ヒーローが怖い
僕はヒーローが怖い。
それにはもちろん理由がある、僕がまだ小学1年生の頃、本当に大好きなヒーローがいた。
タイトルは伏せるが、よくある赤、青、緑、黄、ピンクの衣装を着たやつだ。
毎週土曜日の夜は、テレビの前で釘付けだったのを、今でもよく覚えている。
ある日、お母さんが「近くの遊園地に、あんたの好きなヒーローが来るよ」と言った。
僕は動揺した、地球を守っているヒーローが熊本に?
僕の住んでいた場所は、熊本でもかなり田舎で、周りには何もない所だ。
そんな所に大好きなヒーローが来る。まるで夢の様な話しだ。
僕にはやりたい事があった。
大好きなヒーローの青に会って「いつも地球を守ってくれてありがとう」と伝えたいのだ。
僕はお母さんとお父さんに、遊園地のヒーローショーに行きたいとおねだりした。
…………
週末、遊園地に連れて来てもらった。
園内に入り、いくつかの乗り物に両親と乗る。
いつもは楽しかったはずの乗り物が、今日は何故か楽しくない。
僕の心は13時から始まる、ヒーローショーに釘付けだったからだ。
お昼ご飯を食べてから、一番前の席に両親と座る。
何もない熊本に大人気のヒーローが来るという事で、会場は信じられない程の人だかりだった。
会場にヒーローのテーマ曲が流れる。
その曲を皮切りに、会場にいる子供たちが総立ちで歓声を上げる。
そして、遂にヒーローが登場。
僕はそこで自分の目を疑った、赤とピンクしかいなかったからだ。
ここで会場側の説明が放送で流れる。
青、緑、黄、のヒーローは別の地域で地球を守っており。
熊本には、赤とピンクの二人で来たとの事だった。
確かに男の子一番人気は赤、女の子一番人気はピンクなので、ほとんどの子供たちは喜んでいた。
でも僕の大好きなヒーローは青なのだ、赤やピンクでは、まるで意味がない。
一気にテンションが下がり、僕はへたり込むように、席に座った。
そしていざヒーローショーが始まると、今度はヒーローショーにも違和感を感じた。
ヒーローの動きが鈍いのだ、テレビで見るヒーローは、もっと機敏に飛んだり跳ねたりしていたのに、目の前にいるヒーローは、まるで別人のように動きが重い。
そして極め付けはヒーローが着ている衣装だ、どう見ても背中にチャックがある……。
本物はこんな感じなんだ。
僕は心の底からがっかりした。
…………
ショーが終わり、今度は実際にヒーローと触れ合える時間が始まった。
司会進行のお姉さんが「赤とピンクにありがとうを言いたいちびっ子達~!手をあげて~!」と言うと。
会場にいる子供たちが「ハイ、ハ~イ」と一斉に手をあげる。
司会進行のお姉さんが、手をあげた子供たちの中から10人くらいをランダムで選び、その子供たちがステージにあがる。
子供たちはステージに上がった事で大興奮。赤やピンクの元に駆けて行き、大きな声で「ありがとう」を伝えていた。
赤は自分に「ありがとう」を言いに来た子供たちと、握手をしたり、ハグしたりしながら一人一人に何かを囁いていた。
憧れのヒーロー。それも圧倒的一番人気の赤に会えた喜びからか、子供たちは、みんな大号泣していた。
その時の僕は、ヒーローに対しての興味をすでに失っており「早く終わらないかなぁ」と思いながら、冷めた目でそれを見ていた。
それに気付いたお母さんが「あんたも手をあげて、ヒーローの所に行ってきなさい」と言った。
正直嫌だったが、わがままを言って遊園地まで連れて来てもらった手前、両親に申し訳ないという気持ちもあって、僕は渋々手をあげた。
僕は一番手前に座っていたので、手をあげるとすぐに選ばれてしまった。
司会進行のお姉さんに呼ばれて、ステージに上がる。
周りの子供たちは、興奮度MAXの状態だ。
僕は仕方がないので、赤に「いつも地球を守ってくれてありがとう」を伝える事にした。
司会進行のお姉さんが「じゃあみんな~赤とピンクにありがとうを伝えてね~」と言った。
その言葉を合図に、子供たちが一斉に赤とピンクの所に走っていく。
僕は少し遅れて赤の列の一番最後に並んだ。
一番前に並んでいた子供が「赤~いつも地球を守ってくれてありがとう」と大きな声で伝えていた。
赤はその子と握手しながら耳元で何かを囁いている。
その子は感極まったのか、大号泣しながらステージを降りていった。
その後も、そのまた後も、赤の列に並んだ子供たちはみんな、大号泣しながらステージを降りて行く。
僕はぼんやりとその光景を眺めながら、僕は青のファンだから涙は出ないかなぁと考えていた。
気付けば、僕の前にヒーローの赤が立っていた。
慌てて「赤、いつも地球を守ってくれてありがとう」と感謝を伝えた。
赤はよく来たな!待っていたよ~といった感じの身振り手振りで、会場側にいる大人たちにアピール。
そのあと僕の頭をゆっくりと撫でながら、耳元で「君の顔はしっかり覚えたぞ〜こんや殺しに行くから……待っててね〜」と囁いた。
赤いマスク越しに見えた中の人は、全然知らないおじさんだった。
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