第12話 それは、覚えておいて
主人公は運が悪そうです。その訳です。
ご笑覧いただければ幸いです。
―――――――――
サキュバスっ娘にかましたタックルは勿論、炎弾? テルミット弾? バリ無理してた。コップの底に僅かに残ったソレを逆さにして無理やりポンポン叩いて捻り出した感じ。
ジリ貧ですな。不味いですな。今に始まったことじゃないかもしれないけれど……。
掌を開いたり握ったりして身体の調子を確かめながら、あたりを見廻す。うん、見事にここが
転移魔法で大陸の端から端まで飛ばされて。まあ最初に転移で異世界迄飛ばされたことを思えば今更なんだけど。でも小突き廻され過ぎじゃないかな僕。そして、まだまだあんな事やらこんな事を繰り返す嫌な予感満載な僕。
参ったなと、素直に思う。何時の間にか
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
ここは私が―
(ダマレ! この似非が!!)
……と結論 ∮〉
この世界って、改めて暴力的だなって思う。目が覚めてからこっち、今まで経験したことが無いようなバイオレンスに晒され続けられている。いやー慣れないなぁ。
直球系暴力上等世界なのかなぁココって。それって魔法と肉弾戦? で未来を切り開こう! がスローガンな訳? まあ、そうなんだろうな。
暴力ねぇ。
魔法は正直ソソられるんだけど、でもなぁ微妙なんだよなぁ。今のところ厨二心が胸アツな魔法“炎弾”は
弾かれちゃってる感がパない。これからの伸びしろが無さすぎっぽいのも。
そうなるとやっぱり超接近肉弾戦だけなんだけどさ……痛いんだよなぁ、もの凄く。何やっても痛い。馴染みません。
質量荷重万有ナンチャラの魔法、出来るならもう封印したい。
辛い。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
『万有ナンチャラ』ではなく、正しくは“
初期設定値ですから。
と結論 ∮〉
初期設定ね。いつか上がることもあるのかな? ソレ。今すぐ……って訳はないのね。って、あんた
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
初期値からのランクアップは状況・必用時間・練度・才能等により変化すると思われます。一概には何時? との問いには回答不可能です。
ちなみに威力の増強には当然なことに身体の素早さ、手足の稼働速度の加味が必然的に附随します。
得られた荷重及び重力の増幅引力・斥力を身体に巡らし廻すことで基本的な身体速度に変換可能としています。既に先の戦闘時に自動付与の形で運用しています 。
と結論 ∮〉
おい噓だろ? ソレであれ?
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
運用は事実ですが、現行は微増加となります。初期設定値です。やはり技量の熟練度及び等級が決定的に不足しています。
と結論 ∮〉
うん、そうなんだぁ……“微”が付いてたんだね。ソレじゃシカタナイね。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
朗報です。既に実行され効果が確認された有効な情報です。
転移前実年齢よりも幼い
と結論 ∮〉
おい、ちょっと待て。マジでちょっと待って!
その“幸い”って
その為の俺の
それに“敢行”ってサラッと言ったよこの人。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
あと千回ぐらい全身が壊れ修復を繰り返せば改善終了です。
と結論 ∮〉
鬼畜!
……そうするとさ、最大の問題点は力の行使の際に手足が一々潰れて次が続かないってことですよね? どうしたってロスはある筈だし。その点どうなの? なんか対応策ってあるの? 手足の硬化? 強化? それ改善されないと意味ないよね? ねぇ。ねぇ、大賢者様。
……だんまりかよ……そんなこったと思ったよ。やっぱダメじゃん。
ねえ、あんたは誰。ココは
どうして俺は
答えろ。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
わりません。私についてのデーターは私の中に存在していません。或いはロックされているか。どちらにしても、今現在お教え出来ることは今までお話したこと以外は皆無となります。“
と結論 ∮〉
呆れるほど使えねーな。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
それでも“中途半端な力”のお陰で今現在生き残っていることも事実である。
と結論 ∮〉
その事実が、……いちばん辛い。
でさ、そろそろ色々と教えてくんないかな。
データが全てロードされてないとか、そもそも欠陥品じゃねって不信もあるけど、それは置いといてさ。あんた検索とか検証考察してんだろ?
データーを読み上げるだけじゃなくて、色々ごちゃごちゃ言ってたじゃん、。第二基門並列亜次元領域が開放うんちゃらとか。
ソレも含めてさ。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
今現在迄に蓄積させた僅かなデーターを基とすることにより、過分に推測推定が含まれ正確性を欠く場合が多々ある懸念と、後ほどに於いて改めての修正及び訂正が必須であることを合わせてご確認願います。
と結論∮〉
そうだね。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
この世界の有り様で
今更とお思いますが、全ての基準となりますのであえて取り上げさせて頂きました。
世界は違うが似ている処も有るし全く違う処もある。その僅かな違いを思考の規準点として設定して置かなければ、おいおい致命的な瑕疵へと繋がると愚考します。
この世界の特徴として力の行使に抑制が働きづらく、未成熟であると推察、そして最大の相違点と、問題を複雑にさせている要因として、謎の力、魔法、
と結論 ∮〉
酷く雑な言い方だけど、おなじみの『剣と魔法の異世界』
それと『キミちゃん』はやめてね。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
そしてキミちゃんが 。
(“キミちゃん”はやめてねって今言ったよね俺)
……公彦が元の世界に帰れる可能性は限りなくゼロに近い。
と結論∮〉
まあ、いきなり“異世界モノ”の最大テーマをぶっ壊しに来ましたよこの人。……イイけど。して、そのココロは?
