◇26 そんな期待やめて、本当に


 デパートを出て、足にぶつかってくるやつがいた。



「う”ぅぅう”ぁ”ぁぁぁ”ぁぁぁ”ぁあ”ぁぁ”ぁぁあ”ぁぁ”ぁぁ~!!」



 え”っ!? ちょい待ち何泣き出すんだよっ!?



「おいおいどうしたどうした!」



 小さい子供。宿のあの子達よりも小さいな。大体幼稚園の年長さんくらいか。男の子だ。


 泣きやめ泣き止め、としゃがんで頭を撫でてやり、服の袖で涙を拭いてやった。子供をあやすのってこんな感じでいいのか? 俺弟居なかったし周りにもいなかったからそういうの分からないな。



「悪かったよ、見てなくて悪いな」


「う”ぅ”ぅ”……」


「よし、いい子だ」



 よし、泣き止んだな。はぁ、勘弁してくれよ。……おい、アグスティンその顔何だ。子供泣かせたって言いたいのか。仕方ないだろ、向こうがいきなり突進してきたんだから。



「兄ちゃん、獣人……?」


「え? あ、まぁな」


「強い?」


「う~ん、あんまり強くないかな」


「ハンターじゃないの?」


「違うよ」



 そう言うと今度は、ぱぁ! と笑顔を見せてきて、そして俺の手を掴んで引っ張ってきた。こっち!! と。おいおい今度は俺をどこに連れてく気だ?


 しょうがないな、また泣かせるのは気分的に嫌だし。どうせ子供だしな。


 はぁ、と心の中でため息をつきつつ付いていった。この子小さいから俺の手握ると腰が曲がって体勢的にキツいがしょうがない。



「どこに連れてく気だ?」


「こっち!」



 これ、大丈夫か? まさか面倒ごとにならないだろうな。


 なんて思っていたら、ついたらしい。ここ! とこの子が指をさした先には大きな家があって。と言ってもちょっとぼろいな。


 なんか、見た目幼稚園みたいだ。庭が広いし柵もされている。ここ、もしかして。そう思っていたら見つけてしまった。


 《ラディ孤児院》


 ……まじかぁ。え、なんで俺こんなところに連れてこられたんだ?


 けど、当の本人は俺を放置して「シスター!」と叫びながら中に入って行ってしまった。おい、俺はどうするんだよ。


 そしたら、家から出てきた。さっきの男の子と、他の子供達が3人。あと女性が一人。大体70代くらいか。男の子が言ったシスターってあの人の事か。



「あのね、あのね、僕連れてきたんだ!」


「えっ……あっ!!」



 目が合ってしまった。シスターと。それから、「トリス!!」と怒られていて。



「勝手に連れてきたの!! やめなさい!!」


「で、でも、お兄さん獣人だし……獣人って強いんだろ? 体が強いんだろ? なら大丈夫だよ!!」


「本人には何か言ったの?」


「あ……」



 ……なんか、嫌な予感がするのは俺だけか。



「ごめんなさい、うちの子がご迷惑をおかけしました」


「いえ、お気になさらず」


「お兄さん!! 助けて!!」


「え?」


「こらっ」


「でもっルトもリアもウォルトも戻ってこないじゃんっ!!」


「いいから」



 ……事件か何かか? 戻ってこないってか。



「あの、何かあったんですか?」


「あ、いえ、何でもないんです」


「シスター!」


「それは警備兵に報告したでしょう」


「でも動いてくれなかったじゃん!!」


「それは……」


「あの……」


「……」



 言いたくなさそうだな、シスター。まぁ今初めて会ったやつだし。


 でも、これを聞くにさっきの三人が戻ってこないみたいだけど、警備兵に報告したってことはもしかして迷子とか?


 もしそうだったとしたら早く見つけてあげないといけないな。



「あのね、ルト達がいなくなっちゃったの!」


「え?」


「……5日前から、うちの子達が一人ずついなくなっていってしまって。孤児院の敷地内から出ていないはずなのですが、周辺を探し回ってもいなくて……もう5人もいなくなってしまったんです」


「えっ」



 5日前から、5人も行方不明になったってことか?


 でも、警備兵に報告したって言ってたけど、動いてくれないとも言っていたし。



「この国ではあまり孤児に対して優しくないんです。だから、頼んでも動いてくれませんでした。こっちも忙しいんだ、と門前払いされてしまって。ギルドに依頼するにしてもそんなお金はありませんし……」


「そう、ですか……」

 


 マジか、酷い話だな。忙しいからって子供たち行方不明になってるのに放ったらかしにするってどうなんだよ、大人として。それでよく警備兵が務まるな。そんなんだったら警備兵なんてやめちまえ。


 となると、捜索ってことになるな。でも俺とアグスティンだけじゃ無理がある。じゃあ、とりあえずバリスとトロワ呼ぶか。



「あの、消えた子達の特徴とか教えてくれませんか」


「えっ、探してくださるんですか……!」


「子供達が行方不明になってるんですから、手伝うのは当たり前じゃないですか」


「あ……ありがとうございますっ!」



 お兄さん探してくれるの! とわらわら足元に子供たちが群がってきた。いや、ちょい待ち俺動けないんですけど。そんな期待のまなざしやめて、おめめキラキラさせないで。


 てかシスターも泣かないで、お願いですから。そんな期待されてもちゃんと見つけられるか分かりませんからね、分かってます?


 はぁ、とため息をつきつつ孤児院の中に招かれたのでお邪魔することにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る