第3話 オーガキラー殲滅
スキルが進化して、戦える「壁粉砕」に生まれ変わった。
「オーガキラー」の奴らを地上に帰さないことが、今の私の課題だ。
ふざけた賭けのために、遊びで私を殺そうとした5人。
報復と私の安全のために殺る。
ゴブ初級ダンジョン1階。こわごわと自分が出てきた壁に手を当てた。情報が頭に浮かんできた。
「なになに、半径300キロ以内。候補地。シェルハ1階、サクラ1階、その他も入れて5ヵ所。どういう決まりなんだろ。ええとシェルハ1階。座標は1択か」
壁に当てた右手からイメージが浮かぶ。範囲の指定ができる。
開けて、危なかったら瞬時に閉じよう。
高さ30センチの位置に、5センチの円。
「壁粉砕」残りMP182。
しゃがんで穴から中を見ようとすると、至近距離から怒声が聞こえた。
戦闘地が私がいた場所に移っている。なぜだ。
「セバスティアン、フランが隠れた部屋の入り口は見つかったか」
「まだだ」
「早くしろ!」
「あの女、捕まえて犯してやる」
「お仕置きに裸で縛って放置だ」
戦闘音に混じって、こんな会話をしている。
「そっか。私がいなくなったから、ここに退路があると思って、こっちに来たんだ」
30分くらい様子を窺った。魔物の悲鳴が多い。腐ってるけど、奴らは高位戦闘職。まだ1人も欠けていない。
「よし、騙そう」
自分の心境変化に驚きながらも、壁に手を当てた。2ヵ所同時に開けようとしたが、エラー。
1ヵ所限定だ。
地上130センチから縦40センチ。横は3メートル。橫長の長方形で念じた。跳んだり、跨いだりでは、乗り越えられない面倒な形にした。
「壁粉砕」ぼこっ。
「セバスティアン」
「フラン、てめえ!」
この状況でもイキっている。
「隠し窓を開けてあげたよ。早くこっちに来て。しばらくしたら自動的に閉じるわよ」
冷静に考えたら来ない。自分達が殺そうとした私が助けるなんておかしい。
だけど、退路が見えたことで、彼らは私の「罠」に簡単にはまった。
高めの位置ですんなり入れない穴。2人が牽制役で、3人の「獲物」が体を穴に突っ込んだ。
「てめえ、俺達を見捨てようとしたな」
必死な顔が滑稽だ。
「セバスティアン違うわ。処刑の準備が整ったのよ。クズにはギロチンの刑と決まってるんでしょ」
「え」
「私のために死んで」
ざんっ。「クローズ」でダンジョンの壁が閉じ、あれだけの喧騒がピタリと収まった。
沈黙の中でセバスティアン達3人の大きなパーツ、4つブタ頭とブタ腕1本だけがゴブダンジョンに転がっている。
「拍子抜けなくらい、簡単にやれたわ」
再び10センチの穴を開けた。モンスターハウスの中には60匹のオークが残っている。残りは多いが、「オーガキラー」は短時間で40匹を倒したことになる。
放って置いたら生還して私を殺しに来ただろう。関与して良かった。
残った2人は粘っていたが、20分でオークの波にのまれた。
◆
なぜだろう。スキルが「壁粉砕」に変身してから、恐怖感がない。
「とりあえず終わった。色々と整理しよう」
今は、2キロ平方の草原型ゴブ1階セーフティーゾーン横。
3人の男の遺体とオークの首4個が転がっているが、私以外に入る人がいないダンジョン。
遺体や落とし物は2時間でダンジョンに吸収される。金目のものを剥ぎ取って、物を吸収しないセーフティーゾーンに置いておこう。残りは、そのうち消えてなくなる。
200年前のダンジョン発生で人間社会のパワーバランスが変わり、攻撃力か富を持った個人が「正義」になった。
「攻撃」の人間が意外に治安が整った社会を考えている。
だけど「富」でのしあがった家の人間は悪どい。オーガキラーの奴らに温情をかけても、裏切られることは知っている。
「さ、急いで金目の物を頂くか」
セバスティアンの指に指輪がはまっていた。
大アタリで、20メートル四方、時間停止機能付きの収納指輪だった。2個目はなかったが、3000万ゴールドの代物だから、これだけでも大収穫だ。
武器、装備は装飾が独特だった。そこから殺しががばれたくないから廃棄。
お金は銀貨80枚で80万ゴールド。小銀貨20枚で2万ゴールド。めったに見たことがない1枚10万ゴールドの金貨は54枚あった。占めて622万ゴールドに銅貨と鉄貨がばらばら。
最安値のパンが100ゴールド。エール一杯500ゴールド。安宿なら2500ゴールドで素泊まりできる。
1時間空けて、モンスターハウス側の獲物もゲットしようと、壁を粉砕してダンジョンの境界を越えた。
だけど再び魔物100匹がスタンバったので、オークの首なしボディ2体を引き込んで「クローズ」を唱えた。
◆
レベル31で推定レベル70越え3人を私単独で倒した。だから、レベルが54まで上がった。
また「壁粉砕」には恩恵はあった。
何度もダンジョンの壁を粉砕したとこに、壁の欠片は残っていなかった。だけど、小さな金属が100個ほど散らばっていた。
鉄の塊が20にミスリル玉がたくさん。初めて見た1センチ金属玉が1個入っていた。
「こっちも進化してくれたんだ。またダンジョンに感謝だね」
高ランクの魔物を倒せる手段があり、すでにレベル50オークの素材2体分もある。
だけど、今朝までレベル10だった私がシルビア冒険者ギルドに持ち込むべき素材ではない。
セバスティアン達の殺しの可能性を疑われることは、やってはならない。
「それより、試したいことがある」
ゴブダンジョン3階に降りて壁に手を当てた。頭に浮かんだのは、サクラ初級ダンジョン3階のみ。
やっぱりだ。
サクラダンジョン3階には、1度だけ入ったことがある。同じ階だから「壁粉砕」から続く、名付けて「壁転移」の行き先に選べたのだろう。
シルビアから200キロ東に行ったサクラの街の西端にある。60年前に街の中で生まれたダンジョンだ。
さらに、東に350キロのトテムダンジョン3階は選べなかった。だから、行き先の法則性が分かった。
「壁粉砕」の先に繋がる場所。それは、行ったことがあるダンジョンであるだけでは満たされない。転移元と同じ階層に降りている必要がある。距離は300キロ以内。スキル発現の初回は、無意識に慣れ親しんだゴブダンジョンを願った気がする。
サクラダンジョン、トテムダンジョンの2ヵ所は、「壁削り」を得た直後、偉い学者さんが旅費を出してくれて両方の3階まで行った。
「期待外れって言われたけどね」
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