第四十五話 スキルレベル

 部屋割りが決まったので、着替えてから夕飯までミーティングを行うことになった。皆のレベルが上がったので、新たな技能について確認しておきたい。


 皆がライセンスを持ち、それぞれに技能のページを開く。反応はそれぞれだ――エリーティアですら、この瞬間は目を輝かせる。


 ――しかし、その表情は決して明るいだけとはいかなかった。カースブレードの技能はやはりリスクを伴うものが多いのだろう。


(まず、俺の技能は……おっ、ついに来たか……!)


 ◆習得した技能◆


 支援防御1 支援攻撃1 支援回復1 支援高揚1

 鷹の眼 バックスタンド


 ◆取得可能な技能◆


 スキルレベル2

 支援攻撃2:前にいる仲間の攻撃に自分の武器攻撃を上乗せする。

 支援防御2:前にいる仲間に自分の防御能力と同等の防壁を張る。


 スキルレベル1

 支援魔法1:前にいる仲間の魔法を、50%の消費魔力・威力で重ねがけする。

 支援回避1:前にいる仲間がまれに『絶対回避』を発動する。

 後ろの正面:魔力を5ポイント消費し、一定時間後方まで視界が広がる。

 アザーアシスト:魔力を5ポイント消費し、パーティ外の対象を指定して支援する。

 バックドラフト:後ろから攻撃されたとき、自動的に反撃する。


 残りスキルポイント:3


 支援系の技能の第二段階が、ついに取得できるようになった――内容を見る限りでは、俺の能力に依存して、支援の効果が変わるらしい。


(これだと、俺の攻撃が固定ダメージ10以下だと逆に弱くなるな……だが、武器攻撃なら属性が乗るし、俺のスリングも10ダメージを軽く超えるようになれば有用だ)


 もし、取得した技能が上書きされて、『支援攻撃1』『支援防御1』が使えなくなり、俺自身の攻撃・防御による支援補正が11以下だったら、一時的に俺の支援効果が弱くなってしまう。


 しかし将来的にダメージの数値が大きくなってくると、固定ダメージ10よりも、俺の攻撃を乗せた方がダメージが跳ね上がるのは間違いない。パーティ総勢で瞬間的に稼げる手数が現状で20近くだが、固定11ダメージ×20と、仮に15ダメージ×20では、総計で80も与ダメージが変化する。


 まだ取るのは早いか、と迷いはする――同系統の支援が重複するかしないのか、後から取得したほうしか効果がないのか。また新たに検証が必要になる。


「後部くん、私の技能も見てもらえる? どれを取るかアドバイスをお願いしたいんだけど……」

「ああ、すみません、つい考え込んじゃって。エリーティア、スキルにもレベルがあるんだな」

「スキルレベル2が取得できるようになったの? おめでとう。でも、取得に必要なポイントはレベルと同じ数だから慎重にね」


 なるほど、消費が多くなるので、レベルアップで得られるスキルポイントが1増えたのか。そうなると、そのうち4ポイント、5ポイントくらいは1レベルごとに手に入るようになるのだろうか。


 必要ポイントが大きいほどスキルも強力だと信じるならば、まず『支援攻撃2』は取ってしまおう。属性攻撃の種類を増やせれば、全く攻撃が通らなくて支援が役に立たないということも――と考えたところで、俺はあることに気づいた。


(……そうか……固定ダメージも効果的だが、『毒』を相手に付与できれば……!)


 それどころではない、毒以外にも状態異常を付与できるようになれば、全メンバーが装備品に関係なく、相手を状態異常にしながら戦えるようになる。


 あとは『支援魔法1』だが、これは強力な魔法使い系職が加わった時に威力を発揮しそうだ。回復魔法も重ねがけできるとすると、用途は幅広い。五十嵐さんのサンダーボルトしか適用できそうなものがないので、現状は必要ないか。


