第41話 エンシェントガルーダを捕獲する
「すごい、これがナイトメアか。初めてお目にかかるな。こっちのホワイトアラブも、そんなに簡単に捕まえれる霊獣ではないんだが、ナイトメアに比べるとやはり見劣りするな」
二頭を見てヘンリーさんが感想を漏らす。
研究所に戻って来てすぐに、捕まえてきたナイトメア一頭を檻に入れ、もう一頭とホワイトアラブを研究室に並べてみた。
ステイシーさんには先に家に帰ってもらい、明日のエンシェントガルーダ捕獲のための準備をしてもらっている。クロも警備の仕事に戻っており、代わりに研究部門のみなさんと捕獲してきた二頭を眺めているというわけだ。
「とりあえず、ナイトメアの背中に翼をつけることになるから、翼の血管をどの血管を繋げるかだけ確認しておこう」
そう言って、ナイトメアのに近づいていったのは移植班チーフのクレイルさんだ。彼は"
「これだな」
すぐに丁度いい血管を見つけることができたようで、風の刃を消し傷口を縫う準備を始めた。
「あ、私が治しておくのでいいですよ」
そう言って"
「「「……」」」
何だろう、この熱い視線と重たい空気。私、また何かやっちゃいましたか?
「あー、チェリー君。今のはいったい何が起こったのかな?」
ヘンリーさんが棒読みの台詞を読んでいるかのように、呆れた声で聞いてきた。
「えっと、"
「よし、何をしたのかは理解した。しかし、少々時間をいただけるかな?」
ヘンリーさんの言葉に、何やら集まってくる研究部門のみなさん。ごにょごにょと相談し始めたようで、『"
「失礼、これからの君の活躍を考え、君が何者なのかは一切不問とし、何があっても驚かないようにするとみんなで決めた。さあ、次のステップに進むとしよう」
ヘンリーさんが上手くまとめてくれたようで、私が何をしてもここでの立場は補償されるということらしい。ありがたやありがたや。
「次のステップですが、あとは翼の方がこないと何もできないかと思いますので、この二頭を檻の中に入れて今日はお終いにしませんか?」
「む、そうか。では、今日はここまでとし、明日は午前中ナイトメアとホワイトアラブの生態調査を行う。
チェリーはエンシェントガルーダの捕獲を頼む。無事に捕獲できたら、午後はエンシェントガルーダの身体を調べる。そして合成のやり方を確認し、みんなで最終打ち合わせを行おう。実際、合成するのは明後日になるな」
ヘンリーさんが明日の計画を確認し、今日はお開きとなった。
しかし、ペガサス合成の依頼が来てから、遺伝子班と移植班がとても仲良くなって、いい雰囲気で研究が進んでいる気がする。前の職場は少々殺伐としていたので、こんなところで私の理想としていた環境が実現するなんて、人生何が起こるかわからないよね。
そして、家に帰ったあとステイシーさんと明日の打ち合わせをしてから、ベッドに潜り込んだ。
さて、今日は原始の森でエンシェントガルーダを捕獲する日だ。ステイシーさんは昨日のうちに学校にお休みの連絡を入れていたし、昨夜はクロもクリップ宅の庭で寝ていたので、すぐに出発できそうだ。
「見て見て! 昨日、客車も改装したのよ」
そのステイシーさんの言葉通り、客車の中にはふかふかの椅子とクロのための絨毯、そして身体を固定するひもが追加されていた。これで旅の安全と快適さが補償されました。
そして、ひとっ飛びで原始の森に到着する。
「二日前に来たばかりですが、今日は森の中心部にある"始まりの山"を目指します。エンシェントガルーダはゴールデンライオネルと同じ最上級クラスなので、くれぐれも油断しないように」
前回の反省を生かし、ステイシーさんとクロに事前に注意しておく。まあ、そんなことしなくても二人ともわかっていると思うんだけどね。森の序盤は前回同様、ステイシーさんとクロが訓練を兼ねて霊獣を倒してくれる。
始まりの山には森の中を二時間ほど歩いたところで、その麓に到着した。
「結構大きいわね」
ステイシーさんが言うように、その山は麓からでは全容が見えないくらい大きい。ただ、私の探知にはエンシェントガルーダがすでにかかっているので、真っ直ぐ向かって登ればあと一時間ほどで見つけられると思われた。
ただ、気になる反応が他にも二つあった。一つはエンシェントガルーダの割と近くにいる中級クラスの冒険者と思われる反応で、この冒険者がエンシェントガルーダに見つかるとちょっとまずいんじゃないかなと思う。
二つ目は以前来た時にも感じた反応で、凄く遠くからこっちを監視しているような感じがする。やっぱり私が知っているどの生き物とも違う霊力で、あまりいい感じはしない。
まあ、近くにこないのであればあまり気にせず、とりあえずエンシェントガルーダの方を優先させよう。近くにいる冒険者も気になるしね。
始まりの山は木々が少なく、ゴツゴツした岩がそこら中に転がっていて何とも殺風景だ。エンシェントガルーダはこんなところにどうやって巣を作ってるのだろう?
