第11話:セリーヌの過去

☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆



レイト達がアジトに潜入しておよそ30分、私はその間ずっとレイトに掛けられた言葉を頭の中で反芻していた


『お前だけは絶対に守りたいんだ!』


……………


そう言ってレイトの黒い眼差しが私を捉えた瞬間、頭に血が上っていたのが一気に治まった


なぜ、彼の言葉はここまで私を操れるのだろう?

なぜ、彼の瞳はあんなにも黒く…私を釘付けにできるのだろう?


分からない


だけど全然イヤな気持ちでは無かった


それどころか、


もっとレイトと話をしたい

もっとレイトに見てほしい

もっとレイトに…触ってほしい…


そんな願望が私の中に芽生え始めていた



「はぁ…レイト…」



私は気づけば彼の名前を口にしていた


……………………………………


早く帰って来なさいよバカ


ブン!


そんなことを考えていたらレイトとルカが転移テレポートする時の音が私の後ろから響いた


帰ってきた!


私は走り出した



「はぁはぁ、いやー危機一髪だったニャ…」


「ああそうだな。

とはいえ、目標のブローチは手に入れたのだ。

結果は上々だろう」



ルカとセリーヌが話している

どうやら依頼の品をちゃんと見つけてきたようね


…あれ?



「おかえり2人とも…

ねぇ、レイトはどうしたの?」


「ニャ?

あれ、レイト君帰ってきてないのニャ?」


「なんだと?まさか…」



ルカは大慌てで洞窟の方へ飛んだ

私たちもルカを追いかけた



「…馬鹿者が!!あの男、私を騙したな!?」


「ルカちゃん!まさかレイト君はまだ…?」



え、え?

どういうこと?

レイトは一緒に行動してたんじゃ…



「ああ!奴はまだアジトの中にいる!

急いで救援に向かうぞ!」


「「ええ!?」」



アジトに居るって、まさか!



「ルカ!説明しなさい!

なんでレイトは一緒に居ないのよ!?」


「ゆっくり話をしてる暇などない!

移動しながら説明する、ついて来い!」



私達はアジト内へ全力で走った



☆☆☆



「なんで…なんでレイトを置いて行ったのよ!

ルカ!」


「…面目次第も無い。

まさか零人が私を謀るとは思わなかったのだ!」


「2人とも落ち着くニャ!

レイト君が居た部屋は覚えてるニャ!

きっとまだ無事のはずニャ」



そこで私は重要なことを思い出した



「ルカ!

あんたこんな時こそ転移テレポートの出番じゃないの!?

さっさと私達をその部屋に連れて来なさいよ!」


「先程は戦闘の回避を優先したので座標を設置していないのだ!

足で向かうしかない!」


「くっ…!急ぐわよ!2人とも!」



お願い…無事でいて、レイト!!



☆間宮零人sides☆



「よし、行ったか!」


2人が無事に脱出できて良かった

あとは俺がここをどう切り抜けるかだけど…



「消えただと?

なんだ今の魔法は?究極魔法…?

いや、あんな魔法は聞いたことがねぇ…」



どうやらボスのディンゴはルカの能力に興味を持ったようだ



「まぁ、いなくなっちまったもんは仕方ねぇ。

とりあえずそいつは殺しとけ」


「「「うす!!!」」」



くっそ!


やはり話し合いの余地はないのか!

やるしかない…残りのエネルギーだけでここをどうにか突破しないと!



「死ねやクソガキぃ!!」



ディンゴの子分の1人が剣を振りかざして突っ込んできた


ブン!



「うおお!?」



エネルギーを右手に集め、子分を俺の後ろの壁へ転移させ激突させた



「てめぇもその魔法を使えるのか…」


「まぁ、この能力は借りもんだけどな!」



今のでエネルギーが減ってしまった…

転移テレポートの残り使用回数3回ってとこか



「オラァァ!!!」



別の子分が槍を構え、突撃してきた

あれなら…



「なっ!?ぐっ…」



腰に差している俺の剣をそいつに投げつけ、怯んだ隙にすかさず転移を発動させる



「ゴハッ!!」



俺の掌底が顔面にめり込み、子分をボスの方へぶっ飛ばした


ドゴッ!