 アザーアシストは使いどころによるが、面白そうな技能ではある。『支援回避1』も魅力的ではあるが、防御手段は今のところ充実しているのでいったん保留にしておく。


「お待たせしました、五十嵐さん」

「ええ、じゃあお願い。こんな技能が取れるみたいなんだけど……」


 五十嵐さんはセーターにスカートという、転生したばかりの頃の姿に戻っている。まだ迷宮国で買った服の肌触りに慣れないそうで、ミサキとスズナも転生時の私服姿だった。


 ◆習得した技能◆


 ダブルアタック サンダーボルト

 ブリンクステップ 囮人形


 ◆取得可能な技能◆


 ・貫通攻撃1:槍を装備したとき、打撃の一部が敵の防御を無視する。

 ・デコイ:使用した対象に敵の攻撃を引きつける。

 ・ブレイブミスト:味方の恐怖状態を解除する。

 ・フリーズソーン:敵の足を凍結させて動きを鈍らせる。

 ・雪国の肌:凍結状態にならなくなり、魅力が増す。

 ・弾除け1:敵の間接攻撃が少し当たりにくくなる。


 残りスキルポイント:2


「貫通攻撃、いいじゃないですか。デコイも凄く汎用性のある技能ですよ。囮人形と組み合わせる使い方がメインになりますかね」

「そ、そう……そうよね。『雪国の肌』は、後部くんとしては必要ないわよね……」

「えっ、なんですかその美人になれそうな技能。いいなー、その技能私も欲しいです」

「ギャンブラーからはヴァルキリーにはなれないと思う。巫女からヴァルキリーにはなれそうだけど」

「わ、私ですか? 雪国の肌……素敵な名前の技能ですね……」


 スズナもそれなりに興味があるらしい。尤も、ミサキもスズナも若いので肌は瑞々しく、艶もハリも申し分ないように見える。北欧出身のエリーティアも白い肌が透き通るようだが、呪いの剣のせいなのか表情は気だるそうなことが多く、少し目にくまができてしまっている――社畜時代の俺もクマがひどかったが、今は生まれ変わったように顔つきが明るくなっていたりする。探索は良い運動になるし、ストレスが皆無だからだろう。


「じゃあ……五十嵐さん、貫通攻撃は俺の支援があればまだ必須でもないので、『雪国の肌』を取ってみましょうか」

「え……い、いいの? そんな、私の我がままで……」

「これは探索に絶対必須だなと思ったら、俺も強くお願いしますが。『デコイ』は取っておいてほしいですが、他は絶対っていうものは無いですし……何より、五十嵐さんが自分で取りたいスキルなのに、我慢してもらうのは良くないと思うので」

「……『凍結』させてくる敵が出てきたときは、絶対役に立つわ。え、えっと……じゃあ、『デコイ』と『雪国の肌』を取るわね」


 みんなが見守る中、五十嵐さんがライセンスを操作する――すると。


「……何か変わった? やっぱり、目に見えて変化があるものじゃないのね」

「な、何かも何も……キョウカお姉さん、全体的にヴァルキリーっぽさが増してますよ?」

「そ、そうだな……五十嵐さんのままではあるんだけど、何か風格が出たというか」

「そんなこと言って、私に気を遣ってくれてるんでしょう。簡単にきれいになろうなんて、甘い考えだったわね……反省しなきゃ」

「自分でも確認してみたら? キョウカ自身の目で確かめた方がいいし」


 エリーティアに言われて、五十嵐さんは半信半疑といった様子で化粧室に向かう。


「……雪が降る戦場いくさばにたたずむ戦乙女ヴァルキリー。『雪国の肌』は、そういう印象を与える技能なんですね」


 スズナが感想を述べた通り、元から美人ではあった五十嵐さんだが、そこに本格的な戦乙女感というか、戦う女性特有の魅力が追加された。


 戻ってきた五十嵐さんは残念そうな顔をしている。だが俺から見るとその肌はトーンアップしたというか、白くきらめいて見える。テカッているということでは決してない。


「やっぱりあまり変わってない気がするけど……後部くん、どう思う?」

「え、えーと……五十嵐さんは元から美人だから、変化が少ないんじゃないですか」

「まあ気遣いはうれしいけど、期待したほどじゃなかったわね。凍結を防ぐ効果に期待しなきゃ……取る技能は、これからは後部くんに任せるわね」


 効いているのに自覚がないとは、魅力の変化は周囲にしか分からないものなのだろうか。それであれば、五十嵐さんが技能の有用性を知って喜ぶのは、彼女の言うとおり凍結攻撃を防いだ時になるだろう。


