第22話 魔法少女御用達のキラキラゴテゴテカラフリーな魔法の杖】

魔法の杖を作り直してハナちゃんの武器をこしらえます。

遠中距離攻撃用です。このパーティで遠くの敵を倒すのは

彼女しかいないもので……。

ご笑覧いただければ幸いです。

※注

白い◇は場面展開、間が空いた印です。

―――――――――


 終わってる感が、っパない。


 諸事情を鑑みれば、ハナの負担が増え、彼女一人きりに全て任せるのには心苦しいが、やっぱり彼女の遠距離攻撃の充実が全ての鍵だろう。



 だから僕は今、一心に木を削っている。ただの木じゃない。元“魔法の杖”だ。肝はハナの攻撃力の向上と遠距離精密攻撃。そして弾速。

 ちなみに千切れ飛んだ耳は傷口に押し付けて包帯で巻いといた。ミイラ男状態を一日そのままにしてたら無事に着いてた。

 でもちょっとカタチが変じゃね? 自分では見れないんだけど、触り心地で。で、何でハナもサチも顔を背けんだよ。



 『溜まりの深森』の“忌溜まりずっとおく”に入る前に、各自の持ち物を確認しあった。ハナとサチが。

だって僕はなーんも持ってないもーん。


 その中でハナが魔法の鞄ストレージ から最後にとても気まずそうに取り出したのが、これぞ正当“魔法少女”御用達のキラキラゴテゴテカラフリーな“魔法の杖ロッド”だった。そのサイズ感は別にして。


 最初は自分の遠近感が狂ったのかと思った。ねぇ、想像できる? 二メートルを超えてサチの腿より太い“魔法少女のラブリーな杖”って。

まぁ、隠しておきたいよね。


「てへぺろ。パパが私のために特注したんだけど、サイズ感間違えちゃったみたい」


「まぁ、いいんだけれどもね、実用性ってあるの?」


「付与は威力三割増し、直進速度特化。でも重くて長くて無理」


「なんの意味があるんだ、それ?」


「でも無駄に超高級品ですよね、これ」とサチ 「真ん中の大きい魔石は収束力から直進性と速度増加を生みますし、杖の素材と質量は魔力の循環効力を上げる事で威力の増幅に成ります」


 その時は「へーそうなんだー」で終わってたけど、今に至って現況の状況改善、自力UPの為に改めて出してもらい無理クリで試しに使って見せてもらった今ここ。


 真っ直ぐ飛ぶのは最初の二十メートル程度まででその後はカーブ・ホイップ・シュート&七色の変化球で面白いようにあっちこっちに飛んでいった。


 使えるじゃん。取り敢えず二十メートルは真っ直ぐ飛んでくれる。なかなか。何より、速度が上がってる。改善の見通しも垣間見れる。

 でも、横抱して構えてたハナの腕がプルプルしてた。相当重いんだろな。



 『魔法の杖』とは即ちエネルギーで有る魔力を実務効果を生む魔法へと変換する際のその有効率と速度を増強させるものらしいが、それが今ではエンターテイメント方向に極振りして、もう機能性より見栄え、威厳と位、即ちお金持ち貴族な魔法使いの象徴と成り果てたらしい。

それが先っぽにデカイ星の飾りがついた棍棒並みに太く二メートル超えの“魔法少女ステック”の正体だ。


 彼女の十三歳の誕生日の舞踏会デビュタントで“魔女っ子の初めての“魔法の杖ロッド”として展示されたものらしい。展示って……。

 因みに展示方法は召使いがブツを抱え、本人の後ろを付いて廻るらしい。


「でも、女子受け凄かったんだから。バズってた。筋肉モリモリの召使いが、だけど」


 そうですか。

 僕は腰からハナに貰った中途半端に折れた剣を抜き、徐にその“魔法少女ステック”を半分に叩折ってみた。


「何すんじゃー!」とサチ。


「あ、いいかも」とハナ。

 だって半分以上がただの飾りだし、余計なものを端折っただけ。小型化と軽量化。製品の進化の正しい有り様。



 例の如く中学生の頃の木工技術講習で習った技を屈指した。やっぱり僕は木工技術講習の事さえ忘れていたが、それが何か? ダマレ似非大賢者。


 余計な部分を削り、何に作り変えるかと言えば長銃ライフル形態の鉄砲だ。限りなく形状は火縄銃っぽいけど其処そこはご愛嬌、この火縄銃モドキの肝は三つ、ひとつはホールド性、二つ目は標準装置だ。


