転生したので憧れのスパイになりました〜暗躍はヤンデレ同僚とポンコツ上司と共に〜

ふぃるめる

プロローグ 同僚とポンコツ上司と。

 なんというか呆気ない死だった。

 高校卒業して、とりあえず将来の安定が欲しいからと親の言葉に従って難関大学へ進学。 

 その後は一部上場企業に就職して、傍から見れば順風満帆な人生だったと思う。

 でもそれは俺のやりたいことではなくて、その生活を選択したがために犠牲にした自分に思い悩むことは多々あって……。

 そしてある日、俺は多分ブレーキとアクセルとを踏み間違えた車に跳ねられて死んだ。

 俺こと桐谷きりや幸樹こうきの二十七年の人生の幕引きは酷く呆気なかった。

 

 「ダーリン、起きてよ♡」


 耳元で囁かれた声に悪寒が走って良い記憶とは言えないまでも懐かしい夢は霧散した。


 「ちょっ、いきなり何すんだ!?」

 「だってぇ〜、無防備な寝顔を晒してるレ・オ・ンがそこにいたんだもん」


 チェリーピンクの髪を後ろで束ねて目の前で笑う同僚の名前はエリーゼ。

 彼女は俺と同じプロシア連邦共和国の内務省における特務機関である憲法擁護庁第一課の同期だ。

 ちなみに憲法擁護庁を構成する部署は五つに分かれている。


‡憲法擁護庁 部署一覧‡


 部署          役割


第一課(Abteilung Ⅰ):防諜及び機密管理

第二課(Abteilung Ⅱ):極右及び極左対応

第三課(Abteilung Ⅲ):国内基本調査

第四課(Abteilung Ⅳ):作戦支援及び情報支援

第五課(Abteilung Ⅴ) : 諜報、政治的攪乱


――――――――――――――――――――

 

 「その名前で呼ぶことを許したつもりは無いんだが?」


 同じ組織とはいえ、相手を騙すことが基本である俺たちは互いの名前は明かさないのが暗黙のルール


 「大丈夫だって!!二人っきりのときしか名前で呼んだりはしないから♡」


 その暗黙の了解をいとも簡単に破ってきたのが目の前にいるエリーゼなのだ。


 「はぁ……いくら執拗かったからって名前を教えたのは一生の後悔だ……」

 「後悔と言えば私もあの夜、避妊具を付けてたことを後悔してるよ?」


 邪気の無い顔で俺を上目遣いに見つめるエリーゼは、サラッととんでもない事を言ってみせた。


 「次は無い、絶対にない……命令されても俺はシない」

 「そんな寂しいことを言っちゃうレオンには、こうだ!!」


 エリーゼは、予備動作も見せずに俺のスボンに掴みかかった。

 やっべぇコイツ、本気だ。

 エリーゼも俺も養成機関で数年に渡り諜報員としての教育をされたその道のエキスパート、体格差はあっても俊敏さと無駄のない身体の動きをみせるエリーゼは簡単には振りほどけない。

 こんな状態、誰かに見られたら暫くは部署内でネタにされるのは間違いない。

 さっさとどうにかしないと―――――。

 焦り始めた俺の耳に聞こえてきたのは、誰かが俺たちのいる休憩室の扉の前に立った音だった。


 「くんくん、風紀の乱れた匂いがするぞ〜?」


 そんなことを言いながら扉を開けて入って来たのは課長だ。

 暫し固まる俺、視線の先で課長はニコッと微笑むがその目はまるで笑っていない。


 「あ、終わった……」


 

 ◆❖◇◇❖◆


 「やはり若い子二人を一緒に活動させた任務は悪影響だったか?」

 

 部屋に入って来たのは淡い青色の髪にスーツ姿の課長だった。

 

 「やっぱり課長だった。足音で分かったよ〜」


 お前、気付いてるのに止めなかったのかよ……。


 「私なら目の前でハレンチな行動してても許されると思ったのか?」

 「ごもっともです……」


 課長に同意すると、キッと課長は睨んできた。


 「だってぇ、疑われないように、交合まぐわえって言ったのは課長じゃないですかぁ?」

 

 当時、俺たちの任務において接触対象だった仮想敵国の領事館職員が面会の場所として指定してきたのは所謂ハプバーだったのだ。

 そこで俺とエリーゼが出会い、怪しまれないように行為に耽りながら、酒と性とで隙だらけになった相手の男の飲み物に隙を見て薬物を入れ昏睡状態にさせ、異変に救急搬送すると見せかけてセーブハウスに連れ込み尋問するという作戦があったのだ。


 「ま、交合えなどとは一言も言ってないぞ!?わ、私は怪しまれないようにしろと言っただけで……」 

 「あれぇ〜、課長さん顔が赤いぞぉ〜?」


 課長は話が苦手なのか茹でダコのように顔を赤くすると、ここぞとばかりにエリーゼは課長を攻め出した。


 「べ、別に私は喪女で処女とかじゃないぞ?け、経験だって豊富だし……お、男を喜ばせるテクだって……」


 男っ気がないとは思っていたけど、喪女で処女だったのか……。

 課長……涙拭けよ……。


 「強く生きて……」


 攻撃していたエリーゼも気が付けば同情する側に回ってる始末。

 暫しの間、痛いほどの沈黙が休憩室を支配したのは、読者諸君に言うまでもないんじゃないだろうか―――――。

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