04

「私は子供を堕ろしててもいいと思っている」

 僕は、車に轢かれた尻尾のない猫のように、自分が無力な存在なんだと思った。

 直ぐに言葉が出なかった。

「お金のことなら、心配しなくていいだろ」と僕は言った。

 僕は、外を見た。

 ベランダに行って、柵を越えて、そのまま落ちたかった。どうして、飛び降りれるような構造になっているのだろう?牢屋みたいに、上からも下からも、横からも出れないようにしてくれればいいのに。満月だった。

 裸の彼女は、裸で仰向けで寝てる僕に猫みたいに覆いかぶさった。彼女乳首が僕のお腹に密着した。

「やっぱ痩せているよ」と僕。

「最近忙しいから」

「葉っぱばっか食べているからだよ。もう少し、肉とか魚もちゃんと食べないと。もしくは、サラダのオイルを増やすとかさ。何ならお菓子でもいいよ」

「ちゃんと食べてるわよ。お腹一杯になるまで」

 僕は、ため息をついた。葉っぱでだろ、と突っ込む体力すらなかった。

 僕は、彼女の髪を利き手で梳いた。とても長い髪だ。ショートカットにしたら、今よりもっと体重が軽くなったことに気づけるほど長い髪だ。

「お腹の子のためにもさ」と僕は言った。

 彼女は、僕の手を握った。髪を梳いていた方の手だ。

「私は嬉しいけれどさ――――」

 僕は彼女顔を見た。とても小さな顔だ。顔だけじゃない、身長も、手も、胸も、筋肉も、骨も、心臓も、全て僕より遥かに小さい。いつも力を入れ過ぎないように気をつけている。なのに目は大きい。吸い込まれそうな目だ。

「本当にいいの?」

「いいに決まっているだろ」

 僕は、左手で彼女頭を撫でた。握られた右を握り返しながら、僕は言った。

「ロリコンは卒業したんだ」

「うそつき」と彼女は笑った。

「でも、うれしい」と彼女は続けた。

 僕は髪を撫でた。

 そして、月を見た。雲に隠れていた。

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