うわ…ディンゴの野郎、吹っ飛んで来た子分を横へ蹴り飛ばしやがった


…容赦ねぇな


サッカーボールじゃねんだから


あと残り2回…



「この役立たずどもが!

小僧、俺様が相手をしてやる!

サシの勝負だ!

てめぇら手を出すんじゃねぇぞ!!」


「「「うっす!!!」」」



どうやらディンゴ自ら俺の相手をしてくれるようだ

…勝機がわずかに見えてきた



「さて、小僧。

殺す前に名前くらいは聞いといてやるよ。

何ていうんだ?」


「どうせあんたが死ぬのに名前なんて覚える意味なんてあるの?」


「てめぇ…なぶり殺されたいのか?」


「まぁ、あんたは名乗ってくれたし俺も教えるよ。

間宮零人だ。よろしくな○ンコ」


「ディンゴだ!!

やはりてめぇは必ず苦しめてから殺す!!」



よしよし、いい感じにテンションを上げてくれたようだ

これなら…いけるかもしれない


一か八だけど



「小僧ぉ!!!」



ディンゴがこちらに向かってきた!

俺は残りのエネルギーの転移1回分を右眼に回した


前に、ルカに教わったやり方でエネルギーの流れを視る


あいつの脆弱性は…左の脇腹か!



「死にさらせ!!」



ディンゴが右手に持った斧を俺に目掛けて振り下ろした


すっかり頭に血が上ってるみたいだな

これならガルドのマッチョどもの方がキレがいいぜ!



「フッ…うらァっ!!」


ドカッ!!


右側に身体を回転させ攻撃を避け、そのまま三日月蹴りを脇腹へ突き刺した



「ガハァッ!?

て、てめぇ…なぜこの古傷を狙えた?

まさか俺様の弱点を見抜いたのか?」



ディンゴは脇腹に両手を当てうずくまった

どうやら効果はテキメンみたいだ



「なんだ、あの黒髪?

たった1発でボスを沈めたぞ…」


「ありえねぇ…まさかボスが負けた…?」



子分達は動揺を隠せない様子だな

それなら恥をかかせてやるか



「はっ、おっさんの動きがトロ過ぎなんだよ!

蹴りやすい所がたまたまそこだっただけさ」


「小僧ぉぉぉ!!!!ブチ殺す!!

おい、てめぇら!まとめてかかりやがれ!」


「「「了解です、ボス!」」」



子分達が一斉に得物を構えて、俺の方に向かってきた

ここからだ!

うまくいってくれよ!



「てめぇ!どこに行く気だ!?」



俺は部屋の中を走ってある場所に移動した

さて、鬼が出るか蛇が出るか…



「オラァ!起きろこのクソトカゲ!」


ドゴッ!


俺は『怒れる竜ニーズヘッグ』の脇腹にある、逆鱗へ思い切り蹴りを入れた


ラムジーにドラゴンのこと聞いといて良かったぜ

全てのドラゴンには『逆鱗』という弱点がある

そして俺は、右眼に回したエネルギーでそれを見分けることができる!



「クギャア!?

グウウ…ギャアオォォォォ!!!!」



うおっ!?


すんげえ咆哮だ…

…ビビるな!やる事をやらないと!



「おい!俺の言葉が分かるか!?

今お前を叩き起こしたのはアイツらだ!

全員ブチのめせ!!」



すると怒れる竜ニーズヘッグはゆっくりと立ち上がり、首をディンゴ達に向けた

やった!俺の言葉が通じたみたいだ!



「お、おい!俺様の事が分からねぇのか!

そこにいるガキがお前を起こしたんだぞ!?」



ちっ…余計なことは言わなくていいんだよ!

俺は残りのエネルギーを使い転移を発動させる準備をした



「レイト!!!」



部屋の入口から馴染みある声が届いた!

うし!ナイスタイミングだぜ!



