◇38 アグスティンがそれでいいなら別にいい

 残った俺の仕事。その場に向かおうとしていたその時、この声が聞こえてきた。



「ここでお前と会えるとは思わなかったわ」



 そんな、どこかで聞いたことのあるような、女性の声。



裏切り者・・・・のアグスティン」



 同じ宿に泊まっていた悪魔族のお姉さんだ。昨日と違って腰の裏にコウモリのような大きな羽が生えていて、細いしっぽも見える。そして、二本の角が生えている。まさしく悪魔の姿のような見た目だ。


 なんか、怒ってないか? なんかメラメラとオーラが見えてるんだけど。まぁ裏切り者? って言ってたし、天敵みたいなやつに会えばそんな反応もするかもな。


 でも、裏切り者のアグスティン?



「貴方、あの殺人鬼の関係者かしら。顔が似てるような気もする。そんな奴がこんな所で何をしてるかと思ったら……何よ、罪滅ぼしのつもり? それとも同情? ふざけないでっ!!」



 あ、攻め込んでいるパラウェス帝国の奴らを止めたことを怒ってるのか。



「我は主人であるこの者の願いを聞いただけの事。この行動に我の私情は含まれていない」


「ッ……」



 ……俺に全部投げやったな、お前。我は知らん、ってか。まぁ決めたの俺だけど。


 でも、裏切り者って……もしかしてアグスティン、実は悪魔族だった? 精霊界で生まれてないって言ってたけど。



「……俺はただルールを守って生活している奴らを裏切って殲滅せんめつさせようとしてるあいつが気に食わないから、一発殴ってやろうって思っただけ。まぁ、お人好しともいうかもだけど。俺、悪魔族とパラウェス帝国の事情なんて知らないし」


「……」


「ただの俺のわがままってだけ。それでいい?」


「あなた……」



 お、これで納得してくれたか? それならいいんだけど……でもまだお姉さんの顔怖いな。



「……私はお前を許さない。お前が裏切らなければ、あんなに被害を出すことはなかったわ。自分でも分かってるんじゃないの」



 もしかして、あの大戦争の事を言ってる? まぁ、話を聞くにそんな感じもする。アグスティンは、俺に視線を向け、すぐにお姉さんに向き直した。



「あんなものに手を出した時点で、もうあ奴らは罪を犯したも同然だ」


「自業自得って言いたいわけ?」



 あんなもの……もしかして、呪術、だっけ。大戦争で悪魔族が使った呪術のせいでその場所が汚染されたって言ってたっけ。今でも入れないんだろ? それぐらい恐ろしいものだったって事か。



「そうだ。我は何度も忠告した。それでも聞かなかったのだ。そんな戦争など無意味だと思っただけの事。お主も内心そう思っていたのではないか」


「ッ……」



 その顔は……図星?



「お前はもう過去にとらわれるな」


「ッ……お前が言うなッッッ!!」



 その一言で、お姉さんがこっちに突入してきた。両手には、スキルかなんかで作られた黒い球。あれ、何だか分からないけど喰らっちゃダメだってなんか頭の中で警告されてるみたいだ。


 けど、アグスティンは避けた。てか、俺は振り落とされないようしがみつくのに必死だった。



「お前はいつもそうだ」



 そうアグスティンはつぶやき、そしてお姉さんを掴んだ。



「お前は頭を冷やせ。もうその時代は終わったのだ」



 そう言って、投げ飛ばした。その方向は、悪魔族の国。


 なんか、知り合いだったみたいだけど、いいのかこれで。



「あの人、大丈夫か?」


「あ奴もれっきとした悪魔族の幹部。これくらいでへばるような奴ではない」



 あ、なるほど。



「……何も聞かぬのか」


「いんや? 別にアグスティンが言うまで待つよ」



 そりゃ気になるけど、困るようなことはしたくないからな。



「あの人、魔王の卵を孵化ふかさせようとしてたよ。いいのか?」


「そうか」


「え、いいの?」


「もう頭の固いやつらはあの国にはいない。もう代替わりをして新しい国となっているだろう。なら問題ない」



 ふぅん。


 まぁ俺そういうの分からないし。アグスティンがいいならそれでいいや。


 てか、俺があのお姉さんの事を知ってたこと、聞かないんだ。別にいいけど。


 よし、じゃあ俺はやるべきことをやろう。




◇◇◇


 次回最終回です!


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