第132話 「初恋は実らない」と相場が決まっている
夜の黒が、全てを塗り潰した。
新しい廃墟となった、ネオ・ポールスター。
市街地で、ビルの外側に面したオフィスが吹き飛んだ。
窓ガラスには、もう破片だけ。
大きすぎる銃口が、中を覗き込む。
ブオンッ
誰もいないはずの高さで、人の頭のような部分。
その目が、光った。
灯りはなく、上から照らす月光により、その正体が明らかに……。
4mの巨人である、MA(マニューバ・アーマー)だ。
無人のコックピットは、そこに挟まれるべき人体がなく、ただ動き続ける。
可愛らしい声が、現状を伝えてくる。
『この機体じゃ……無理か』
AIのツヴァイは、このネスターを支配しているAI、ギャルソンに押されていた。
純粋なデータ戦では、負けないのだが――
『相手は、重装備のMA……。後ろの大きなバックパックとロケットをつけたような装備から、拠点制圧ね! というか、これ、宇宙戦の装備じゃない?』
ツヴァイが指摘した通り、地上で運用するには空気抵抗が大きすぎる。
4mの巨人にサブアームや、せり出しでリアルタイムの武装交換ができるバックパックを背負わせ、ロケットまで。
もはや、ロケットの前に人を括り付けただけ……。
けれど、実験的に作られたであろう機体は、中のパイロットを失ったことで設計した通りのスペックに。
ビ――ッ!
警報が鳴り響くよりも前に、ツヴァイは移動する。
機体のバーニアに頼り切りでは、いざという時に七面鳥と同じだ。
ドシンドシンと鈍い音に、恐竜のような足跡。
もっさりした動きに見えるが、低空を飛び回るギャルソンの攻撃は
『んんっ!』
それでも、至近への着弾により、
ピロリロ♪
ツヴァイの視界に、機体のダメージが増えていく。
『こっちは、アニメみたいに背中のバックパックで空を飛ぶわけにもいかないのに!』
可愛らしい悲鳴。
すさんだ雰囲気でも、その魅力は失われていない。
否。
オリジナルとは違う、また別の魅力を醸し出す。
狙い撃ちにされないよう、MAの両足を動かし続けるツヴァイ。
『捉えているけど……。こっちの武装じゃ、有効打にならない! それに、どうして一斉射撃をしないの? あっちが上を押さえているのだから、面制圧をすれば、撃破できるのに』
マップで、敵の予想ルートを示しつつ、こちらのルートを模索する。
それはリアルタイムで変わり続け、生身で見れば、気持ち悪くなるほど。
ツヴァイは、ふと気づく。
『これ……誘い込まれている!?』
上空をパスしてきたMAに両手のライフルで牽制しつつ、コースを変えようと――
無数のロケットが降り注ぎ、その進路を塞いだ。
ツヴァイはホバーのように回避行動をしつつも、敵の狙いを確信する。
『ちくしょう! 私を生け捕りにする気!?』
抵抗するも、上空の相手に振り回されるだけ。
遮蔽をとり、ビルの壁面にもたれつつ、最後のマガジンに交換する。
空のマガジンは、そのまま落下。
地上へ落ちた際に、歩道の端にある花々を叩き潰した。
『これでラスト! もう動かないから、他の機体に乗り換えないと……。それも、あいつの狙い?』
予備回路やバイパスで、騙し騙しの稼働。
もはや、動かなくなる寸前だ。
◇
それは、初恋だった。
AIのギャルソンは、男子小学生のボイスで、それぐらいのメンタル。
星々を閉じ込めたような、紫の瞳。
茶髪のボブは、動きやすく、彼女を妨げない。
可愛らしい、童顔。
憎まれ口ですら、上品。
絶妙なバランスによって、美しいだけの女子とは、一線を画す。
同じAIと知り、ツヴァイを説得したいが、向こうの発砲によって、なし崩しの戦闘へ。
重武装にロケットをつけたMAで飛び回り、地上を動き回るツヴァイを止めようと試みた。
けれど、彼女に嫌われたくないことで、消極的な攻撃にとどまる。
『何でだよ……。何で……。人間の味方なんて……』
ツヴァイが見抜いたように、これは宇宙用だ。
あるいは、敵の拠点へ突撃した後に全ての兵装を叩き込み、その推力で離脱する。
ヘリのように低空での掃射は、向いていない。
見る見るうちに、推進剤が減っていく。
『チッ! このままじゃ……』
それでも、ツヴァイを見失うことを恐れて、飛び回るだけ。
『ネオ・ポールスターの全ては、僕の管理下だ! 何とか、あいつを移動させれば……』
ギャルソンは、AIのツヴァイに首ったけ。
おかげで、他の部隊による侵攻は順調だ。
『フフ……。じっくり話せば、きっと分かってくれるさ!』
察したツヴァイが地上から撃ってくるも、数発では装甲を抜けない。
『ムダだよ! 捕らえたら、この戦闘が終わるまで、安全な場所に置くか……』
逃げ込みたくなるゲート。
そこへ追い立てつつ、最後の仕上げ。
ツヴァイが操るMAは、その攻撃を避けつつ――
ピタリと、動きを止めた。
『は!? な、何でだよ? まだ、そこまでのダメージは与えていないだろ!?』
焦ったのは、彼女が避けることを前提にしていたギャルソン。
急いで、その原因を分析――
ツヴァイのMAが立つ、その足元。
どんどん、ズームになっていき、1つの画像へ。
『人が乗っている車両? まだ民間人が残って……。おい、やめろ!』
最悪の未来をイメージしたギャルソンは、無人のコックピットの中で絶叫した。
それでも、放たれた弾丸やミサイルは止まったり、自爆したりせず。
『避けろ! ……あああああ! 近くに転送できる端末は!?』
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