第8話 更生。
その晩の事を、永礼崇は後に悪夢の台風直撃と呼んでいた。
一晩でアクセサリーや不用品をリサイクルショップに売り飛ばされ、その金で真面目な服ばかりを買わされて、タバコにしても「ふかすな勿体無い。吸いたくなったら言え、殴ってやる」と言い出し、本当に一晩中ソワソワすると殴られ続けていた。
翌日、大学は騒然とした。黒髪で真面目な姿に生まれ変わった…、正しくは高校生活の頃に戻った永礼崇が現れて、「おはよう」と後輩達に挨拶をする。
そして横にはあの乱暴者が居て、昨日飲み会を断った後輩に、「聞いてよ萩月くん、永礼先輩ってば、地元に帰った時に友達に説得されてヤンチャを辞めたくて、最後にあの姿で飲み会に行って謝りたかったんだって、私が話を聞いてきたんだよー」と思い切り猫を被った姿で報告をして、度肝を抜かれる永礼崇に『おい、バラしたらコロスぞ?』と心の声と共に殺気を向ける。
後輩の萩月明霞は「え!?そうだったんですか?」と言い、散々泣かされてきた女子達は「え?天音ちゃん…、泣かされなかったの?」とひそひそ声で聞いている。
泣かされたのはこっちだと思う永礼崇は、初めてこの乱暴者が天音という名だと知る。
天音は永礼崇の空気を敏感に感じ取り「永礼先輩?もしかして私の名前を知らなかったんですか?
背筋が凍った永礼崇の新しい日々が始まってしまった。
四六時中付き纏い、タバコを見つけたら「お前、どうせ裸を見せる彼女も居ねえよな?腹パンな」と言われて痣だらけになるまで殴られる。
タバコを吸いたそうにしたら殴られて、「タバコを意識したら痛いと覚えろ、パブロフの犬だ」と言われる。
食生活も見直させられて、バイト先も健全そうなファストフード店に変えさせられる。
そして相田晶との約束の日、永礼崇は渋々実家に行くと、親は泣いて喜び八幡天音に感謝を告げた。
「いやぁ、アタシなんてなんもしてないっすよ」と謙遜する八幡天音に、「お礼をさせて!なんでも言って!」と永礼崇の母が言い、父親も「遠慮なんてしないで、なんでも言ってくれないかな?」と続けた。
その言葉を聞いた瞬間にギラついた八幡天音の目を見て、永礼崇は背筋が凍ったがもう遅い。
「永礼先輩って案外頑固で、ボコボコにぶん殴って矯正したいんでご両親の前でも良いですか?」
よくない。
何を言い出すんだ。
自重してくれと永礼崇は思ったが、両親は泣いて感謝をしながら「好きなだけ殴って!」、「そうだよ!さあ!」と言いやがる。
そして次の瞬間永礼崇は実家のリビングを転がっていた。
「おいクソ雑魚、お前はこんなにもご立派な両親を泣かせて何やってたんだコラ?痛いか?痛いだろう?だがご両親はその何倍も痛く辛いんだぞ?わかったかゴミカス!」
八幡天音は止まる事なく殴る蹴るを繰り返し、両親は止めずに泣いて感謝をする。
「や…やめ、と…とうさ…助け…」と言うと、胸ぐらを掴まれて「ちげーだろ?まず自分のことの前に両親に謝れ、手をついて詫びろ、地面に頭を擦り付けて反省をしろ」と言われて、自宅のリビングで2つも下の女の子にボコボコにされて親に土下座で謝らされる。
親は更に泣いて喜び、御礼がしたいと言い出すと八幡天音はとんでもない要求をしてきた。
「アタシ、料理はからっきしなんですよ。で、永礼先輩も碌なもん食べてないんで、夕飯だけの仕出し弁当とか頼めません?私も一緒に食べて監視しますし真人間にしますんで私の分のご飯もいいっすか?」
よくない。
何を言い出すんだ。
両親よ、図々しいと言って断ってくれと思ったが、それこそ親は是非是非と頼み込む。
「恩返しをさせて」と更に母親が言うと、八幡天音は怖い顔で「いえいえ、私、勉強はからっきしなんで、少し聞いた感じだと永礼先輩は勉強しないでも成績優秀なんで、お世話になろうと思います!」と言って親の前でも永礼崇の肩に腕を回して、「アタシを卒業させろ。わかったな?アタシが卒業するまでお前を躾けるからな。就職先もあっちで見つけろ、アタシが卒業したら転職して良いからな」と言い切られて、永礼崇は「…はい」と涙ながらに返事をした。
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