第2話

「は〜いっ!」


 お母さんは、料理をする手を止め玄関ドアに向かう。

 本日、體神變孃埜たいしんへんこの家には来訪者が訪れていた。


「いらっしゃい、よく来たね。ほら、入った、入った!」

「おじゃましま~す」

「おじゃまします!」

「お邪魔しますわ」

「おっじゃましまーす!」


 東京にある我が家に入って来たのは、大阪に住む滿志羅魏ましらぎ一家であった。


「サスミ、久し振りね。元気してた?」

「えぇ、元気にしとったよ。見たところアヤミも変わりなさそうやね」

「もうすっかり関西弁に馴染んだみたいね」

「そないな事あらへんよ、ウチもまだまだやねん!」

 

 ターゲットNo.1番、滿志羅魏サスミー!!

 

 大人の色気を漂わせるサスミさんがしているブラウンカラーの三つ編みハーフアップからは、鼻腔をくすぐるハチミツのような甘い香りと三色お団子のような味を感じた。

 正直、あのデカデカダブル円周率、通称ππの谷底にある汗はどんな匂いがして何味なのか、当然未開の地であるため、許してもらえるなら是非ともダイブして5時間くらいクンカクンカしてたい。


「マサイ君、久し振り」

「お久しぶりです!」

「マサイ君は関西弁で喋らないの?」

「自分は野球部に入ってからは関東の方へ遠征することが多くなったの影響で、訛りがなくなって関西弁から関東弁になっちゃいましたよ。あははっ」


 ターゲットNo.2番、滿志羅魏マサイー!!


 野球少年こと、マサイ兄からは汗臭いおとこの臭いとお陽さまの日光の香りが──

 そしてその味は、まるで塩のしょっぱさ、アンモニアや尿素が多少混じったようなものだった。

 出来ることなら、真正面から力強く抱き着いて、脇のお汁を一滴だけ吸わせて欲しい……


「シオリちゃん、今日も可愛いわね!」

「ありがとう御座います」


 ターゲットNo.3番、滿志羅魏シオリー!!

 

 海のように濃い蒼色の腰まで伸ばした髪がゆらりとなびく度に様々な匂いを撒き散らす。

 コマキにとっては“格好の獲物”。

 髪飾りは非常に無難である黒いカチューシャを着けてて、無駄なものは必要ないと言ったシンプルイズベストが具現化された存在。

 それこそが滿志羅魏ましらぎシオリという人である。

 あは〜、シオリ姉の体隅々まで貪り尽くしゃい。

 ニチャアアと、私は無意識のままヨダレを垂らし、恍惚とした表情で見つめていた。

 私は「危ない、危ない」っと垂れていたヨダレを急いで拭った。


「マゐちゃん、いらっしゃい! 疲れたでしょ、ゆっくりしていってね」

「は~いっ!」


 ターゲットNo.4番、滿志羅魏ーマゐ!!


 右側の髪を二つのヘアピンで、左側をヒマワリ型のヘアクリップで留め、ヘアゴムを使って後頭部の髪を一つでまとめている。

 この少女こそ、私の親友である意識高い系活発ファッション少女マゐちゃん!

 あぁ~、マゐちゃん、マゐちゃん。……マゐちゃんマゐちゃんマゐちゃんマゐちゃんマゐちゃんマゐちゃんマゐちゃんマゐちゃんマゐちゃんっ!!

 今日はどんなお花の匂いなのかな〜? 果物の匂いなのかな〜? 甘いのかな? おいしいのかな?

 苦いのかな? 酸っぱいのかな? それとも辛いのかな? 

 妄想を膨らませる私は、一刻も早くお部屋に行ってマゐちゃんの薫りを嗅がせてもらいたいと興奮していた。


「サスミ、コマキちゃんは?」

「あの子なら部屋に籠もって、きっと遊んでるわ」

「ほら、マゐ。行ってきな」

「は〜い!」

 

 「マズイッ!」っと思った私は、音がたたないように、足を忍ばせそそくさと自分の部屋に戻った。


《今回の登場人物》

 私(コマキ)

 サスミ(コマキ母)

 滿志羅魏ましらぎアヤミ(母)

 滿志羅魏 マサイ(長男)

 滿志羅魏 シオリ(長女)

 滿志羅魏 マゐ(次女)



※この作品は単発となります。好評であれば続くかも──

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