Venus And The SAKURA
モカ☆まった~り
0000 プロローグ
王国歴850年。
人間族と魔族の戦争・・と言うよりも人間族による魔族への蹂躙。
魔王国は戦火に焼かれ住民は悲鳴と共に逃げるが、人間族にあるものはすでに死んでいるのに剣を刺され、女は犯され、子供は首を刎ねられている。
「私に任せて、お前らは逃げろ!」
押し寄せている人間族を相手にしながら叫んでいるのは勇者である。
「勇者様だけを残して逃げることなど出来ません!」
魔王は悲痛な声と懇願の声を上げた。
「いいから行け!」勇者は剣を握りなおしながら、振り返ることもなく指示を出した。
「申し訳ございません、勇者様!」転移魔法で姿が消える。
魔族達が消えるのを確認した勇者は人間族に向かって叫んだ。
「お前たちは戦う相手を間違っている!何故、何もしていない魔族を襲う!」
勇者の絞りだすかのような言葉も虚しく
「勇者が裏切った!」
「裏切者には死を!」
全身に数えきれない数の剣が刺さり、勇者は死んで行った。
女神は嘆き、そして祈った。
「勇者よ。平和を望む者よ。今一度、生を受ける事が出来たなら、せめて貴方の望みを叶えてあげたい…。」
「勇者よ・・・」
ー***ー
西暦20XX年。日本・東京
「部長、お疲れ様です!」
「オウ、お疲れさん!」
俺の名は三ツ谷桜花。大手企業で営業部長の30才。
女のような名前なのだが、俺が生まれた季節は春で病院の窓から見えるサクラ吹雪にインスピレーションを両親が受けてしまったのだから仕方ない。
俺の父親は有名鍛冶職人でいわゆる「刀匠」。日本刀以外は打たないという頑固者で仕事がなくても鉄を打ち続ける。
小さなころに何で仕事じゃないのに鉄を打ってるの?と聞いたことがある。
「毎日、打たないと腕が鈍るんだよ。お前も何かをするようになったら毎日続けろ!きっと役に立つ!」と振り返らずに鉄を打つ職人だ。
鍛冶仕事だけでは生活ができないと引っ込み思案の母親は、何を考えたのか畑違いもはなただしい化粧品販売のパートを始めたのだ。しかし母親は能力開花!あれよあれよと成績を伸ばし、トップセールスレディになった強者だ。
まさか自分にそんな才能があっただなんて!と自信を付けた母親は会社に話を付け子会社を設立、プライベートブランドを立ち上げると、これが大ヒット!本当ならば本社の重役になるべきなのだが、それでは主人の世話ができないと貴重な話を蹴り、今では名誉顧問になっている。
そんな二人に育てられた俺はというと、近所のガキ大将で悪さばかりをしていて、大人に怒られれば屁理屈をこねた上に絶対に謝らない。
嫌な”ガキ”である。
それをを見かねた父親は、嫌がる俺の襟を引きずり剣道場へと放り込んだ訳だ。
父親に畏怖する俺は剣道に真剣に取り組まざるを得ない状況ではあったが、自分よりも大きな相手や大人から一本取るのが快感になり、剣道にのめり込んだ。大学生の頃には師範代の免許も手にするようになっていた。
学歴は・・・大卒なれど1年浪人を経て2流大学にやっとこさ入学。その上、単位が取れず2回落第。と言うのも父親が「男ならばひとつの事を極めろ!」と言う教えが何故か大学時代の麻雀で発揮されたからと言うのが原因。
大学時代の生活は酷かったもんで、アルバイトをしては給料全部を麻雀に使い常に金欠状態。金がないから食生活はインスタントラーメン。外食なんてとんでもない。賄いが食べれるという理由だけで料理屋のバイトをしていたぐらいだ。
独り暮らしの生活も乱れていて、洗濯・掃除はしない、いわゆる「男の部屋」そのもの。はっきりと言えば汚い部屋に住んでいた。
そんな俺は今、大手広告代理店の営業部長をしている。
何故かこの会社に入ったのもイレギュラーで、面接のときに気に入らない面接官(後に全国トップの営業マンと知った)がいたので、どうせ落ちるんだからと反論をしてしまったが故のディベート合戦開始。
俺は母親譲りの口の上手さで、圧勝したのが合格の決め手となったらしい。お母さん、ありがとうございます。貴女のお陰で私は口論で負けませんでした。
最初は地方支社勤務だった俺は、初月から全国トップの営業成績を出し続け、30歳で異例の本社営業部の部長になった訳だ。
社会人になってまず変わったのが「生活全般」。特に部長になってからは、食事は基本外食、それもいい店で。大学時代は良い店と言えば牛丼屋、しかも玉子をつけるのは贅の極みだった。洗濯は毎日のようにクリーニング屋にパンツ一枚からでもお願いする。掃除に関してもハウスキーパーを雇っている。なんでかって?洗濯を自分ですれば、服は縮むしシワだらけになるしアイロンなんて触った事ないし・・・。部屋の掃除なんかしたら、家の物なくなるよ?だって全部捨てればキレイサッパリでしょ?だから人に任せる。
そんな生活をしているのだから、さぞかし独身生活を満喫しているのだろうと思われるのかも知れないが、実は婚約者がいる。名前は玲子。それも会社一の美女と謳われる人と。美人だから正確に難ありかと思っていたのだが、これがまたいい性格をしていて、実に家庭的。結婚した後は退職をして保母さんになるのが夢らしい。
俺の生活は順風満帆だ!ガッツポーズをキメて叫びたくもなる。
さて、仕事も終わったし何を食べて帰ろうかと色々な店を物色していると、急に雑な料理が食べたくなった。要は『ファストフード』である。何故か?それは大学時代、金がない時に散々世話になったから。初心忘るべからずである。
学生の時は今みたいにいい生活ではなかったが、充実感があった。と言うと今の生活が充実してないのかと聞こえるかも知れないが、そうではない。充実の中身が違うのだ。若さゆえの生活が出来てたんだよなぁ〜今の生活を知ってしまうと、もうあの頃の生活には戻れないな、うん。
とにかく今はハンバーガーが無性に、いや、絶対に食べたいのだ!しかしこの近所にファストフードの店はない。どうしよう・・・。「Uberで注文するか〜」。そう決めた俺は家路を急ぐ。
頭の中は、何を注文しようか?定番もいいが、新しい種類もあるな!子供用メニューのおもちゃを部下の子供にやろうか?
これから訪れる幸せを考えながら歩いていると時間の経つのは早いもので、もう家に着いた。
俺が今住んでいるマンションは20階建て。最上階に住んでいる。
「ハンバーガー、ハンバーガー!」マンションの鍵を取り出し、おっとっと、落としそうだぜ!焦る気持ちを抑え鍵穴に突っ込む。
あれ?鍵が開いている・・・確かに閉めたはずだ。今日はハウスキーパーが来る日でもない。まさか泥棒?こんな高い所に?恐る恐る扉を開けると眩しい光と共に女の子の声が聞こえた。
「よく参られた、選ばれし勇者よ!」
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