「いいから早く暴れろつってんだ!

このスッポン野郎!」


ボゴッ!


ダメ押しでもう一度ディンゴと同じ脇腹の弱点をぶん殴り、すかさず部屋の入口へ転移テレポートした



☆☆☆



「「「零人(レイト)(君)!」」」



転移が完了すると、3人が俺を出迎えてくれていた



「この…馬鹿者が!零人!私に嘘をついたな!

なぜあのような真似をした!?」



やべ…

ルカがお怒り心頭だ



「そのことなら後で謝るから早く外へ…」


「ギャアオォォォォォォ!!!!!」


「ひいぃぃぃ!!!」


「嫌だぁ!!助けてくれぇ!!」


「てめぇら!ビビってんじゃねぇ!

はやくこいつを止めろ!」



うわっ!?


あっちの怒れる竜ニーズヘッグもかなり怒ってるな

…まぁ、どちらも俺が原因だけど



「この咆哮…まさか怒れる竜ニーズヘッグニャ!?

レイト君、あいつと戦ったのニャ!?」


「いや、あいつをブチ切れさせてあの場を切り抜けてきたんだ。

なあ、早く外に戻ろうぜルカ!」



俺が催促するとルカは1つため息をつき、転移を発動させた



☆☆☆



転移が完了して再びアジトの前、作戦会議をした場所へ戻ってきた

はぁ〜…なんとか助かった…



「レイト!」



ガバッとフレイが俺に抱きついてきた!

昨日も同じことしてこなかった!?



「この…バカ!

無事に戻ってきてって言ったでしょ!

なんでウソつくのよ!」


「ゴメンゴメン、ちょっと不幸が重なってね。

まぁ、このとおり身体は無事だし大目に見てくれよ」


「レイト君!右手!血が出てるニャ!」


「えっ?」



あっ本当だ…

そっか、さっきドラゴンの鱗を素手で殴ったからか…



「無事じゃないじゃない!!

やっぱりあんたは嘘つきだわ!」


「零人、早く手当てをしよう。

残りの説教は宿に戻ってからだ」



えぇー…やだなぁ帰るの…



「でも、ブローチもレイト君も無事に取り戻せて良かったニャ!

フレイちゃん、『回復ヒアル』は使えるニャ?」


「ううん、使えないわ…

レガリアに戻ってから診療所で治療してもらいましょう」


「「はーい(ニャ)」」



☆☆☆



その後の予定を立て、荷物をクルゥに乗せた時にそいつはやって来た



「グルゥ……ギャアァァァ!!!!」


「うああああ!!!」


「殺されるー!!」


「死にたくねぇよぉぉ!!!」


「「「!?」」」



嘘だろ!?

怒れる竜ニーズヘッグだ!!

まさか俺を追いかけて来やがったのか?


盗賊団の子分達が一目散に外へと逃げて行った



「やべぇ!今から転移間に合うかルカ!?」


「ああ。

だがクルゥも含めるとなると少し時間が必要だ」



マジか!

どうすれば…



「必要ないわ。あいつは私が仕留めてくる」


「フレイ?おい、何する気だ!」



フレイが得物の弓矢とナイフを腰に差してドラゴンの方へ歩き出した

まさか闘う気か!?



「おい!あいつはヤバいって!

殺されるから逃げようぜ!」



左手でフレイの肩を掴むが、即座に振りほどかれた



「うっさいわね!!!

今日はあんた達に置いてかれた上に、あっさり約束を破られたのよ!

こんなムシャクシャしたまま帰るなんてできるわけないでしょ!!」


「…………」



ヤバい…フレイの方もブチ切れてる

このままだと…



「はぁ、零人。

今回はシュバルツァーに任せよう。

正直私も闘いたい気分だが、君のその手ではな。

致し方あるまい」



なんでうちの女子ってこんなに好戦的なんだ??

逃げるっていう選択肢があるのはセリーヌだけじゃねぇか!



「レイト君…諦めるニャ。

女の怒りというのはそんな簡単に鎮まるものではないニャ」


「セリーヌまで…分かったよ!フレイ!

