第5話 雨を降らせる
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再び、白い文字が目の前に浮かび上がる
(こっちはこっちで消しとかなきゃだめなのかい!)
そう心の中で突っ込みをいれつつ、水をまくのに一番手っ取り早い雨をイメージする。すると畑の上空の何もない空間から突如、雨が降り始めた。
「はいぃぃぃ!? なになになに? どうなっちゃってるの!?」
ルネが驚きのあまり、おかしな感じになっているが関係ない。私は研究者なので、誰になんと言われようと自分がやりたいようにやるのだ。
「君は、一万人に一人しかいないと言われている"
何もない空間から水を生み出しているので、そう言いう結論になったのだろう。ルネが大声で叫んでいる。
「すいません。わた……僕は自分が何者なのかは全く覚えていないのですが、なぜかイメージしたらできちゃいました」
私は研究するのは好きだが、説明するのは嫌いなので、面倒くさい説明は『記憶がない』の一言で全て省略するつもりである。
「"
ルネが何やらブツブツ独り言を言っているようだ。『なぜこんなところに……』というところは聞き流すとして、『白衣を着ているからもしかして……』の部分は、少々気になるので後で聞いてみようと思う。もしかしたら、この世界にも白衣を着るような職業があるのかもしれないからね。
「もう十分だと思いますので、雨を止めますね」
そう言って、私は雲もないのに降り続けていた奇妙な雨を止めた。ちなみに
「君が何者なのか知るのが怖くなってきたけど、忘れているなら仕方がないよね。とりあえず水の問題は解決したのでうちに戻ろう。服も着替えないと目立ってしまうからね。あっ、それと水をまいてくれてありがとう! 助かったよ!」
「これからお世話になるのですから、できることをするのは当たり前です。気にしないで下さい」
ちょっと怯えさせてしまったが、実験にハプニングは付きものだから気にしないでもらいたい。『出来ることのレベルが桁違いでは……』なんて呟きも聞こえるが無視、無視。
そして、歩き出したルネの後について彼の自宅へと案内してもらうことにした。
村の中を少し歩くと、木で出来たログハウスのような家が建ち並ぶ一角に出た。ルネはその中の一つの前で立ち止まり、ドアを開けて玄関の中へと入っていく。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
ルネの日本式帰宅の挨拶に、おっとりとした声でこれまた日本式で迎えの挨拶が返ってくる。
パタパタと足音を鳴らしながら出てきた女性は、割烹着姿の若い綺麗な顔立ちをしていた。しかし、髪の色はなぜか紫で、日本で生まれ育った私にとって、そこだけ違和感を感じてしまった。
「あら、こちらの可愛い少年はどちら様で?」
そんな私の分析をよそに、ローラさんは優しい笑顔で私の顔を見ながらルネに問いかける。
「聞いてくれ! なんとこの少年は――」
ルネがローラさんにことの経緯を説明するが、だんだんと気持ちが高まっていき、私が雨を降らせたくだりにさしかかると、興奮して身振り手振りを交えたものになっていった。一方、ローラさんはそれほど驚いた様子も見せずに、微笑みながらルネの話を聞く余裕っぷりだ。
ローラさんもこんな得体の知れない少年を優しく受け入れてくれたようで、この家で暮らすことをあっさりと許してくれた。
「今、ご紹介にあずかりました。チェリー・ブロッサムです。しばらくご厄介になりますが、よろしくお願いします」
何だか学会で紹介された人みたいな自己紹介になってしまったが、とりあえず丁寧にお礼を言っておく。
「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。記憶がないとのことでしたが、ずいぶんと礼儀正しいようですね。それにその話し方。あまり落ち着いていると、子どもに見えませんよ?」
この女性、見た感じおっとりしているがなかなか鋭い突っ込みを入れてくる。『私が転生者とまでは気がつかないと思うけど、あんまり丁寧に話すのも考えものね』……何て考えるわけがない。私は私がしゃべりたいようにしゃべるのよ!
「僕は初めて"
ルネは未だに興奮状態で説明を続けているが、もうローラさんはそんな話は聞いちゃいない。うん、この家庭で逆らっちゃ行けないのは誰かすぐわかったよ。
「それよりもあなた、頼んでおいた
いつまでもしゃべり終えないルネを一言で黙らせて、何やら頼み事の結果を聞いているローラさん。
「あっ! すまない。忘れていた」
興奮していたルネが、今度は申し訳なさそうに手を頭の後ろに置いた。
しかしまた、2人の会話に聞き慣れない単語が出てきたぞ。気になったら聞かずにはいられない性格なので、我慢せずにすぐ聞いてみましょう。
「
ルネもローラさんも私が
"
「"
「"
そんな貴重な物をほいほい作ってしまっては、この世界のバランスを壊してしまいそうな気がするが、もちろん私は研究者だから気にしない。実験のためなら世界のバランスなど知ったことではないので、自分でも作ることができるのか、早速試してみようと思う。
「その火が消えてしまった
そう尋ねてみると、ルネは持っていた鞄からランプを取り出す。
「これなんだけど、火が消えているだけだから火種さえもらえればまた使えるのさ。まあ、その火種をもらうのにお金がかかるんだけどね」
(このランプの芯に火を付ければいいのかな?)
「えい!」
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