第26話 【幼女魔王さま】、練兵場を視察する
今日は幼女魔王さまとミスティに連れられて、王都郊外にある練兵場での軍事教練を観覧していた。
「おおー! 皆、頑張っておるのじゃ!」
少し高くなった台の上の特別席から、練兵を見下ろす幼女魔王さまが、嬉しそうな声を上げ、
「本日は魔王さまがご観覧されておられますからね。訓練する兵士たちも気合が入るというものでしょう」
隣に立つミスティもそれに
「確かに見事なもんだな。士気も高いし、練度の高さも相当なもんだ」
俺も同じような感想だった。
今は太鼓やほら貝の合図にあわせ、様々な陣形に変化する戦術変更訓練を行っていたのだが。
それぞれの部隊長に指揮され、他部隊とも連携を取りながらきびきびとした無駄のない動きで、様々に陣形を変えていく様子は、元軍属として見ていてとても気持ちのいいものだった。
――と、そこへ、
「魔王さま、本日はわざわざご足労いただき誠にありがとうございました。
190センチはありそうな長身の女軍人がやってきた。
軍服にはたくさんの
「おお、これは大将軍ベルナルド。壮健のようでなによりじゃ。今日はまっこと気合の入った素晴らしい練兵を見せてもらい、
「もったいないお言葉にございます」
「で、あんたが魔王さまお気に入りの人間族――確かハルト・カミカゼって言ったかい?」
俺のことを値踏みするような視線を向けてきた。
「他に同姓同名がいなければ、俺がそのハルト・カミカゼだろうな。大将軍ってことはアンタが軍のナンバーワンってことか」
「形式上は魔王さまが最高責任者だけどね。実質的にはそういうことになるね」
「リッケン・クンシュセーってやつだな、知ってるぞ」
やはりこの国において魔王とはなんら実権がないにも関わらず、責任だけは取らされるという大変な立場のようだな。
あんな小さな身体でこの驚くほどの重責。
俺もできうる限り力になってあげないと。
「ところでハルト。アンタはかなりの腕前なんだってねぇ。街でもいろいろと評判みたいだぜ?」
「それはどうも。いい評判であること願ってるよ」
「
そう言ってベルナルドがニヤリと笑った。
「ベルナルド様、お
するとミスティが焦ったような声を上げる。
「おいおいミスティ、そんな怖い顔するなよ。せっかくの美人が台無しだぜ? なに、ちょいと軽く汗をかかないかと言っただけじゃないか? なぁハルト、アンタもそれくらい別にいいよなぁ?」
「俺は構わないぞ」
そう言いかけた俺の言葉をミスティがさえぎった。
「ベルナルド様は
「あはは、鬼族同士はあれくらいでいいんだよ。どうせ少々の怪我ならすぐに回復するんだ。それにあれ以降あいつも素直になっただろう? アタイだって馬鹿じゃねぇんだ。相手を見て、力とやり方の加減くらいはしてみせるさ」
「で、ですが――」
よほど俺とベルナルドを戦わせたくないのだろう。
なおも言い
「ベルナルドって言ったか? ぜひ手合わせ願えるかな。俺もこっちに来てからまったり過ごしすぎててさ。最近身体がなまっている感じがして、しょうがなかったんだよ。手合わせしてくれるっていうなら、ちょうどいいよ」
パキッ、ポキッと軽く肩を回しながら、その申し出を受けて立つ。
「交渉成立だね」
ベルナルドが嬉しそうな――そして
「こっちだ、ついてきな。すぐそこに1対1の模擬戦用の演習場があるんだ」
「分かった」
「ベルナルド様! ハルト様も!」
「そんなに心配しなくても、軽くて合わせするだけだから大丈夫だって」
「ああもう! 魔王さまもお止めください! 魔王さまが止めればいくらベルナルド様であっても――」
「まぁ良いではないかミスティ。ハルトの強さはミスティも知っておるじゃろ?」
「それはそうですが、ベルナルド様は大変に熱くなりやすい
「まぁ大丈夫であろう……多分。それに実務トップの大将軍のやることに、お飾りの
「魔王さまがそうまでおっしゃるのであれば……」
ミスティが渋々といった様子で引き下がったのを見て、
「じゃあ着いてきな」
ベルナルドが颯爽と歩き出した。
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