危なくなったら無理やりにでも連れて帰るからな!」



俺の言葉にフレイは振り向きもせず、ただ右手を上げて返事した


…俺より男前すぎない?



「グゥゥ…ギャオォ!!」



フレイは弓を構えて怒れる竜ニーズヘッグの前に立ち塞がった



☆フレデリカ・シュバルツァーsides☆



私はもうとにかく闘いたかった

今なら相手がドラゴンだろうと負ける気がしない



「ギャアアオオ!!!」



怒れる竜ニーズヘッグが私を威嚇してくる

ふん、弱い奴ほど吠えるって言うけど、こいつがまさにそうね


私の身体にある魔力マナを練り上げ、右手の矢に雷属性を付与エンチャントする


そして、弓の弦に矢を掛け、ギリギリと力一杯後ろへ引き絞った


食らいなさい!



「『雷光射ライトニングショット』!」



弦を離し、放たれた矢は雷の力を乗せて、電光石火のスピードで怒れる竜ニーズヘッグへ飛んで行った


ザクッ!!



「グギャアアアアオオオ!!!!」



矢はドラゴンの左眼に命中した!

雷の魔力が眼を通して頭の中に浸透したはず…


狙い通り、ドラゴンは頭をブルブル振って意識を保とうとしているわね

昨日の地竜グランド・ドラゴンの方が反応速度は良いみたい


けど、手負いの獣ほど恐ろしいものはない



「フレイ!あいつの弱点は脇腹だ!

その辺りの鱗に俺の血が付いているはずだ!」



レイトが檄を飛ばして弱点を教えてくれた

だけど、私はレイトの『血』という単語に激しい怒りを覚えた



「この腐れトカゲ…!

よくもレイトを傷つけてくれたわね!!」


「いや殴ったのは俺だけど…」



レイトが何か言っていたけど、既に私の耳には届かなかった


弓矢を納刀し、腰に差してあるナイフを抜いた

そして、ナイフを逆手に持ちドラゴンとの間合いを詰める



「シュバルツァー!避けろ!」



ルカの声が聞こえた瞬間、怒れる竜ニーズヘッグは身体を回転させ、尻尾でなぎ払うように私に攻撃してきた



「この手はもう食らわないわよ」


ブォッ!


私は上に跳び上がり、身体を捻って攻撃をかわした!

そしてそのまま懐へ飛び込み、レイトが教えてくれた弱点を探す



「血、血…これね!くたばりなさい!」


ズン!


ナイフを血の付いた鱗に目がけて思い切り刺しこんだ



「ガウ!?ギャアアアアアア!!!」



ドラゴンの逆鱗への攻撃はやはり効果絶大のようね

怒れる竜ニーズヘッグはたまらず仰け反って身体を地面に落とした


しばらくのたうち回ったあと、ドラゴンは断末魔を叫び、そのまま崩れた



☆間宮零人sides☆



す、すげぇ…


あの怒れる竜ニーズヘッグをあっという間に倒しちまった

盗賊団でも止められなかった奴を…



「ふん、まぁ少しは気が晴れたわ」



肩で風を切りながら歩いてくるフレイは凄い迫力というか貫禄があった



「さて、レイトさん?

私に何か言うことはないのかしら?」



フレイが腕を組んで俺をギロッと睨んできた


ひっ!?



「フレイを置いて行ってすんませんでした」


「それで?」


「約束も破ってすんませんでした」


「それで?」


「…今後フレイを置いてくことはせず、約束もきっちり守ります」


「よろしい、許してあげるわ」



よ、良かった…

俺もアレになるかと思った…



「フレイちゃんすごいニャ!!

やっぱりガルドの牙ってちょーーーーカッコ良いニャ!!」



セリーヌがガバッとフレイに抱きついた



「ちょ、ちょっと!?」



フレイが慌ててセリーヌに腕を回すと身長差があるため、抱っこしているみたいになった



「…やっぱり。

あんた昔私と会ったことあるわね?」



ええ!?



