第8話:記憶の場所。

朝食を食べたプリティスはルークが行った釣りの場所に行 ってみることにした。


「ごちそうさま・・・美味しかったです」


「もういいの?・・・出すの忘れてたけどサラダもあるけど」


「大丈夫です・・・」


「あの・・・小屋にいるヤギさんですけど・・・名前なんて言うんですか?」


「ああ、オスの方がベンジャミン」


「メスの方はパンって言うの・・・」


「ベンジャミンさんにパンさん・・・か・・・」

「可愛いお名前ですね」


「ルークがつけたのよ」


「パンは今、妊娠してるからね、元気な赤ちゃん産んでくれるといいけどね」


「私もヤギさんの赤ちゃん見てみたいです」


「きっと見れるわよ」


「あ・・・そうだ・・・私、ルークのところに行って来てもいいですか?」


「うん・・・いいけど・・・」


「場所分かる?」


「子供の頃一緒に行ったことのある場所だから分かると思います」


「あなたは魔法使えるものね、ナビ持ってるようなもんか?・・・」


「じゃあ、ちょっと待って、どうせお昼ご飯も食べずに釣りに夢中に

なるだろうから・・・」

「サンドイッチ詰めるから、持って行って」


子供の頃ルークとよく行った釣り場・・・プリティスはよく覚えていた。


(あの頃ルークに友達なんかいたっけ?・・・自分とだけ遊んでた気がする)


「はい、お待たせ・・・」


「じゃ〜行ってきます」


プリティスは三人分のサンドイッチが入った籐のバスケットを持って玄関を出た。


「気をつけていってらっしゃい」

「あ、ルークに言っといて、ほどほどにして帰ってきなさいって」

「大事なお客さんをほうっておいちゃいけないでしょって」


「はい」


プリティスにとっては、ひとっ飛びの小さな旅だっ た。

ルークと彼の友達のいる場所は分かっていた。


山の風景なんてだいたいどこも同じだ。


でも、なんとなく見覚えのある風景を飛んでいるとプリティスの記憶が

少しづつ蘇ってきた。

プリティスがルークを見つけるのに、さほど時間はかからなかった。


幼い日の記憶を辿ってたどり着いたその場所。

暖かい木漏れ日、風の匂い・・・ なにもかもが、あの頃と変わらない気がした。


「あまり変わってないな・・・」


プリティスは周りをぐるって見渡した。

そして目を閉じると、記憶の中にあったのと同じ空気感を感じて深呼吸した。


「いい気持ち・・・」


記憶の中の草むらの細い道を辿って行くと河が見える開けた場所に出た。

そこに自転車が二台止めてあった。


河の手前にたくさんの石ころと少し離れたところに岩場があって、その岩場の上に

ルークの後ろ姿が見えた。


子供の頃の記憶の中のルークと今のルークの後ろ姿がダブって見えた。


つづく。


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