第七話 私は絶対悪くない/狐
狐が見てる。
狐が見てる。
狐が見てる。
どうして?
真っ直ぐの黒髪、白い肌、一重まぶたの陰気な目。
一重には人権ないんだよ? なんで二重になるように化粧しないの?
整形したっていいぐらい。ブスは嫌い。ブスには人権ないから。
声も嫌い。訛りがあるのも嫌い。訛りを直そうとしないのも嫌い。
「苅谷さんの訛りってちょっとカッコいいよね」とか言ってたクラスメイトの体操服は焼却炉に放り込んで、教科書は纏めて男子トイレの個室に突っ込んだ。
それなのに、あいつは毎日学校に来た。ひっくり返された机を元に戻して、切り裂かれた教科書を開いて、ノートが破られることも予想していたみたいに毎日新しいノートを持参してきて、ぱっと見ですぐに『イイモノ』って分かるシャープペンシルを使ってて苛々する。
で、苅谷が本に没頭してるから、後ろから
だから、私と
今までだって転校しまくってたって話だし。別にうちの学校に卒業までいる必要なんてないじゃん?
5人で、苅谷夜明を観察した。それで気付いた。あいつ、読んでる本は毎日違うけど、使ってるしおりは同じなんだ。
大事なモノなんだって、すぐに分かった。
そこからはすぐ。今度は5人で苅谷夜明を取り囲んで、本を取り上げて。「返せや!!」って叫ぶ声で、このやり方が正解だったんだって分かっていい気分だった。
本を西林に放り投げて、西林がしおりを破った。苅谷夜明は真っ青になって、その場に膝を付いた。私の勝ち。私たちの勝ち。
美樹が、西林が持ったままだったしおりを取り上げて、苅谷夜明の目の前でひらひらと揺らした。そこでようやく、あの女は顔を上げた。目に涙が浮いていた。
「返してほしい?」
返してあげる気持ちなんてないくせに、美樹はそう尋ねた。
私たちは爆笑してた。
周りにいる他のクラスメイトは──誰も何も言わなかった。
だから、ねえ、悪いのは私じゃないんだって。私と
見て見ぬ振りしてたクラスの連中も、全員同罪じゃん?
そうでしょ?
なのに、どうして。
ベッドの中にいる私を、狐が見てる。
なんなの。
苅谷夜明が使ってた大事な大事なしおりには、狐の絵が描かれていた。
だからなの?
帰ってよ、出て行って。
私の青春めちゃくちゃにしないで。
狐が見てる。
狐が見てる。
狐が見てる。
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