第22話 五号目からの旅路

会社では自分の迷いや叛意を気取られぬように

死人のように過ごしていた。


気取られぬように社畜を演じる一方で心が死にゆく。

そんな鬱屈した平日については、山に登ることで発散される。


自然を見ることで、ようやく本来の自我を取り戻したというべきだろうか。


休日に自分の人生のゴールであると定めた、

百名山制覇に向けて進めていくべく

僕は富士山登頂のツアーに参加を表明した。


富士山については登頂ルートがいくつかあったと記憶している。


その中でも富士宮口ルートで五合目から登頂を目指して行った。

駅からバスで五号目までスキップしていく。


富士山の五号目が集合場所。

メンバーは僕とインストラクターを含めた計4名。


五号目で早めのランチをした後に

この4名での富士山山頂への旅が始まった。


五号目から登ったから多少楽かと思いきや

富士山を登るのは思った以上に辛かった。


普段から歩き慣れていない、体力作りができていないことが

ここにきて身体への負荷となってしまっている。


しかしそれでも酸素マスクが必要というほどでもなかった。


当たり前かもしれないが、富士山から見れる絶景は

会社の中の閉鎖されたコンクリの世界と全く違うもの。


あまりにも雄大で壮大なその風景に圧倒される一方だった。


赤岩八号館という山荘を中継地点として、夜に山頂を目指し

ご来光を拝む、というのが今回のシナリオ。


しかしその中継地点にたどり着くまでも結構時間がかかる。

歩けど歩けどなかなか目的地が見えてこない。


上り坂を登るというのが普段の通勤ルートであんまりないので

その経験値不足も相まって、体力を消耗していく。


疲労が溜まって歩くのに支障が出るし

所々の地点で休みたいとも感じるようになってくるが


この山から見える景色があまりにも素晴らしい。


この素晴らしい景色を観れるのが土日祝日だけというのがなんとも恨めしい。

平日になればまたコンクリに囲まれた閉鎖空間で

ひたすら社畜としての日々を送る一方になるのだ。


どんなにもがいたところで社畜から逃れられる運命が見えない、

そんなことはわかっている。わかりきっていることだ。


そんなもんは分かりきってはいるが

今だけでいい、この迷いを晴らして、


この清々しい空間の、そして山頂の空気を吸わせて欲しいのだ、とー。

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