 不恰好ながら削り出しの銃握グリップで支え、銃床ストックで肩付けさせホールド。標準は頬付で照準合わせロックが可能な照星フロントサイト照門リアサイトを設けた。

 銃身の後ろと前と標的の三点を一直線上に捉えて離さない照準システムはアナログで単純だが、銃火器の進化に欠く事の出来ないエポックメイクだ。これにより命中力は格段に上がる。はずだ。たぶん。


 この杖が特種な訳ではなく、普通の“魔法の杖ロッド”の主な機能はその直進性の強化補正だそうだ。何故その様な機能が備わっているかというと、もともと魔法の攻撃は狙った的に正確に当てるのは相当難しいものではあるらしい。


 考えてみれば素人もオオタニサンもただボールを投げる事は出来るが、スピードとコントロールが段違いだ。素人ではホームベースまで届かせるのだって大変だし、いわんや的に当てるなんて相当だ。

 まぁ、そういう事なんだろう。そう考えるとハナは上手い方かも。対フワ金さん戦では高所&足元をしっかり固定出来ていたとはいえ、確実に当ててた。期待できる。


 三つ目の工夫キモ

 制作で実は一番苦労した|(してしまった)のが、実際に可動する引き金トリガーの取り付け工程だった。理由は連射の為。どうして連射の回転数が上がらないかと言うと、魔法を放つ為の顕在の意識が一発撃つ度に途切れ、その都度最初からやり直ししているから(一発毎に詠唱が必須との思い込みから)。

 それなら顕在化の意識をトリガーを引くという単純行為に関連付けて仕舞えばいい。連射に必要な魔力も充分、無詠唱も出来る。ならイケるしょ。


 これで足場が不安定な移動中でも数多く撃てばある程度は当たる様になるだろう。後の問題は弾速の遅さと射程距離が短すぎるだろ、の問題だ。

 実はこれが一番難解であり、残念ながら“魔法の杖ロッド”の物理的な工作だけでは解決出来そうにない。


 二十メートル先でホイップするのも弾が遅いのも同じ理由で、炎弾そのものがまるで羽の如くに軽く、それも真球とは程遠い歪な形をしているからだ(火の玉だし)。初弾速が高くても比重が軽いならば急速に弾速は落ち、最終は空気抵抗に負け、軌道は安定せず明後日の方向にれる。

 サチの言う通りこの杖には強力な弾速を上げる効果補正の魔法陣が組み込まれていると言うのに。


 “より速く飛ぶ魔法”よりもこの場合は“個体の移動を主体とした物理無効の魔法”の方が理にかなっているような気がするが、そんな理屈や理念は異世界こっちは無いらしい。

 一から造るのは未だ無理だし、実際に存在して一度でも見れれば“真魔眼”でコピーできるって言ってるけど、ハナもサチも使えないらしい。


 元々、“炎弾”とは熱せられたピンポン玉に他ならない。炎エフェクトは関係ない。実際は延焼を起こす程には熱力も低く、衝撃を与えられる程には重量もない。人体相手なら十分有効的ではあろうが、対魔物では話しにならない。

 それ以上に強い威力の魔法もあるらしいが、ハナもサチも使えない。やっぱり実際に見てみないと“魔真眼”も使えない。


 射出する弾に必要なのは威力の為の重量と硬度、そして真っ直ぐ飛ばせる為の正確な形状だ。凄くアナログで物理的で、コレ、魔法だよな、って思っちゃったら負けだ。どこかで魔法らしい魔法が存在している事を祈ろうと思う。


 ハナは炎系の炎弾の他、氷も飛ばせるらしい。“氷槍”と言うらしい。

 試しに撃ってもらったが、威力も硬度も炎弾よりは幾分ましだが(熱くはないが)大きすぎて速度は炎弾より遅く、小さくして速度重視にすると今度は威力が低下し、やっぱり曲がった。


