第7話 おや、友人の様子が?(深井夜視点)

 明るい色に統一された可愛らしい自室に帰り着く。観葉植物や並べられたぬいぐるみは記憶を取り戻す前の趣味だ。今はもう少しパンクな部屋が好みだけれど、これ以上望みを言うのは悪い気がして言えていない。両親にはすごくお願いして叶えてもらったことがあるから。


「もー、なんだよ。ほんとヤバいって」


 ボクは女子の制服が隅っこに追いやられたウォークインクローゼットをあけ、着替えの服を取り出す。男子の制服を丁寧にハンガーにかけ、男物のTシャツ、ジーンズに着替えた。

 そう、ボクは特別に男子の制服で登校させてもらっている女子なのだ。


「今日もたっくん、かっこよすぎだー!」


 長い前髪ごと両目を手で押さえ、今日のたっくんメモリーを呼び起こす。ホント、毎日すぐそばでお仕えしたくてたまらない。

 ボクの部屋の窓を開けるとたっくんの家が見える。

 暇があればじっと眺めている。

 男子の友達という立ち位置を利用してあの距離を取ることに成功してる。ボクが女の子だとわかったらきっと距離をとられてしまう。昔仲が良かった幼なじみ仲間のまゆちゃんとたっくんは最近距離がある。ずっとずっと仲良くいたかったら男の子じゃないとダメなんだ。でも、いつか本当のボクを知ってもらえる日が来るのかな。

 せっかく、女の子に生まれ変われたのに――。


 ボクには前世の記憶がある。たっくんに助けてもらったあの日、ボクは思い出した。

 魔王様側近、左腕とまで言われた魔族ミッドナイトだったことを――。中二病にでもなったのかと最初は混乱した。けど、間違いなんてない。ボクはミッドナイトだった。そして、同性の魔王ダークナイトに尊敬と恋心を抱いてしまっていた。

 報われない恋だとわかっていた。だから、ボクは彼の左腕としている事だけで満足するように自分に言い聞かせていた。


 あの日、魔王様と勇者の戦いが突然始まり力がぶつかり合ったのだろう。

 魔王様の元にたどり着く前にボクともう一人の側近は巨大な力に飲み込まれた。どうか、魔王様……ダー君はご無事でありますようにと祈りながら意識がそこで途切れてしまった。


 ミッドナイトの記憶を思い出したのは小学生の女の子。そう、諦めていた女の子としての人生がこの世界では実現しているのだ。

 だが、ダー君はここにいない。絶望の中、涙を流していると近所の子ども達が遊びに誘ってくれるようになった。ボクの心はなぜか高揚していた。ダー君がいない世界なのに何故?

 答えはすぐに出た。

 いるのだ。ダー君が。

 大間拓也おおまたくやは魔王である。ダー君もまたボクのように転生している。そして彼がダー君と確信している。


「たっくん、強いね」

「ん、そうか?」

「うん、強いよ。いつもありがとう」


 ボクがイジメられてたら飛んできてくれて助けてくれる。なぜかいつも一緒にまゆちゃんもついてくるけどボクの目にはカッコイイたっくんしか映っていない。


「あいつら、しつこいよな。またなんかされたら僕を呼ぶんだぞ」

「うん!」


 仲間思いだったダー君がいつも言っていたセリフに似ている。

 中学になったある日からは、使い魔のような影が見えるようになった。たっくんにいつも付き従っているように見える。

 間違いない。たっくんはダー君だ。

 だけど、記憶を取り戻していればきっとボクの事もわかるだろうと思っていたけれど、これっぽっちもその気配が感じられない。いや、むしろそれでいいのかもしれない。だって……。

 仲間思いの彼は記憶が戻れば、元の世界に戻れるようにするかもしれない。きっと使い魔やボクらが元の生活に戻れるようにと尽力するだろう。

 ――――嫌だ。

 せっかく女の子になれたんだ。それに、ダー君もここにいる。なら、元の世界になんて帰らなくていいじゃないか。記憶なんてなくてもダー君はダー君だ。

 ……あとはあの力、魔王と勇者の力のぶつかり合いで発生したのなら。勇者をたっくんに近寄らせてはいけない。

 勇者もまた転生し魔王を探してるかもしれない。一番怪しい人物はまゆちゃん。似てる気がするし、彼女は気がつけばたっくんをじっと見てる。

 思い出させちゃいけない。ボクはその場面を目にした時、少しだけ使える魔法を使って目眩まししてる。

 まゆちゃんとの距離が開いてる今、やるべき事は彼女を含む他の女子達すべてからたっくんを守る事。

 覚醒すれば魔王のカリスマでたっくんはモテモテになってしまう恐れがある。だから、彼は男にしか興味がないという噂を流し男装したボクがいつもくっつくことによって防いでいるのだ。いらない虫がつくことをっっ!!

 それでも近づいてくるやつがいるのはさすがたっくんなんだけどさぁ。


「えへへ、たっくんー。明日もぎゅーってしよーっと」


 ――、今さらボクが女の子の格好をしたって気持ち悪いって思われたり距離を置かれるのはいやだ。

 だったら、ボクは男友達深井夜を続ける。それが彼の側にいられる手段なら――、いくらでもいつまででも。


 たっくんの部屋。カーテン越しの彼の影が大きくクシャミをしてるように見えた。

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