第30話 【幼女魔王さま】、土と対話する
今日の俺は、魔王さまとミスティに連れられて、王宮の裏手の一画にある王宮菜園へとやってきていた。
「これはすごいな。ちょっとした家庭菜園って聞いていたのに、まさかここまで本格的だったとは」
「ふふん、
幼女魔王さまが胸を張った。
だがしかしそれもうなずけるというもの。
俺の目の前には、赤や緑の実をつけた様々な野菜が、元気に大きく育っていたのだから。
「ほれ、このプチトマトなぞはちょうど今が獲れ頃、食べてみるがよいのじゃ」
幼女魔王さまが真っ赤に色づいたプチトマトを、もぎゅっともいで俺に手渡してくる。
「もぐ……うん、美味しい。
「そうであろう、そうであろう。水やりのさじ加減なぞ、だいぶんコツが分かってきたからのぅ」
「頑張っているんだな。大地の精霊もすごく喜んでいるぞ。土づくりから愛情を込めて育てている証拠だ」
「さすがですハルト様。そこまで分かるんですね」
「そっか。ミスティは顕現していない精霊の声は聞こえないのか」
「はい。魔王さまとハルト様は超がつくレアジョブですので」
そうつぶやいたミスティは、どことなく寂しそうだ。
ミスティをのけ者にするつもりはこれっポッチもないんだけど、精霊絡みだとどうしてもそうなってしまうんだよな。
「えっとすまんのじゃが」
と、魔王さまがおずおずと手を上げた。
「どうした魔王さま?」
「実を言うと
幼女魔王さまは耳に手を当てて、一生懸命に精霊の声を聞き取ろうとしているけど、どうもうまく聞き取れないらしい。
「声が多すぎて、混ざって雑音に聞こえちゃっているのかもな」
精霊の声が聞けないミスティだけじゃなく、頑張った幼女魔王さまもこれだけ土の精霊に愛されていることを知ることができないなんて、残念すぎる。
ってわけで!
「よし分かった。なら俺が、喜ぶ精霊たちの姿を2人に見せてあげようじゃないか」
「「え?」」
「精霊は顕現させればミスティみたいな一般人でも見ることができる。まぁ見てろ――!」
俺は一度大きく深呼吸をすると足元の大地に意識をやり、土の最高位精霊【ノーム】たちへと呼びかけた!
「この菜園に集いし土の精霊たちよ! 我が友の前に姿を現したまえ!」
「おお、ハルトが【精霊詠唱】するとはめずらしいのぅ――って、うおおおおぇぇっっ!?」
幼女魔王さまが
――合点承知!――×1000
「こ、これは――っ!」
わずかに遅れてミスティも目を丸く大きくする。
だがそれも仕方のないことだろう。
目の前には、ところ狭しと現れた1000体もの【ノーム】の姿があったからだ。
「どうだ、この辺りにいる【ノーム】に全部出てきてもらったんだ。でも俺が思ってた以上にたくさんいたみたいだな。やれやれ、俺もまだまだだな」
「俺もまだまだだな、じゃないのじゃ! こんな数の最上位精霊をあんな短いフレーズだけで一瞬で呼び出しておいて、やれやれも、まだまだも、たまたまもあるかーいっ!」
「おいおい、なに言ってんだ。魔王さまが土づくりに力を入れたからこそ、ここにたくさんの【ノーム】がいたわけで、言ってみればこれは魔王さまの功績だろ?」
「こ、これが
「俺もまさかここまでたくさんいるとは思ってなかったからさ。これは一朝一夕で集まるものじゃない。魔王さまの長年の努力の結果だよ。さすがだな魔王さま」
「そ、そうか……うむ……
再び幼女魔王さまがクワッと大きく目を見開いた。
「1000体もの最上位精霊を一斉召喚じゃぞ!? どれほどの才があればそんなバカげたことができるんじゃい! あほー! ばかー! ハルトのおたんこなすー!!」
ハァハァと息を切らせるほどの幼女魔王さまの魂のシャウトが、王宮家庭菜園に響き渡った。
悲しみに暮れる幼女魔王さまを【ノーム】が一体、肩に乗ってよしよしと
「ほらな、【ノーム】が魔王さまのことを認めている証だ」
「なんと! では早速、
しかし精霊契約をしようとした途端に、肩に乗っていた【ノーム】がスゥッと虚空に消えていった。
それに続くように他の【ノーム】たちも、一斉にその姿が見えなくなっていく。
「な、なぜなのじゃ……」
がっくりとうなだれる幼女魔王さま。
「あのさ、魔王さま。がっつき過ぎはよくないと思うんだ。もっと肩の力を抜かないと」
俺の言葉はしかし、
「上位精霊と契約する千載一遇の……下手したら最初で最後のチャンスが、泡と消えてしまったのじゃ……無念……」
未練たらたらで【ノーム】たちのいた場所を見つめ続ける幼女魔王さまには、残念ながら届いていないようだった。
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