夢と現実の物語

とまきち

第1話

ふと気が付くと目の前に深く暗い森が広がっている。

視線を上げるとその森の先は緩やかな登り坂になっており、どうやら私は山の麓に立っているようだ。

なぜこんな場所に立っているのだろう? ここに来た経緯がまったく判らない。

そして何気なく後ろを振り返ってみた。

果てしなく続く一本道が見える。

私はその道の終端に立っていたようだ。

道の両脇には見たこともないような背の高い植物がまっすぐに植わっており、よく見るとトウモロコシに似た不思議な実がなりている。

それが見渡す限り延々と広がっていた。

そして、またふと気が付くと真っ白でフワッとしたワンピースのような衣服を身に纏った少年と目が合った。

いかにも負けん気の強そうな男の子で、一目見てガキ大将という印象を受けた。

でもその顔にはどこか見覚えがある。

『誰だったかな?』

でもどうしても思い出すことが出来ない。

お互いに目を合わせたまま、相手の様子を探り合うように観察し、そのまま黙っていた。

不思議な事に、またふと気が付くとお爺さんが立っている。

先程の少年と同じ様に、フワッとした白い上着に、まるでロングスカートのような形の衣服。

腰のところで緩やかに帯を締めており、まるで古代のギリシャ人を彷彿とさせるような服装だ。

もしかしたら少年と同じ様にシンプルなワンピースを帯で縛っているだけなのかもしれない。

真っ白で長めの頭髪。

そして同じく真っ白で長い髭。

しかしとても清潔感があり、威厳すら感じさせるその出で立ちに、ふと神様のような印象を受けた。

そのお爺さんが穏やかな表情で語りかけてきた。

「どうやら揃ったようだね。」

そして私の目を真っ直ぐに見ながら続けた。

「君がこの少年の案内役だ。君の案内によって、こちらの少年が無事にこの山を乗り越えられるかどうかが決まる。とても責任の重い役目だ。君にはその覚悟があるかな?」

正直に言って何のことなのかサッパリ判らなかったが、ここは黙って頷くことにした。

お爺さんの説明によると、私はガキ大将のような風貌のこの少年を案内して、どこかへ導かなければならないようだ。

そしてそれは重要な任務であり、相当の覚悟が必要らしい。

詳細については全く判らないものの、今は真剣に取り組まなければならない事だけが判った。

そして緊張が高まり、握った手にはうっすらと汗をかきはじめていた。

ふと少年が口を開いた。

「お前が案内してくれるのか? ありがとう! よろしく頼むよ。」

仮にも私は30歳を超えた大の大人だ。

それがこんな小学生だか中学生だか判らないようなガキに、「ため口」で話しかけられている。

なんだこの生意気な子供は…と思いつつも「あぁ、判った!」とぶっきらぼうに応えた自分の声が、まるで女の子のように甲高い。

慌てて自分の手足に目をやると、ほっそりしていて子供の手足のようだ。

背の高さも目の前の男の子とほぼ同じだし、同年代の子供の姿ではないか!

『どうなってるんだ! これは!』とビックリしたところで突然目が覚めた。

どうやらとても鮮明な夢を見ていたようだ。

しかしこれまで体験したことも無いほど、異常なまでに現実味を帯びたクリアな夢だった。

起きた直後は、何が現実なのかを見失いそうになっていた。

布団から身を起こし、しばらくボーッと夢のことを考えた後、気持ちを引き締めた。

今日はこれから親戚やら知り合いやら、私の父親と交流のある多くの人々に連絡をとる必要が有るのだ。

ぼんやりしている場合ではなかった。

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