ルルアの意思と契約 (改)

 競りが終わった後、代金の支払いと奴隷契約を結ぶために個室に案内された。

 個室には背の低い大きなテーブルとそのテーブルを挟むように置かれた二つの高級感漂うソファーが置いてあり、シンプルな内装になっている。


 二つあるソファーの片方の中心に腰を沈めると当たり前のようにその両側にリリアとルルアが座ってきた。


 ‥‥‥‥。

 リリアはわかるが何故ルルアまで。

 そう考えているとリリアがルルアに声をかけた。


 「ねえ、ルルア」

 「何?」

 「あなたが私と同じように旦那様の側に座っているということは、そう捉えていいんですか?」

 「‥‥うん。私もこれから先レイス様と一緒にいる」


 ルルアは顔を赤くしながら、意思の籠った声ではっきりと答えた。

 ルルアは赤く染まった顔のまま上目遣いで俺の顔を見上げて言った。


 「これからもよろしくお願いします。レイス様」

 「‥‥‥好きにしろ」

 「うん‥‥‥」


 小さな声で返事をしたルルアは俺に体重をかけ、もたれかかってきた。


 「ふふっ。ルルアは甘えん坊ですね」


 リリアがその様子に笑みを漏らしている。

 なんとなく気恥ずかしいが、悪い気はしない。




 =====




 しばらくすると部屋の扉が開き、身なりの整った男とセリーナが一緒に入ってきた。

 男はそれなりに質のいい服を着ているのでここの上役か支配人だろう。

 男は俺達に一礼すると対面のソファーに腰掛け、セリーナを自分の後ろに立たせると、こちらににこやかな笑みを向けてきた。


 「初めまして。私、このオークションを取り仕切っております、シーキルと申します。今回は金額が金額なので私が直接対応させていただきます」


 シーキルという名前の男はそう言って頭を下げた。

 頭を上げるとシーキルは早速とばかりに俺達との間にあるテーブルの上に一枚の紙を置いた。


 「こちらの契約書にサインをお願い致します」

 「ただの契約書では無いだろう?詳しく教えろ」

 「さすがですね。一目でただの契約書ではないと見破るとは。ではご説明させていただきます」


 その前置きの後に始まったシーキルの話をまとめるとこうだ。

 テーブルの上に置かれている契約書は呪いのかけられた契約書らしく、今回のように大きな金額が動く取引ではよく使われるものだと言う。

 この契約書にかかっている呪いは単純で、契約書にサインした者同士が交わした約束を破った場合、破った方の命が失われるというものだ。

 自分の命がかかっているため約束を破る者はほとんどいないので、互いの利益を守るのに最適なんだとか。


 その説明を聞きいて納得した俺はシーキルからペンを受け取り、テーブルの上の契約書にサインをする。

 俺がサインを書き終えるとシーキルも契約書にサインをする。


 「では、お互いにサインの記入が済みましたので、お支払いに移らせていただきます」


 そう言ってシーキルは右目に片眼鏡をかけた。

 シーキルが右目にかけた片眼鏡はおそらく魔道具だろう。

 微かに魔力を感じる。

 このタイミングでつけたということは硬貨の枚数を数えることを補助する能力があるのだろう。


 「レヴィアナ」

 「はい」


 後ろに立っていたレヴィアナに声をかけ、テーブルの上に落札価格である100億ゼニスを出させる。

 魔法による異空間から白金貨1000枚を出すレヴィアナをシーキルは目を見開いて驚いたように見ていた。


 「まさか、空間系の魔法を使える方がいるとは。私は思ったよりも大物を相手にしているのかもしれませんね‥‥‥」


 シーキルはそんなことを呟きながらもテーブルの上に次々に出てくる白金貨を数えている。

 レヴィアナが白金貨を全て出し終えてからそこまで間を空けることなくシーキルは白金貨を数え終えた。


 「セリーナの落札価格である100億ゼニス、白金貨1000枚確認いたしました。では最後にセリーナとの奴隷契約を結びますのでこちらにお客様の血をお願いします」


 シーキルが小さな小皿とナイフを一本こちらに差し出す。

 ナイフを手に取り、一度火の魔法で殺菌してから人差し指の腹をナイフで切る。

 傷口から垂れてくる血を小皿に落とし、ある程度の量が集まったところで傷を焼いて止血する。

 血の入った小皿をシーキルに差し出す。


 「ありがとうございます。ではこれからセリーナに契約の魔法陣を刻みますが、どの部分がいいなどご要望はありますか?」


 契約の魔法陣、言い換えれば奴隷紋だな。

 奴隷紋と主人の血を使っての奴隷契約はなかなかに珍しい。

 ほとんどの場合は奴隷紋か主人の血のどちらか一方だけだ。

 これはシーキルの仕事が丁寧なのか、金額に応じたサービスなのか

 前者であれば名前くらいは覚えておこうか。


 「他の奴らはどこに刻むんだ?」

 「他のお客様は足の裏や内腿などの目立ちにくい部分に刻みます」

 「そうか。なら、首の横に刻んでくれ」


 俺の言葉に一瞬部屋が静寂に包まれる。

 その静寂を破ったのは変わらない様子のシーキルだ。


 「本当に首でよろしいのですか?」

 「ああ。セリーナはすでに俺のものだ。手を出されるのは気に食わない。初めから主人がいるとわかりやすくした方がいいだろう?」


 俺は悪役らしい笑みを浮かべ、シーキルにそう告げる。


 「わかりました。では、奴隷紋を刻みます。セリーナこちらへ」


 シーキルがソファーから立ち上がり、セリーナの首に奴隷紋を刻みこむ。

 そこへ俺の血による契約の強化を行うと、黒色の奴隷紋が赤く染まる。


 それを確認したシーキルは俺の方に向き直ると深く頭を下げた。


 「奴隷紋を刻み、契約の強化も終えました。お支払いも済んでおりますので今この時を持ってセリーナの主人はお客様となりました。お買い上げありがとうございます」


 

 

 

 

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