ロストシナリオ

@2007855

エピソード

第1話 不思議な場所の不思議な女性

暖かい空気、青い光、雲のように柔らかい床。


 青年は今この場にいることに困惑していた。さっき自分がいた場所とは正反対の場所だったような気がするからである。


 辺りを見渡してみても、周りは霧がかかって何も見えない。


 しかしひとつだけ、建物がある。それはまるで、何かの神話にでも出てきそうな、神秘的な雰囲気を纏った塔のような建物。


 青年はとりあえずあそこに行こうと重い身体を起こして、足を一歩踏み出した瞬間。突然、後ろから何者かに肩を叩かれた。


 驚き、素早く振り向くと、一人の女性が立っていた。それどころかさっき行こうとした塔も、その女性の後ろに聳え立っていた。あまりの驚きに、青年は唖然とする。


「ねえ君、名前は?」


 女性は朗らかな笑顔を見せ、話しかける、おそらく敵意はないのだろう。


 ただ問題は、その質問の内容だった。どうしよう、名前が全く思い出せない。そうしてうろたえていると、女性が近づいて、優しく青年のこめかみ辺りに触れる。


「落ち着いて、ゆっくりでいいの...」


 女性は変わらぬ笑顔をこちらに向けて囁く。自然と青年の呼吸は深くなり、目を閉じ、記憶を呼び覚ます。


「...アサミ...カズキ...」


 目を開け、ハッとする。そうだ、俺はアサミカズキだ。ずっと前からそうだったはずなのに、何故忘れていたのだろう。


「よかった、思い出せたのね!」


 名前が判明すると、アサミより女性の方が喜んでいた。


「あの、あなたは一体...?」


「え?私?...私は、そうね...うーん...まあ神様みたいなものかな、アーシアって呼んでいいよ」


 さりげなく出てきたその言葉に、アサミは驚くが、よくよく考えたら、この場所によく似合う言葉だと気づき、落ち着く。


「じゃあここは...天国?」


「そうよ、そしてあなたは死んで、ここにきた」


 呼び覚まされた記憶の中に、死ぬ直前の記憶がある。冷たい空気、曇り空、コンクリート。そんな中でアサミは交通事故に遭って命を絶ったことを思い出す。


 嫌な記憶だ。アサミは一番ダメージを受けたであろう右腕を撫でる。そしてアーシアが気を使うように言った。


「とりあえず、立ち話はこれくらいにして、塔の中へ入りましょう、そう落ち込まないで、あなたは選ばれたのよ?」


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 塔の中は白一色で統一されており、芸術的な装飾が施されていた。結局立ち話じゃないか? と思いつつ、アーシアと歩きながら話を続けた。


「実はね、あなたのいた世界とは別の世界、いわゆる剣と魔法のファンタジーな世界が危機に晒されているの」


 ここまで不思議なことばかりだったからだろうか、もはや驚きすらしなくなってきた。


「そこで私は思いつきました!別世界の人を勇者として転生させようと」


「それで選ばれたのが俺と」


「そういうこと!そしてこれが転生するための魔法陣!」


 いつの間にかたどり着いたそこには大きな魔法陣があった。それだけじゃなく壁一面にも小さい魔法陣がびっしりと描かれていた。


「そこに立ってて、準備するから」


 アーシアは魔法陣の真ん中を指差す。魔法陣の上に立つと、アーシアは詠唱を始めた。魔法陣が強く輝き、アサミの体は宙に浮き始めた。


「そうだ、言い忘れてた事が」


「なんですか?」


「転生するのはあなたの魂だから、身体のことはどうなるか

分からないの、もしかしたら女の子になってるかも」


「女の子...ふーん......えぇ!?」


異世界よりもそっちの方が驚く。


「まあ、細かいことはまたあっちの世界で説明するから」


「いや、ちょ...!」


 困惑するのも束の間、アサミはフッと眠るようにして意識を失った。

___________________________________________


「さあてさてさて...」


 私の目の前には、新しい主人公...の元身体がある。今頃あっちですやすや寝ていることでしょう。


 大丈夫。次こそはうまく行くはずだから。


「どうかそのままでいてね?」

いかがでしたでしょうか?自身初投稿となりますので、

どうか暖かい目で見守ってくれるとありがたいです。

投稿頻度については、自分はマイペースで飽き性なので

かなり不定期になると思います。一応続けるつもりではあります。どうかよろしくお願いします。

___________________________________________


2023/06/14

説明不足だったので少し補足を。この時アサミの性別は男となっています。その後性別がどうなったかは後の話で判明するのでよろしくお願いします。

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