第2話 雪乃様
『なんだい!翼くん、異世界に行ったのに僕を捨てなかったのかい? 幸せになれるチャンスだったのに!』
頭の中に可愛らしい声が聞こえてくる。
『僕が神様を捨てる訳ないじゃないですか?今でも感謝しているんですから』
『本当に君は義理固いね!僕なんか捨てて他の神を信仰すれば幸せになれると言うのに、全くもう!しかも、今回は異世界の神様に直接会えるんだから、お願いすれば良かったじゃないか?』
『神様、僕怒りますよ!』
『あはは、もう言わないよ! 全く君は良い子だね!流石僕の子だよ』
今、頭の中で会話している女の子が僕の神様、雪乃様だ。
黒髪のおかっぱで三白眼だけど色白の、背が低い凄く可愛い少女の姿をした神様。
遊女みたいに着物を着崩しているけど、着物は結構傷んでいる。
『そうしてくれると助かります』
『解ったよ。まぁ僕としてはたった1人の信者で友達の翼くんと縁が切れなくて嬉しいけど?本当に良かったのかい?』
その可愛らしい笑顔に魅了される。
『良かったんです!』
『そうかい、そうかい! しかし、異世界とは難儀だね!普通の神様じゃ対応できないよ!普通の神様は沢山の信者を抱えていて大変だからね!その点僕には信者は君しかいないから、安心しなよ?顕現は出来ないけど、しっかり見守ってあげるからね』
『ありがとうございます』
雪乃様には他にも呼び名があるし、神としての通り名もある。
だが、その呼ばれ方を彼女が好まないから『雪乃様』と呼んでいる。
この雪乃様の名前は僕が雪のように綺麗と褒めた事を雪乃様は気に入って名前にした物だ。
『一応、僕が、他の神様みたいに祝福をあげて置いたよ!異世界なんて初めてだから、良く解らないけど、僕なりに頑張った祝福だ!まぁ見て置いてくれよ!困ったら何時でも僕に言うんだよ!また考えるからね?それじゃあ、頑張ってね』
そう言うと雪乃様は消えていった。
変わった神様だけど、良い神様だと思わない?
ただ、唯一の問題は彼女の正式な神としての名は黒闇天『貧乏神』な事だけだ。
脳内会話は取り敢えずこんな感じで終わった。
◆◆◆
「ステータス」
そう僕が唱えると自分のステータスが頭に浮かんだ。
名前:クロキ ツバサ
状態:正常
レベル:1
HP:10
MP:10
守護神:黒闇天(雪乃)
スキル:翻訳、収納、無病息災(常時発動)、恋愛成就(常時発動)、心願成就(常時発動)、貧乏小(常時発動)、器用貧乏
魔法:
アイテム:金貨入りの小袋(金貨4枚)
これが僕のステータスだ。
RPGのゲームみたいだ。
魔法が空欄なのはまだ覚えていないからだろう。
金貨4枚の価値は解らない。
向こうに着いてから考えるしかないな。
◆◆◆
良く貧乏神というと勘違いする人が多いが、貧乏神というのは人を不幸にする神じゃない。
本当に人を不幸にするのは『疫病神』だ。
貧乏神は、人を貧乏にする代わりに他の幸せを沢山くれる神様なんだ。
僕は雪乃様に助けられた。
命を助けられた僕は、雪乃様を裏切らない。
裏切りたくない。
僕は雪乃様が貧乏神だからと言って、異世界に来たからと言って他の神様に寝返る事なんて絶対にしない。
そう決めたんだ。
◆◆◆
あれは僕が5歳の時の事だ。
幼くして両親を亡くした僕は、祖父と祖母と一緒に暮らしていた。
そんなある日、僕はGISTという質の悪い病に掛ってしまった。
GISTという病は悪性の腫瘍でガンの一種。
漢字の癌よりも、数段質が悪い。
手術出来る医師も当時は少なく、また腫瘍の大きさによっては抗ガン治療が生涯続き、その抗がん剤も通常の薬とは違い保険を使っても高額でその費用が払い続ける事が困難で自殺する人も稀にいる病だった。
僕の腫瘍の大きさは結構な大きさで絶望的だった。
手術しても死ぬかも知れない。
手術に成功しても、高価な抗ガン治療が永遠に続き、副作用で働けない生活。
僕には絶望しかなかった。
高齢な祖父や祖母は手術代は払えてもその後の抗ガン治療の工面は難しい。
それに僕は、生きられても2人が死ぬまで迷惑を掛けた生活を送る事になる。
何も出来ない僕は、あちこちの神社やお寺の神仏に縋った。
勿論、神様なんかが現れる訳無い。
それでも縋るしか僕には無かったんだ。
5歳の僕には神に祈る、それしか思いつく事が無かったんだ。
もう僕の人生は詰んだ。
そう理解し、もう解っていた。
誰も僕なんて助けてくれない。
だけど、祈る事を止めるのが怖くて、ただただ神社やお寺を暇さえあれば回り拝んでいた。
古ぼけた誰も拝んでない様な、壊れた祠を拝んでいた時の事だ。
祠の中から1人の女の子が現れた。
『なかなかめんこい男の子だね? 助けて欲しいんだ! 僕が助けてあげようか?』
その子が人間じゃ無いのは何となく解った。
声が聞こえてきたのではなく頭の中に直接伝わってくる。
「本当に?」
『ああっ約束するよ、ただ僕の信者になって欲しいんだ!ずうっと1人ボッチで寂しかったんだ』
「良いよ、僕約束する」
『そうかい? それは僕が貧乏神でもかい?』
『うん、約束するよ!』
雪乃様は約束を守ってくれた。
大きかったGISTの腫瘍は4cm迄小さくなり開腹しないで腹腔鏡手術でどうにか切れる事になった。
(※GISTは5センチ以下になるとリスクが、かなり低くなる病気です)
しかも、かかりつけの病院にGISTを切れる名医が教授同士の争いに負け、左遷して来て、僕の手術を担当してくれる事になった。
死ぬかも知れない、生きていても人生が詰む。
そんな運命が、たった1週間の入院で終わった。
これはどうやったか解らないが雪乃様のおかげなのは解った。
その時から、雪乃様は僕にとって、大切な友達兼神様になったんだ。
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