スプリット・分れ道

第1話蛇の舌

俺はデパートの警備員だ。俺の仕事は館内の見回りだ。

今日は昼の勤務でとても忙しかった。あと少しで帰れる、そんなちょっと気の抜ける時間。

それはガラスの割れる音と悲鳴から始まった。

危険と判断し客の誘導を始める。何のせいでガラスが割れたのかは分からないが、窓から遠ざけた方がいい。

何人も怪我人がいる。動ける人を誘導し、救急隊を呼んで動けない人を安全な場所に移動させないとな

肩を貸せば動ける人を助けようとガラスの割れた窓に近づく、

視線を感じて顔を上げ外に目線をやる、窓の外にいた女と目が合う。

ん？

その女の片目は、白目の部分が黒で、黒目の部分が赤い。

人じゃねぇ、それにここは3階だ、

そこに人がいるわけねぇ

女は水を操って水の上に乗っている。

女は俺と目線が合うなりニヤリと気持ちの悪い笑みを浮かべて、向きを変え、オレの方に向かってきた。

危険を感じて後ろに下がる。

水を操って女がデパート内に入ってくる。

ガラス片で怪我をして動けない人を女が一瞥して無造作にその人の顔に手をかざした。

引き抜く動作をするとその人の口から5mm程の金色の玉が出てきてそれを女が飲み込んだ。

満足そうに顔が歪む、恍惚な表情になると嬉しそうに怪我で動けない人を持ち上げて喰った。

俺は目を見開いたまま動けない。

喰らいながら女は、5mくらい離れているのに俺の顔に手をかざした。

俺の体が熱くなり、ふわふわした感覚になる。

カランと音を立てて金色の小さな玉が落ちる。

俺は、あぁ何か大事なものを失ったと、そう思った。

体に力が入らないが、このままだと喰われる。

思い通りに動かない体を引きずってその場を離れる。

階段に向かって走り出す。

ふわふわした感覚はあるが何とかなりそうだ。

階段の手すりに縋りながら降りて、半地下の食品売り場に行きその奥にある社員用出口に向かう。

ロッカーからバイクの鍵をとってバイクで逃げよう。

エスカレーターを横切る時に上の方からカラカラと軽い何かが落ちてくる音がする。

ふと目線をやってしまう。

金色の玉がいくつも転がり落ちてくる。

エスカレーターの上にあの女がいた。両手に人を持って左手の人を1口喰って顔を顰めるとポイッと捨てた。

右手に持った人は恍惚とした表情で貪り喰っている。

金色の玉が俺の足元までいくつか転がって来た。

ふとこの体の不調はあの時抜かれた金色の玉のせいかもしれないと思って、何となくひとつをとって飲み込んだ。

するとストンと体が地に着く感じがして、駆け出した。

ロッカールーム1番奥から2番目

制服のうちポケットから急いでロッカーの鍵を出してロッカーを開ける。

肩掛けバッグを持ってロッカールームを出る。

駐車場に出る扉に向かおうとした時に背後でドシャっと重く水気のあるものが落ちる音がして思わず振り返ってしまう。

両側から押して開けられる扉の下の隙間から大量の血が流れてきている。

ヤバイ、もうすぐそこまでキている。

出口に向かって走り出す。

駐車場に出てバックから鍵を出す。

もう少しでバイクという時に背後から両手腕を掴まれ動けない、首筋にふたつに割れた舌先が絡む。

知っている蛇の舌サイズより数十倍は大きい。

首筋に痛みが走ると首筋から全身に熱さが広がって行く。

と当時に体が高揚してそんな場合ではないのに勃つ。

くぁ

声が漏れる。

両腕が強い力で掴まれている。鋭い爪が食い込み痛い。

意識が遠のく。

朦朧とした頭に声が降ってきた。

｢どうにかなりそうだ、献身感謝する｣

と地を這うような低い声がして、意識を手放した。