「どういうことだフレイ?」


「昔、ガルドの部隊の皆と遠征の任務で狩りに行ってたのよ。

その時『黒獄犬ヘルハウンド』に襲われている仔猫を助けてね…」


「仔猫?でもその子はガトー族なんじゃ?」



身体を『魔物化』ができる亜人族がいるというのは聞いたことあるけど…

ガトー族は完全に人間のはず



「ええ、そうよ。

あんた、ガトー族じゃないわね?」



フレイはセリーヌを降ろして問い詰めた



「…はい、あたしは亜人族でもないのニャ。

ホントは…」


パァァ…


瞬間、セリーヌの身体が光に包まれた!

光が解けていくと、徐々に銀色の毛並みが現れた


これは…



「あたしは『妖精猫ケット・シー』ニャ!

嘘ついてゴメンなさいニャ」



見た目は完全に猫だけど2本の足で立ってる!?

しかも喋った!

もしかしてこの子は…



「やっぱりあんたは純粋な魔物だったのね。

ねぇ、どうして隠してたの?」


「…あたしの仲間達は元々北の『武の国スマッシュ』で暮らしていたのニャ。

でも、紅の魔王に滅ぼされて…それであたし達は散り散りになってしまったのニャ」



そう言うとセリーヌの身体が再び光を纏い、人の姿へ変身した



「あたしはお兄ちゃんと一緒に生き延びていたけど、ある日魔族の連中が狩りをしに、あたし達の縄張りへ侵入して来たのニャ。

お兄ちゃんはあたしを逃がすためにたった独りでアイツらに立ち向かって行ってそのまま…」



セリーヌがストンと腰を降ろして体育座りになった

ヤバい…



「それからあたしは何もできずに、ただお兄ちゃんの言われたことを懸命に守っていたニャ。

『セリーヌ、強くなって兄ちゃんの分までどうか幸せに生きてくれ』」



アカン…ダメだ…



「お兄ちゃんにはもう会えないけど、それでもあたしは一生懸命生きようとしたニャ。

だけど、その頃あたしはまだ子供だったニャ。

仲間の助け無しじゃすぐに他の魔物のエサになるのニャ」


「…なるほど。

そこにシュバルツァー達が現れたというわけか」


「そうニャ!

フレイちゃん達が助けてくれなかったらあたしはそのままあの魔物に喰われていたニャ!

だからあたしは、ガルドの牙の人達にお礼をしたくて、頑張って言葉と『人化魔法』を覚えたニャ!

そして今日、ようやくレイト君達に…レイト君!?」


「う…うううう……ああああ!!」



やっぱりダメでした

我慢できませんでした



「レイト!?またあんたは…」


「うぅぅ…よがっだなぁ…

良かったなぁセリーヌ…

ようやく恩人と出会えてよぉ…!!」



俺はセリーヌの身体をガバッと抱き上げ、そのまま抱き締めた



「ニャア!?レイト君!?」


「何をしている零人!?」


「俺も…俺もな…

フレイには命を助けられたんだ。

それどころか、行き場のない俺をガルド村の皆は温かく迎え入れてくれて…

だからお前の気持ち、すごく良く分かるんだ!」


「レイト君…」



肉親を殺されたショックは計り知れないが、それでもこの子の健気な気持ちは充分俺の心を打った



「それでなぜ今まで黙っていたのだ?」


「さすがに魔物が冒険者をやってるなんてギルドにバレたらえらいことになるからニャ。

その事はブローチを手に入れた後に言うつもりだったのニャ。

本当は、会えた時に言いたくて言いたくて、たまらなかったのニャ!」


「も、もう!分かったから帰りましょ!

暴れたらお腹が空いたわ」



ぷいっとそっぽを向いてしまった

俺とセリーヌから絶賛されてフレイは少し照れくさそうだ



「そうだな、私もそろそろ腹が減った…

ところで零人?

