第35話 奴隷商繁栄フラグ破壊


 騎士団屯所の地下に進んでいくと、収容された王国貴族たちの騒がしい声が聞こえてくる。


「出せ! こんな横暴が許されるはずがない!」「高貴である我々にこのような扱い許されぬ!」

「蛮族が!」


 よくもまあここまで騒げるものだ。

 もう日を跨いでいると言うのに。


「黙れ!」


「黙れだと! 子供が何のようーーぎゃああ!」


 俺の言葉を無視した罪人がいたので、風魔法で壁に叩きつけて黙らせる。


「俺はこの地の領主クリア・ヴィランだ。これから貴様らには俺の領地で狼藉を働いた罰を受けてもらう」


「罰だと王国には奴隷のことで裁きを与える領主はおらんぞ」「わしらはただモノを買っただけだろうが」


「俺は王国のことなど知らんし、貴様らの価値観など心底どうでもいい。来い!」


 元奴隷たちーーヴィラン騎士団を呼ぶと、鞭を持った黒い軍服たちが降りてきた。


「奴隷たちを召し抱えたのか!?」「下賎な奴隷どもが我々に罰を下すというのか!? 冗談じゃないぞ!!」


 オークションを主催していた奴隷商が素っ頓狂な声をあげて、貴族が悲鳴を上げる。


「この領地に踏み入った時点でこの者たちは奴隷ではない。そして今はこの領地を秩序を司る騎士だ。立場を弁えろ、罪人どもが」


 騎士たちは牢の中に入っていくと、戸惑うような顔をしつつも鞭を打ちつけ始めた。


「お、お前ら! 俺に対する恩義を忘れたのか!? お前らが立派な奴隷として巣立てるように、心を鬼にして鞭で叩いて教育してやったっていうのによ! 薄情者どもが!」


 オークションの主催は怨嗟の声を吐きつつも、奴隷によってたかられて叩かれまくっている。

 とうに指定した10回よりも多いことを見るに、相当恨みを買っていたようだ。

 関係者は3回にしろと言っていたのを守れているからまあ見逃すとするか。


「好きなだけ叩くがいい! 好きなだけ!」


 騎士になった奴隷のためなのか、単なる性癖なのか、不明だが、少女の騎士に対して尻を向けて接近していくアロンダイト公爵の姿が見えた。

 荒い息を吐きながら近づく中年に怯えながら、鞭を振り始める。


「あああああああ! もっとだ! もっと!」


 叩かれたアロンダイト公爵は目を見開き、おかわりを要求する。


「貸せ。変態が」


 少女が怯えながら変態の相手をするのが痛々しく見えてきたので、交代して鞭を振るう。


「ああああああ! 私はショタでも一向に構わん!」


 なんだこいつは……。

 関係者の規定回数は3回のため義務的にもう一度鞭で叩くと牢から出る。


「待て。君は奴隷を騎士として取り立てた。どうしてそんなことができた? 周りの貴族の反対やそれを利用して突け込んでこようと思うものが怖くないのか?」


 去ろうと思うと、アロンダイトがそう問いかけてきた。


「怖くないかだと? 奴隷は胸糞の鉄板の存在だ。胸糞を放置することに比べれば、周りや貴族なぞ視界に入らぬカスに等しい」


「視界に入らぬカス……。貴公が恐れるその胸糞とは一体?」


「全てを無に返す存在だ。胸糞の果てには、人の思いやりも、恩義も、命でさえも全て意味のないものにされる」


「なんとそれほどの存在がこの世界に! そのために奴隷を無くさなければならないと?」


「そうだ。胸糞は無くさなければならない。どれだけの犠牲を払ってもな」


「それだけの危機がこの世界に迫っているとは! 私の目は曇っていた! 我が身可愛さでタタラを踏んでいる場合ではなかったのだ!」


「やっと胸糞のクソさに気づいたか」


「ああ、王国に戻ったら私はやらねばならんことをなす」



ーーー


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