て来るとはな。デレク、これ持っていけ」

グスタフさんが、例のゴツい剣を差し出す。

「重っ!」


「ゴーレム相手では、打撃を与えるしかないと思うぞ。がんばれ」

「はい」


 ゴーレムは小屋のフリをしていただけあって、デカい。身長は6〜7メートルはあると思われるが、手足は短い。胴体の上に首が付いているが、暗くて表情は見えない。そもそも顔があるのか?

 すでにジョナスが、戦槌を振り回して戦っている。

 俺は反対側に回って、ジョナスと交互に打撃を加える。


 ゴーレムは時々屈んで、短いなりに腕を振り回して攻撃してくる。動作は比較的緩慢なので注意していれば避けることができるが、あれが直撃したら人間の原型をとどめていられるかどうか分からない。


 ゴーレムを倒す伝説的な方法として、額に書かれている文字を書き換えるというのがあるが、このゲームではそんな設定ではないはずだ。えーと、弱点はなんだったかな?


「カーラさん、ゴーレムに水をかけるんだ!」

「え、水? ウォーター・ボールでいいの?」

「頭からブッかけてやって」

「いくわよ! ウォーター・ボール!」


 ゴーレムの頭の上に直径50センチくらいの水の玉が出現し、バシャっとゴーレムの頭と肩にかかる。


 途端に、ゴーレムは動きが鈍くなり、腕で自分の頭を擦るような仕草をし始める。


 俺も、指輪の魔法を起動させる。

「ウォーター・ボール!」

 また頭に水がかかる。ゴーレムは頭を抱えるような姿勢をとる。


「もう一発、行ける?」

「頑張ってみる。ウォーター・ボール!」


 カーラが2発目のウォーター・ボールをお見舞いすると、少し前屈みになっていたゴーレムの背中一面に水がバシャっとかかった。

 何か力が抜けたようになって四つん這いになるゴーレム。


「今だ、ジョナス」

「おう」


 ゴーレムの頭を狙って、ジョナスが戦槌を叩き込む。

 ドガッという凄い音がして、ゴーレムの頭が砕かれた。続いて、胴体にヒビが入り、見る見る身体中がガラガラと崩れて行く。しまいには、細かい砂のように全体がグズグズに崩壊し、最後は微かに光る霧となって消えてしまった。


「やったな、ジョナス」

「おう、デレクが弱点を知っていたおかげだ」

「あたし、もうヘロヘロなんだけど」とカーラ。

 ダンジョンの中では普通、外部で魔法を使うよりも、いわゆる魔力を消耗する。


 俺たちは、崩れた石の小屋で足を挟まれているグスタフさんの所へ駆け寄る。


「マーサさん、さっきの『ヒール』を詠唱してくれるかい?」

「あ、わかった。癒しと献身と光輝の御使いたる……お示しあれ」


 詠唱が終わるや、全員の周りに魔法陣が現れ、不思議と力がみなぎって来る。

「お、これは凄いぞ」

「力が戻ってきた」


 さて、全員の力が回復したところで、グスタフさんの挟まれている足を抜こうとするがどうもダメである。屋根板の上に壁に使われていた石材が重なって重しになっている。


「こりゃあ、壊れた屋根を持ち上げる必要があるな」

「俺とデレクでグスタフさんを引っ張るから、3人は屋根を持ち上げてくれ」とジョナス。


 女性陣3人が屋根板に手をかける。

「よーし、せーの!」

 屋根板は持ち上がらない。

「ほら、デレクは女の子を励まして一緒に重しをのけるんだ」とグスタフさん。

 俺も屋根を持ち上げる方へ。

「よし、みんな頑張ろう! 行くぞ、せーの!」


 さっきより板が持ち上がって、ジョナスが力一杯グスタフさんを引っ張る。

 ズルッと足が抜けた。


「よし、オッケー」

 俺と女性陣が手を離すと、屋根板と石材がドスンと落ちる。


「いやー、助かったよ。ありがとう」とグスタフさん。

「足は大丈夫ですか?」

「あー、ちょっと痛いな。でも右足で良かったわい。もしこれが真ん中の……」


 マーサがギロリとグスタフさんを睨んでいる。絶大な抑止効果である。

 グスタフさん、さっきゲットした治療薬を痛めた右足に塗っている。


「ちなみに、さっきの状況のままで『脱出の指輪』を使ったら、グスタフさんも外に出られたかな?」とマーサ。

「それは危険な賭けですね。下手をしたら取り残されてしまうかもしれませんよ」

「そうなの?」とケイ。


「多分ですけど、一団となって行動できることが、グループとして一斉に脱出できる条件だと思うから」

「もし取り残されていたらどうなる?」

「うーん、最悪、1回死ぬまであのままかな?」

「あははは。グスタフさん、殺しても死ななそうだから、ずっとあのままだよ」

 マーサが酷いことを言う。

「勘弁してくれよ」


 ゴーレムが崩れ去った後に、小さな皮袋が落ちていて、短い棒状のアイテムと金貨が4枚入っている。

「このアイテムは『無限ライター』ですね。空中で勢いよく振ると、先端に火が付くらしいです」

「あ、ちょっとやらせて」とカーラ。


「エイッ」

 野球のピッチャーのように腕ごと振ると、先端にぽっと小さい火がついた。

「多分、そんなに力一杯ふる必要ないです。手首のスナップで行けるはず」


「ほう。……それ」

 手首を素早く動かして、先端に火がついた。ライターというよりマッチだな。ただし、この世界ではまだマッチが発明されていない。

「ああいいわ、これ。これもらってもいいかな?」


 そういうわけで、カーラが無限ライター、グスタフさん以外が金貨1枚。


「ワシだけ痛い思いをして何もなしかあ」

「だってグスタフさんは活躍してないじゃない」とマーサ。


「じゃあ、あたしのホワイトアウトをあげるよ。まだ何回か使えるから、害獣の討伐で役に立つんじゃない?」とカーラ。

「カーラ、優しいなあ。いつまでもその優しい心を忘れないでくれよ」

「ちょっと、何か一言余計じゃない?」とマーサ。


 さて、フロアには多分まだ1つ小屋が残っている。それが攻略できたとして、フロアボスを攻略しないと第2階層からは抜け出せない。


「次あたり、ダンジョンスパイダーが出てきそうな予感がする」とグスタフさん。

「今日はこれくらいで切り上げないかい? 結構な収穫があったよ」とマーサ。

 これに異論はなく、『脱出の指輪』で抜け出すことにする。


「では、みなさんこちらに集まって下さい。……行きます。帰還」


 一瞬、目がくらむような感覚がして、次の瞬間にはもう地上にいた。

「おおっと」


「『帰還の指輪』、壊れちゃったね」とケイ。

 指輪は魔石の部分が粉々に砕けてしまって、石座に爪だけが空しく出ている。

 でも大丈夫。これ、複製品コピーだから。


「ケイ、少しはリハビリになったかな?」

「肉体的にはどうかわからないけど、久しぶりに身体を思い切り動かせたから、感覚が戻ってきた感じだよ」

「それは何よりだ」


「さて、ダズベリーに帰って飯でも食うか」とグスタフさん。

「グスタフさん、あたしにおごるの忘れたらいけないよ」とマーサ。


 帰りの馬車がまた少ししんどいが、今日はなかなか収穫があった。

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