いつまでモービルを抱いているつもりだ?」


「ニャ…

レイト君、流石にちょっと恥ずかしいニャ」



あ、やべ

そのまま抱っこしてた



「悪いセリーヌ、よし!帰るか!」



セリーヌを降ろしてクルゥに向かおうとした時、セリーヌが服の裾を引っ張った



「ちょっと待つニャ。

あたし、アジトの中を少し調べてみたいニャ」


「アジトを?

けど、怒れる竜ニーズヘッグが暴れたからめちゃくちゃになってんじゃねえか?」


「ニャフフ、あの盗賊団に盗まれたお宝の奪還依頼はごまんとあるニャ!

無事な物があればお持ち帰りたいのニャ!」



ああ、そういう事か!


たまたまだけど、並行してクエストを達成できるならかなり金にもなるな!


そうなると…



「それならキャラバンで来れば良かったな…」


「確かにな。

流石にクルゥ単体で宝の運搬は苦しいだろう」


「それならこうしましょう。

どうせあの中の盗賊団はもう壊滅してるんだし、一度帰ってギルドの調査隊にお願いして回収してもらうのはどうかしら?」


「なるほどな、それでいいかセリーヌ?」


「ガッテンニャ!」



☆☆☆



「了解しました。

それでは、盗賊団ベンター関連の依頼を全て受注した上で、ギルド調査隊を派遣する…ということで宜しいですね?」


「はい、それでお願いします」


「調査隊はすぐに派遣しますが、盗品の鑑定と照合に時間が掛かると思われるので、正式な報酬の支払いはまた後日ということで宜しいでしょうか?」


「はい、大丈夫です。

あ、このブローチの依頼だけ今すぐ報告ってできますか?」


「はい、そちらは既に鑑定済みですので報告可能です。

それでは依頼主に連絡をしますので、先にこちらの成功報酬をお渡しします。

本日はお疲れ様でした」



診療所に寄って手を治してもらったあと、冒険者ギルドに戻り、受付のお姉さんに報告を済ませた


いやー今日はめっちゃ働いた!

もうすっかり夜中だ

腹減ったー


左手には今回の報酬がたんまりと入った袋を提げている

どのくらいの価値なんだろう?



「レイト君!お疲れ様ニャ。

お金は受け取ったかニャ?」



セリーヌがタタタと走り寄ってきた

よっぽど楽しみにしてたんだなこの猫め



「ああ!さっそく山分けといこうぜ」


「テーブルはあっちの酒場を確保してるニャ!

早く行こうニャ!」


「わーったから引っ張んなって!」



☆☆☆



「すごいニャ!

初めてのクエストでこんなに稼いだ新人冒険者はいないんじゃないかニャ!」


「俺はまだこの世界の金の相場レートがよく分からんけど、どんくらいの報酬なんだ?」


「そうね、だいたい3ヶ月分の生活費って考えたら良いんじゃないかしら?」


「おお!それはまたたんまり稼いだな!

やったじゃねえかセリーヌ!」



確かに高額の報酬だったけど、それでも今回のピンチと天秤にかけると若干物足りないような気もする


まぁ、それはヘマしたからだけどね



「うん!嬉しいのは嬉しいんだけどニャ。

あのレイト君、本当にあたしが7割も分け前もらっちゃって良かったのニャ?」



んん?変な事で遠慮する猫だな



「当たり前だろ。

元々この依頼は、セリーヌが受けていたクエストだしな」


「ああ、至極妥当な割合だろう。

そもそもモービルの下調べのおかげでアジトまでスムーズに行くことができたのだからな」


「そうね。

ていうか私達は王都に宿泊するための宿代と食事代を稼ぐために冒険者になったんだしね。

特に文句はないわ」


「それなら…

でもこれでパーティ解散はイヤなのニャ!

これからも、あたしも一緒にクエストに連れて行ってほしいのニャ!」



セリーヌはそう言うとフレイに抱きついた

フレイは頭に手を置いて撫でた



「ええ、もちろんよ。

これからよろしくねセリーヌ」


「ガッテンニャ!」



セリーヌは花が咲いたような愛らしい笑顔を見せてくれた










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