第14話 お友達 、できました


 授業が終わり、これからお昼だ。清掃も使えるようになったこともあり、ちょっとルンルン気分になっていたのだが、


「フン、掃除が上手くなったぐらいでいい気になるなよ。俺たちは、自分で清掃なんてしなくても良い立場なんだからな。

でも、それくらいの腕ならば、学園を出てから、何処かに掃除婦として雇ってもらえるかもしれないな。良ければ俺が口をきいて紹介してやっても良いぞ」


授業の後、なんかグダグダと言ってくる奴がやってきた。自分がしょぼかったので、言いがかりをつけたいのだろうか。彼がどれほどの範囲だったのかは知らないが。


清掃がショボくったって、いいじゃん。ギルドで仕事、受けるわけじゃないんだから。お前の言うようにお貴族様は自分で掃除なんかしないでしょうに、なんて思いながら。


学園内では、身分を振りかざすことは下品とされている。一応は平等扱いになっているからだ。そうでないと先生によっては、身分が上の生徒を扱えないという話が出てくる。それでは困ってしまう。


だから、学園内に階級があるとすれば、先生と生徒だろう。平民だからと先生を馬鹿にした伯爵の息子は、この学園を退学になったそうだ。


そうかと言って生徒同士も完全に平等なんてことは、残念ながらあり得ない。今は良くても、将来の遺恨になりかねない。何か失礼な言葉を返すと後々厄介だ。しかし、授業での忖度はしてはならないと言われている。

これ、上級貴族が忖度させると、罰せられるのだ。最悪退学になる。

話が逸れました。


身分は持ち出してないし、忖度しろと言うのでもない。やっかみですね。

それならと黙ってジッと静かに、感情を乗せずに見やった。目があったそいつ(ごめん、名前覚えてないや)は、言葉が継げなくなった。次の言葉を待つ風にしてじっと見つめ続けた。


相手の様子を見ていると、なんか蛇に睨まれた蛙? みたいだなあと思っていたら、フイっと顔をそむけて、それ以上何も言わずに行ってしまった。

何だったんだろ。目をそらしたのは向こうからだから、勝ったな。無礼にもなっていないはずだよね、ね。


さて、蛇と蛙の睨み合い? が終わり、去って行った後ろ姿を眺めていると、後ろから声を掛けられた。


「貴方、面白い方ね」

振り向いてみると、おお、Theお嬢様という雰囲気だ。確かエスメラルダ侯爵令嬢のルフィネラ様だったかな。女子の名前は把握しています。


彼女は笑いをこらえているようだ。お嬢様は、笑うのも大変なんだな。

こういう時は、なんていうのが良いのだろう。


「お目汚しをいたしました」

そう言ってお辞儀をし、去ろうとしたけど。なんか気に入られたようだ。

「お待ちになって。もし宜しければ、昼食をご一緒しませんこと」

引き止められて、一緒にお昼を食べることになった。どうしてこうなった。


それが切っ掛けで、こう言って良いだろうか。お友達ができました、と。奴に感謝すべき ?



 エスメラルダ嬢、周囲に人がいなくなる場所に来ると、大爆笑だった。

その後、カフェテリアでお昼をご一緒したのだけれど、あれからよく話しかけられるようになった。

「私、貴方が気になっていましたの。でも、中々声を掛ける機会がなくて。あれは、威圧でしたの ? ヴォルテール様は真っ青でしたわね。あの方は、何かと偉ぶる方ですから、あまり女子には人気がないのですよ」


「威圧ではないと思いますが。他に何か言うことがあるのか、黙ってみていただけです」

「まあ、それにしては迫力がありましたわ。何か武芸などを学んでいらっしゃったのかしら」

「はい、少しだけですが」

マリウスさんに仕込まれたのは、武芸と言っても良いと思う。正確には喧嘩の仕方だけど。


先ほどの出来事の話をしていると、他のクラスメート達が寄ってきた。

「まあ、ルフィネラ様、抜け駆けはいけませんわ。私たちもご一緒しても」

「抜け駆けではありませんわ。先ほど、少し面白いことがありましたの」

気がつけば皆と一緒にご飯を食べる事となった。

ルフィネラ様は、あのやり取りがお気に召したようで、

「面白かったわ」

とご満悦だったから。ルフィネラ嬢に奴と私のやり取りを聞いて、

「私も見たかったですわ」

なんて他の人達にも言われた。


それが切っ掛けで彼女のお友達、他の女子のクラスメートとも話すようになった。当然だが、皆様は上級貴族だ。少し心配したが、蔑まれたりはしなかった。いや、

「ここでは、両親の爵位などは気になさらないでね。皆、名前で呼んでね」

と言われ、


「ソフィリア様って、男爵令嬢にしては堂々としていて、孤高の狼の様に見えましたわ。お声がけしようと思っても、何か近寄りがたい雰囲気があったのですよ。

寡黙な印象で。だから、周りの方も、話しかけにくかったのですよ」


メリオスマ侯爵令嬢のミリアーサ嬢にそう言われた。

いえ、単にどうして良いか判らなかっただけです。ただ、シャンとして周囲の状況に気を配らないとと思っていただけで。

あれ、森の中にいるわけじゃないから、そこまでしなくてもいいのか。あれ、思ってた以上に緊張してた ?


「そうね。非常に大人びた雰囲気でしたし。殿方のような凛々しさを感じましたわ。

あの清掃の魔法も凄かったわ。まるで清浄魔法のようでした」

ピスタチア伯爵令嬢のアクシィア様が褒めてくれた。

清掃と清浄、そういえば何か違うんだろうか。後で調べなくては。


「あれは、先生のお力添えもありましたので」

「何を仰るの。それだけで、あんなに広範囲にできませんわ。きっと魔力量が多いのでしょうね。誇るべきだわ」


「それだけじゃないですよ。その前日での剣術の授業で、男子がタジタジだったでしょう。いつも横柄な態度のヴォルテール様に一本取ったときは、胸がスカッとしましたわ」


そう続けて言われて、真っ赤になった。いや、褒められ慣れていないので。剣術の授業、そうか思い出した。ヴォルテールって、嫌味を言ってきた奴か。そっか、それで絡んできたのか。


「あら、可愛い。照れてらっしゃるのね」

ケルクス伯爵令嬢のギネヴィア嬢にからかわれた。



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