 『デコイ』の文面からして、敵に効果があったりすると凄い威力なのだが、そこまで便利な技能がレベル3で手に入ることもないか。弱い敵で検証はしておきたい――ワタダマが仲間によってたかって攻撃されるところなど、見たら少しかわいそうになりそうだが。


「……アリヒト、私みたいな職の技能を見るのは気乗りしないだろうけど……もし良かったら、後で見てもらえる?」

「気乗りしないなんてことはないけど、エリーティアの技能を見たら圧倒されそうだな」

「そ、そう……嫌じゃないなら、リーダーのあなたには知っていてほしいから。今は少し疲れたから、申し訳ないけど休ませてもらうわ」

「はい、夕食のときは起こしますね。おやすみなさい、エリーさん」


 エリーティアはみんなに挨拶され、手を小さく振って自分の部屋に行った。部屋割りは俺とスズナ、五十嵐さんとテレジア、ミサキとエリーティアという組み合わせになっている。


「お兄ちゃんもそろそろ疲れてないです? それなら私は日を改めて相談させてもらえればなー、なんて」

「ミサキちゃん、私は夜に聞くから、今アリヒトさんに聞いてみたら?」

「え、いいの? お兄ちゃん、どの技能がいいと思う?」

「そうだな……その前に、横に座るのはいいけど、そんなにくっつかなくてもいいんじゃないか?」

「あ、お兄ちゃん照れてる。年の差があるっていったって二倍も離れてないんだから、私もちゃんと意識されてるってことですかー?」

「二倍も離れてないったって、29の男と高校生じゃどう考えても犯罪だろ」

「えー、転生しちゃったんだから関係なくないですか?」

「そ、それは……アリヒトさんの考え方を尊重しなきゃ。私たちはまだ、アリヒトさんから見たら子供だから……」


 ミサキは不満そうで、スズナも何か遠慮している。俺は二人を子供扱いしているのではないのだが、そう取られもするわけで、なかなか難しい問題だ。


「ミサキはそういうことに興味のある年頃なんだとは思うけど、後部くんみたいに真面目な人をからかうのは感心しないわね」

「悪いこと考えてるわけじゃなくて、単にお兄ちゃんだったらくっついてもそんなに気にしないですよって言いたかっただけです。分かってもらえました?」

「あっ……ミ、ミサキちゃん。テレジアさんも見てるから……」

「…………」


 同席しているテレジアがミサキを見る。その圧力に何かを感じたのか、ミサキはつつつ、と俺と適切な距離を取った。


「えっとですね、これが私の技能なんですよー」

「しれっと仕切り直したわね。空気が読めるのはいいことよ」

「キョウカさん、きれいになったからってお兄ちゃんに独占欲出しすぎですよー」

「なっ……そ、そんなことあるわけないじゃない。後部くん、私は少し屋敷の中を見てくるから、この子たちをよろしくね」

「は、はい……行ってらっしゃい」


 五十嵐さんは席を立って出ていく。ヒールのあるブーツのコツコツと鳴らして歩いていく彼女は、『雪国の肌』を取ったせいか、後ろ姿すらも見とれるものがあった。


「……ほんとに綺麗な人ですよねー。お兄ちゃん、率直に言ってどうです?」

「率直にと言われても、うちの会社でも評判の美人だったし、男性社員にも人気があったとしか……」

「アリヒトさん、私のおせっかいかもしれませんが、鏡花さんについていってあげてください。このお屋敷には他のパーティの方もいるので、エスコートの男性が必要だと思います」

「そ、そういうもんか?」

「そうですよー、美人はいつだって狙われちゃいますからね。お屋敷の中なら大丈夫と思いきや、そういう趣味の女性もいるかもしれませんしねー」

「ミ、ミサキちゃん……それはいくらなんでも、ここで働いている人たちに失礼だから」


 ミサキもスズナも、テレジアまでもが、なぜか俺を行かせようという空気になっている。


 そこまで言うなら、一応ついていくか。どんな顔をして『エスコートに来ました』とか言えばいいのか分からないが。

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