そういえばこの山にはエンシェントガルーダの他にも、上級クラスの属性持ちのドラゴンや、特級クラスのエンシェントドラゴンも生息してるって言ってたはず。時間があれば見てみたいな。
それにしてもこの中級冒険者はいったい何をしているのだろう? 逃げるわけでもなく戦うわけでもなく、何かを探してうろうろしているように思える。そして、このままだとすぐにでもエンシェントガルーダに見つかっちゃいそうだね。
「ステイシーさん、クロ、戦ってる最中に申し訳ないんだけど、何だか嫌な予感がするから先に行ってるね。クロなら僕の居場所がわかるよね?」
二人は今、上級クラスの霊獣、地属性のアースベアラー相手に戦闘を有利に進めているところだった。
「問題なイ。こやつを倒シ終わったラ、すグに向かウ」
「オッケー、チェリーの嫌な予感って結構当たるから急いで行ってあげて」
クロもステイシーさんも余裕がありそうなので、ここは任せてエンシェントガルーダのところへ急ぐ。
(むむむ。エンシェントガルーダの動きが速くなった。これは間違いなく中級冒険者を見つけたね)
時間との勝負になりそうなので、久しぶりに各種強化魔法を自分にかける。そして地を蹴り、一歩目を踏み出すと――
ドゴォォォン!!
蹴ったところが崩れ落ち、ソニックブームが発生してしまいました。後ろではステイシーさんとクロとアースベアラーが仲良く吹き飛ばされていた。
(ごめんなさい……)
心の中で謝って今は先を急ぐ。
~side カイル~
「うわぁぁぁぁー!」
ついに見つかってしまった!? あの恐るべき怪鳥、エンシェントガルーダに。
中級クラスの冒険者である私が、王都を離れこんな山の中に来ているには訳がある。今年10歳になる私の息子は昨年、ある奇病にかかってしまった。それからはずっと寝たきりの生活を送っており、身体も弱っていく一方だった。
しかし、最近になってその病気に効く特効薬が見つかったのだ!
それがここ始まりの山に住むという特級クラスの魔物、エンシェントガルーダの卵と言うわけだ。
もちろん中級クラスの私には倒せないことがわかっているので、初めはギルドに依頼を出していたのだが、一ヶ月待っても二ヶ月待ってもこの依頼を受けてくれる冒険者は現れなかった。
その間にも息子はどんどん弱っていき、そんな息子をもう見ていられなくなった私は、こうして自分で取りに来たのだ。
だが、この始まりの山は私のような中級の冒険者が来るところではなかったようだ。ここに生息する霊獣の全てが上級以上。とにかく、ひたすら見つからないように岩の陰に隠れながら登ってきた。
しかし、それももう終わりだろう。卵を見つける前に、あの怪鳥エンシェントガルーダに見つかってしまったのだ。
必死に逃げたが、岩だらけで足場の悪い斜面で転倒し、目の前には私の顔の二倍はありそうなかぎ爪が目の前に迫ってくる。
「もうダメだ…… すまないアレン……」
私が死んだら、息子も助からないだろう。そう思うと、恐怖よりも申し訳なさで自然と涙が溢れてきた。
死を覚悟したその時、私の耳に少年の声が飛び込んできた。
「捕まえたー!」
ああ、息子がまだ元気だった頃の一緒に虫取りをしたときを思い出す。こんな幻聴が聞こえるとは。私はもう死んだのかな?
