第八章 決着

 事件から二週間と少しが経った。煌月は自室でおやつのピーナッツを食べながら寛いでいた。彼の大きな手にあるスマホには、今日の株価の終値の一覧と為替レートが表示されている。

 ドアがノックされた。執事的なポジションの使用人だ。

「可愛いロリッ子来たぜぇ~。御両親と霧部教授も一緒だったから、応接室に通して飲み物出しといたぜぇ~」

「あの子なら来ると思ったよ」

 霧部とは会う約束をしていて、もう一人は飛び入りだ。

 煌月はゆっくり立ち上がり、スマホをポケットに突っ込んだ。そして厚めのファイルを一つ持って応接室へ向かう。

「お嬢様から手土産のお菓子は受け取ってあります。有名店のロールケーキですよ。いつものコーヒーと一緒にお出しして宜しいでしょうか?」

「ああ、それで頼む。君の分を取っていいよ」

「そのセリフが聞きたかった。すぐに準備しまーす」

 執事は応接室の近くの給仕室へ。煌月は応接室の中へと入った。

「お待たせしました」

「こんにちわ~煌月さん。ご機嫌ようです」

 朗らかな声の主はまだ十一歳の天才少女、天野・ルナアリス・奏だ。

 彼女は今日もクラシカルロリータを纏っている。事件の時とは違って、白を基調としたフリルが多めのデザインだ。スカートの裾を摘まんで流れるように一礼をする仕草は、まるで貴族の御令嬢。

「こんにちは。私の邸宅へようこそ」

「こんにちは。先日の事件では娘が大変お世話になりました。妻共々お礼を申し上げます」

 ルナアリスの両親は深く頭を下げた。母親がイギリス人というのは本当らしい。彼女は母親似だ。父親も二枚目である。

「いえ、大した事はしていません。教授もお元気そうでなによりです」

「事件に巻き込まれたと聞いたが、相変わらずのようだな」

 霧部は皺が目立つ目尻を下げた。

「まぁ今回も何とか。さて、本日のご用件ですが」

「お嬢様のご用件を先にいいかね?」

「構いませんよ」

 煌月が着席してすぐに執事がコーヒーとロールケーキを持って来た。上品な甘さを全員が堪能した所でルナアリスが本題に入った。

「これだよ。どういうことなの!」

 怒りというよりは不満が乗った高い声だ。彼女が取り出したのは今日の朝刊。一面を見せる向きで叩きつける様にテーブルに置いた。


『リアル脱出ゲーム殺人事件、六人を殺害した犯人を逮捕!!』

 

「やっぱりその記事ですか。ルナアリスちゃんで二人目ですね」

「気になるに決まってるじゃない。ちなみに一番乗りは誰?」

「大宮さんですよ。午前中に来ました。彼は人脈を頼りに私の邸宅を探し出したそうです。真実を聞きたいというので全て話しました」

 大宮は当事者として記事を書く気には何故かならないと言っていた。煌月の説明を聞いたら納得して帰っていった。

 先を越されたとルナアリスはちょっと悔しそう。

「この記事には犯人の名前が書いていないんだ。記事には現在捜査中であり、犯人の氏名や具体的な犯行の状況等はまだ非公開とするって書いてある」

「話を広めるような事をしなければ話しますよ」

「ということはやっぱり煌月さんが裏で動いていたんだ。でもこういうことは容疑者全員集めてやるのがお約束でしょ?」

「私はミステリー小説の探偵のような事をしていますが、探偵をやっているっていう自覚は無いんです。ただ協力しているだけです」

 推理ショーなどやる筈もない。推理で犯人を見つけ出し確実に有罪にする。ただそれだけなのだから。

「それで? 聞きますか?」

「もちろんだよ。その為に来たんだから」

「あー私も聞いていいかね?」と霧部が控えめに入ってくる。

「別に構いませんよ」と煌月は座り直した。

 応接室内に張り詰めたような空気が漂う。

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