第16話 天音と崇の始まり。
こんなに心安らぐ食事があった事に八幡天音は驚き、2人でシャンパンを開けても悪酔いも何もない。気持ちが良かった。
ケーキに至ってはホールではなかったが、たくさんの種類が用意されていて「好みを知らなかったから、とりあえず選んでみたんだ。ひと口ずつでもいいし、好きなのが見つかったらそれを食べて」と言われて、お姫様にでもなったような勘違いをしてしまいそうになる。
「参ったよ。アタシの負けだよ。崇、彼女にしてくれ」
自然と言葉が出ていた。
真っ赤な顔で頷く永礼崇を見て、「いいよな?甘えさせてくれ。私も崇に尽くすからよ」と言うと、永礼崇は感極まって八幡天音を抱きしめて「嬉しい」、「大切にする」、「絶対だ」、「幸せにする」と言ってくれた。
八幡天音は「少し時間をくれ」と言うと母親に電話をする。
「母さん?今いい?うん。メリークリスマス。うん。そうなんだ。嫌じゃなきゃ今度会ってほしい。うん。こんなアタシなのに愛してくれる男に会えた。今も横にいてくれてる。想像もつかないくらい大切にしてくれてる。過去を話したのに笑い飛ばすんだよ。今も勉強と仕事とアタシの事も全部やりきってくれるんだ。バカみたいに高いネックレスを買ってくれて、もっと高いのを買いたかったって本心で言ってくれてる」
八幡天音は最後の方で泣いていた。
永礼崇には「良かった。安心した。天音が泣くくらい嬉しいなんてお母さん嬉しい。その彼氏さんと話をしてみたいけど、電話じゃなくて会えた時に話したい」と聞こえてきていた。
八幡天音からのプレゼントは後腐れない値段の時計だった。
「就活で使えるようにだ…です…よ。」
照れた八幡天音は語尾がおかしな事になったが、永礼崇から「普段通りがいいな」と言われて、「お淑やかじゃねえぞ」と返しながら「これならいいだろ?」と言って「つけてみてくれよ」と赤くなりながら言う。永礼崇は「恐れ多いから手を洗って除菌しないと」と言って立ちあがろうとすると、「バーロー!いいんだよ!」と言って八幡天音は癖で殴ってしまう。
慌てて「悪い崇!」と謝ったが、永礼崇は「急に変わらないで。変わるのは結婚して子供が出来てからゆっくり練習して」と言い、八幡天音は真っ赤な顔で「結婚…。子供…」と言った後で、「こんなアタシでも夢見ていいか?」と聞いた。
「勿論だよ。命燃やして幸せにする」と言って微笑んだ永礼崇を見て、八幡天音は「無理だ。我慢できねえ。リードするから受け入れてくれ」と言われてムードもへったくれも足りないセックスが始まる。
ラジオ番組はまた代わり。今年の流行曲を流したり合間合間にパーソナリティーが投稿されたテキストを読み上げる。
永礼崇は気付かなかったが「崇、天音さん。読み上げてもらえたら聞いてるかな?崇は昔からラジオ派だよね。メリークリスマス。とってもお似合いの2人の仲が始まることを期待してる。幸せを願ってる。だからお願い。頑張ってね」と王子美咲が投稿したテキストをパーソナリティーが読み上げて、冬になると永礼崇がよく聞いていた数年前に爆発的に流行った曲をリクエストされていて流してくれた。
「傷だらけのボロボロで悪い。汚くて嫌になるよな?」
予防線のように口から出る言葉。
素肌の八幡天音は暗い顔で言うが、永礼崇は真剣で真面目に「全部で天音だから、この一つも無くなって欲しくないよ」と返して、「天音は俺の身体に変なところがあったら俺を嫌になる?」と聞き返す。
「崇?何言ってんだ?」
「俺の身体が変だったら天音は嫌になる?」
「ならねーよ。そんなクソくだらない事を言うなら、彼女にしてくれなんて言わねえ」
「なら俺と一緒だよ。俺も天音が好きすぎて何もかもが集まって天音だからクソくだらない事は言わないよ」
その後は言葉らしい言葉もなく一晩中肌を重ねた。
八幡天音は永礼崇を比べたらダメだと言い聞かせながら受け入れたがそれは無駄だった。
過去最高だった。
つい「最高」と口にしてしまい慌てたが、永礼崇には「喜んで貰えた!」と喜ばれて「マジ敵わん」と呟いていた。
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