それにしては痛みが来ないな? エンシェントガルーダの気配も消えているし。涙を拭いて、恐る恐る目を開けてみると……
~seide チェリー~
冒険者さんが襲われそうだったので、一瞬でガルーダの真横に移動し、鳩尾辺りに優しくワンパンを入れる。エンシェントガルーダの身体がくの字に折れ曲がったところを、持ってきた大きな袋で捕獲し"
着地もバッチリ決めて冒険者さんの方を振り返ると……目を瞑りながら涙を流していた。見てないのかい!
その様子をしばらく見ていると、涙を拭いてようやく冒険者さんが目を開けました。
「ええと、あれここは天国?」
あら、死んだとでも思ってるのかな?
「こんにちは。私はチェリーと言います。一応、確認なのですが、このエンシェントガルーダはいただいていってもよろしいですか? もし、横取りになってしまっていたらお返ししますが」
死ぬ直前からの急展開にちょっとついていけてない気もしますが、冒険者のマナーとして先に発見したものにその霊獣を倒す権利があるからね。確認しておかないと、後々トラブルになるかもしれないのですよ。
「えっ? あっ、私はカイルです。あなたは天使? じゃないよね。はっ!? ガルーダ! エンシェントガルーダがいる気をつけて!!」
何だかずいぶん賑やかな人だな。
「いえ、いません。この袋の中でおねんねしていますので」
「なにー!? あれは最上級クラスの霊獣だよ? えっ、なんで? どうやったの?」
「どうと言われましても、お腹にワンパン入れて、袋をかぶせて、眠らせて……ですが?」
他に説明のしようがないよね。
「ちょっと、待ってよ。もしかして、君は最上級クラスの冒険者なのかな!? 見た目は少年だけど僕は騙されないぞ!」
「いえ、この間合格したばかりの下級クラスです」
「そ、そんなばかな……」
お話しすれば落ち着くかと思いましたが、ますます混乱してしまったので、少し頭の中を整理する時間を取りました。そのうちに、ステイシーさんとクロもやってきて……クロが来たことによって、また別の混乱を引き起こし……
「よ、ようやく事情が飲み込めた。とても信じられないが、わざわざ命を助けて嘘をつく意味がない。現にそのしゃべる霊獣がいることが、君達が言ってることが本当だと言うことの証だよね。お礼が遅くなってすまない。本当に助けてくれてありがとう」
三人がかりで説明して、ようやく信じてもらえました。
そういえば、死ぬ直前に"すまない、アレン"って言ってたよね? あれってどういう意味だろう?
「先ほど言ってた、アレンってどなたでしょうか?」
「ああ、私の息子だよ。今病気で寝たきりでね。その病気に効くのがエンシェントガルーダの卵と聞いて、自分で取りに来たんだがこの様だよ」
「そうだったのですか。そういえばここに来る途中に、エンシェントガルーダの巣らしきものを見たのですが、案内しましょうか? もしかしたら卵があるかもしれませよ?」
「あっ、私も見た! 何か緑色の丸い玉がいくつか入ってたけど、あれが卵なのかな?」
ステイシーさんも見つけていたみたいね。
「それだ! エンシェントガルーダの卵は確か緑色のはずだ!」
「では、ついてきてください」
そう言ってカイルさんを巣まで案内した。そこで、無事に卵も手に入れることができたので、お互い帰ることになったんだけど、カイルさんは王都側に降りると言っていたので、安全そうなルートを教えてあげた。
カイルさんって王都の人だったんだ。帰り道も随分長いみたいだけど、卵、割らなきゃいいね……
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