 実は氷より水の方が分子間の距離が小さく硬く、物理的には氷の方が衝撃には脆い。

 同じ大きさなら質量も高く重い水の塊でいいんじゃないかとあれこれ思案していた時、ふと再び思った。これ、ファンタジーに拘わんなくてよくね、と。

 あくまでこの氷やら水やら炎は“顕現化想像”で作り出した。なら何でも出来ちゃうんじゃね? 氷や水、炎に拘らなくてもいいんじゃね。


 魔法の夢を壊して大変申し訳ないんだけど、銃の弾丸といえば鉛だ。ハナに鉛を“顕現”してもらう。


「ねぇハムくん、ここは“魔法と剣と冒険”の異世界なのよ、いいの? これでいいの? ねぇ、私の『爆裂炎の聖女』の二つ名はどうするのよ!」


 ほんとごめん。



 ハナは元世界あっちの知識を持っている。鉛の元素記号も特性も把握している。納得のいく純度が得られるまで時間が掛かったが、満足のいく結果を得られた。


 鉛の弾丸の特性はその加工性の良さや耐食性が挙げられるが、その最大は殺傷力の高さにある。これが銃が開発されて660年経って現在まで使われ続けられている最大の理由だ。鉛は比重が高く且つ柔らかく、目標物に当たると変形し広範囲を破壊し、内部に入り込めば慣性エネルギーを消費する事で多大なダメージを与える。


 一般常識では貫通力イコール殺傷力と考えがちだが、実際は貫通させずに広範囲の内部破壊を目的とする方がより効果が高い人でなしだ。ナイフなどの単純な刺突との違いだろう。内部破壊マッシュルーミングに特化して先端が王冠状に割れているなど使用禁止に指定された凶悪な弾丸ヤバいのまでもある。


 無論のこと、ハナには鉛製弾丸の特性は教えなかった。教えたらたぶん造れなくなるんじゃないかな。まあ、貫通させる程には弾速が上げられない事が一番の理由ではあるが。



 ハナが鉛を具現化する際に現れる魔法陣を“魔真眼”でフルコピーし、“諸事自動研鑽研究及び オートメーション・|仮想実験実装機関《 オイクウィップ・ラボ”にて創り上げ、“火縄銃モドキ”に刻む。これにより他の魔法の弾を撃つ事は叶わなくなったが、構わない。

 発動と連射性が飛躍的に向上する。加えて弾丸を真球にする魔法陣を加えた。コンピューターグラフィックの3Dモデリングのフォームアルゴリズムを魔法陣に落とし込む事で解決した。


 何でそんなアルゴリズムを知っているのかは聞かないで。



〈∮ 検索及び検証考察結果を報告

 生体大脳皮質より圧縮データーを確認。疑似脳に転送解凍し強制リリース。量子演算フィールドにて仮想研究研鑽を執行、完了後ビルドアップし生身体へフィードバック

 と結論 ∮〉


 久々に出た、似非大賢者サマ。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告

 最近は出番が少ないんですけど。

 と結論 ∮〉



 本当は弾丸を椎の実型にし、マッシュルーミングをコントロールする為に銅で皮膜したり先端に穴を開けたホローポイントに(ハナには内緒で)したかったが、“顕現化”や“事象遷移”が複雑すぎて今の技量ではまだまだ無理とわかった。


 何より、最も組み込みたかった直進性と衝撃力を飛躍的に高め、ライフルの名に恥じない回転数を弾丸に付与するジャイロ機能は全然無理だった。ジャイロが出来ないと弾丸を椎の実型にしても飛翔の方向性が安定せず、逆に真っすぐ飛ばない。


 なんか“万有間構成力グラヴィテイション制御魔技法・フィネス”で無理くり何とかなりそうなんだけど、初級の今の僕ではやはり上手く行かなかった。|(なんか考えていたよりずっと等級が上じゃないと無理っぽいらしい。なんか、どうにかならないかな)


 元々の“魔法の杖”の付与効果である弾速増加の魔法陣にも手を加えた。なんか全然別のものになったっぽいけどイイよね。ワンオフだし。


〈∮ 検索及び検証考察結果を報告

 より公彦の魔力アルカヌムと直結する様に魔改造増量と結論 ∮〉

 だそうだ。


 射程距離は二倍の四十メートルまで伸び、連射は引き金を引けば零コンマ五で撃ち出す事が可能となった。弾速もマジモンのライフルの九百m/sには遠く及ばないものの、火縄銃モドキの初速三百六十m/sは実現していると思う。

 

 体感的には連射できる火縄銃、或いは九ミリパラベラム弾の拳銃と同程度と思えば正解だろう。それでも心許ないが、“炎弾”や“氷槍”よりは対魔物相手ではよっぽど実用的だ。『質より量』作戦だ。


 ◇


「だから全然当たんねーじゃねーか!」

「エリエル様、お願いします。死にたくないでっすぅー!」

「黙れ。うるさい。今当てる」



―――――――――

お読み頂き、誠にありがとうございます。

よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。


毎日更新しています。

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