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
まずこの地に出現した理由が不明であること。企てなき不慮による偶然か、或いは愚者による
言語はおろか、この世界の社会的な知識が皆無の状態から始めて帰還の方法を探し出し、或いは元凶の愚者がいるなら説得或いは懇願、又は敵対し“力を誇示”して帰還方法を受領獲得し、後に必要なら施術の技能を習得し初めて帰還できます。
しかしながら現状ではそれらを満たすだけの純粋な“
以上をもって具申します。プロスペクト理論からも短絡的な帰還を最優先事項に設定することを避けるべきであると。
と結論∮〉
頭上で小鳥の遊ぶ牧歌的なさえずりが聞こえている。木漏れ日が幾筋となって降り注ぐ濃く深い森の中のちょっとした開けた空間。ポカポカとして暖かい。
ハナとサキュバスっ娘のきゃぴきゃぴした声が聞える。
(ゆるして……下さい。そこは……、手を、てを
百合なのか?百合ですよね? 僕は、ぜんぜん、構わないですけれども……。
……ゴメン。話し逸らした。
要するに、ただでさえ選択できる範囲が限られている現状で、無理っぽな高望みは足元を掬われ全てを失う。
そんなことはわかってる。
でも、僕らは何時か元の世界に戻るんだ絶対に!
でも取り敢えずコレからもこの世界で生きて歩いてゴハン食べて笑って泣いて何だかんだぶーぶー言いながら現代知識で傲慢カマして如何にかコウニカやっていく中で、元の世界に帰る方法を探す事も含めて意識高い系目標チックな物語が進んでいって途中で魔王なんかサクッと倒して最終ハーレム作ってハッピーハッピーって王道パターン。
……
いいよな、カッチョイイ
帰れるならそりゃ帰りたいよ。
だけど残念。似非の話を聞いているうちに気づいちゃった事があります。
改めて突きつけられたっていうか、今から重大な告白をしたいと思います。改める程そんな大したこと、ないんだけどね。
俺、ぶっちゃけ一分は言いすぎだけど今から十分後にもまだ、生き残ってるって自信がまるでありません。ただこうして話しているこの状況下でも……。
もうね、オシッコちびりそうな程にビビってます。テヘペロ。
とりあえず、これを何とかしたい。切実に。命大事。
帰還方法なんて探っている余裕なんて無いっス。
それだけ。
何時からだろう。
ド金色ネオンなペットボトル擬きでこの森に飛ばされた時から?
それとも『フワ金さん』にいいようにドつき廻された時から?
それとも『黒フード男』のぬらぬら鈍く光る大剣が何度も身を掠めた時から?
違う。
そもそも
目を開き、初夏の青く澄んだ空を見上げた時には既にビビってた。ヒザが笑い腰が抜けて座り込みそうな位に恐怖していた。
だって全然違うんだもん。
空も、地面も、建物も、植物も、人も、空気さえも。そりゃ見た目は同じさ、でもね、だとしてもね、知っている。感じている。この世界は僕の為の世界じゃないってことを。
そして『この世界の意思』も僕を異質なものとして否定し、隙あらば弾き出そうとしているって。
瞬時にコレは夢ではないと悟った。同時に今までいた僕が暮らしていた世界ではないと確信させられた。まさか『剣と魔法の異世界』とは思わなかったけど、だからこそ逆に素直に受け止められた。
ココはリアルな異世界なんだと。
この世界でただひとつの異物である僕は孤立している。
まあ、なんて言うんだ、胸熱の筈の異世界転移がこれ程キッツイものだなんて、想像もしていなかったな。
そんな時にハナを見つけた。ハナの“意識”だけが僕の知っている、この異世界で馴染みのある、唯一の僕以外だった。だからなのかもしれない。僕がハナに執着するのは。守ろうとするのは。意識せずに。
オーケー。今日を生き残る。刹那的に。
でもさ、それはソレ、これはコレとして、自分の知らない処から小突き廻されるのは好きじゃない。そこに重要な意味や理由があったとしても。知らんがな。凄く不快だな。不快なんだよ。俺は。
それは、覚えておいて。
そして最後に思う。至極残念無念であると……ハーレム、それは男の見果てぬ夢。ザッツ・グレート・ドリーム。お約束じゃん。一大テーマじゃん。異世界じゃん。
実際、至極もったいないけど、本当に出来るならお願いしたいけど。一縷の希望に縋りたいけど
やっぱ刺されるよね。背中。グサッと。
諦めましょう。さっぱりと。漢らしく。
〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
漢らしくって……既成的に出来る気でいらっしゃるようですけど……残念ながら女子を侍らせる甲斐性も実力も皆無です。元々の実現性そのものが零%です。
それと、ハナ様に執着してるからといって、ゲロまで嗜好するのはベクトルが違う気が。ただの
と結論 ∮〉
うるさい黙れ。それと、最初の方でさらっと僕に運が無いって言ってただろ。傷つくぞ。その通りだとは思うけど。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
毎日更新しています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます