◇24 恐るべし、宿の食事
じいちゃんの偉大さをかみしめつつ、またお姉さんに見つかったら大変だと思い宿の部屋でおとなしくしていた。また案内したいだとかなんだとか言われたらたまったもんじゃない。なんか言われるんじゃないかってひやひやする。
「とりあえず、ここ結構帝国から離れてるし、情勢とか探りつつではあるけれどここで大人しくしてよっかな」
ここ居心地いいし。部屋広くて快適だし。
『ずっと引きこもり? つまんな~い!』
『遊ぼ! 遊ぼ!』
「あーはいはい」
そう言って頭を撫でてやる。ふわふわでいいなバリスは。トロワも気持ちよさそうだ。どっちも小さいけど。
てか遊ぶってどこで遊ぶんだよ。お前らエネルギー有り余ってるだろうから遊ぶのも考えなきゃいけないだろ。外に行って森で遊ばせるか? いや、そしたら森林破壊になるな。
それで、だ。俺はこれからあまり言いたくない提案をしなきゃならない訳だが……
「なぁ、お前たちって召喚した俺とどれくらい離れられるとかってある?」
『う~ん、それは魔力の量で決まってくるんだけどルアンの場合はそんなの関係ないわね』
「あ、はは……」
まぁ、無限だからな。じいちゃん最強だな、ほんと。
「じゃあ、悪いんだが……お前たち、部屋にいるのと解除するの、どっちがいい?」
『は?』
『え?』
『……?』
「いや、だってこの前【陰身魔法】かけてたのにエルフお姉さんに見つかったろ。だから、次またそんな事がないようこの町が安全かどうか分かるまで外に出ないでほしいんだ。ダメか?」
確かエルフお姉さんはハイエルフで精霊使いだからバリスとトロワを見つけられた。この町でも同じ人がいるかどうかは分からない。
『ヤダっ!』
「召喚解除が嫌ならここにいていいから。風呂もあるし食事もここに持ってくるし」
『むぅ~』
『じゃあどうやって安全かどうか調べるのよ』
「それは……アグスティン、分かるか?」
エルフお姉さんはアグスティンを見つけることができなかった。それはアグスティンが精霊界出身ではないからだと本人は言っていた。なら大丈夫だろう。まぁ何かあったらその時はその時だ。
『そうだな、ハイエルフなどの見分けはつく』
「じゃあアグスティンにチェックしてもらうって事で」
『え~! ずるいずるい!!』
『アグスティンずるい!!』
「エルフお姉さんと一緒にいた時はアグスティンずっと黙ってたんだぞ。順番ってもんがあるだろ」
とりあえず嫌々と騒ぐ奴らの口を食い物で黙らせた。最終的には召喚解除すんぞと脅しを入れて収まったのだった。
外が暗くなり始めて、俺は下の階に降りた。もう腹が減ってしょうがない。
確か、食堂ってあっちだっけ。
最初案内してくれた子供達の話を思い出して進むと、テーブルの並ぶ部屋に到着。あ、何人かいるな。
「あ、いらっしゃいませ。お夕飯ですか?」
「はい、部屋で食べることって出来ます?」
「お部屋で、ですか。こちらでお持ちいたしましょうか?」
「あ、いえ、自分で運びます」
最初に見た子供達と女の人とは違う方と遭遇。俺より少し上の男性だ。何となく子供達に似てるような。
もう食べられますからこちらにどうぞ、と席に案内してくれた。
「メニューはこれです」
「あ、ありがとうございます」
渡されたのは、ラミネートされたような紙。へぇ、こんなのあるんだ。
書かれていたのは、お肉料理ばかりだ。
「すみません、うちのお勧めメニューは今お休みなんです」
「え?」
「海鮮を使った料理は今食材が手に入らないんです。今海が荒れてて漁が出来ないみたいで」
「へぇ、いつからなんですか?」
「そうですね……1ヶ月前からでしょうか」
「そんなにっ!?」
「ここは海鮮が特産なんですけど、皆困ってるんです。申し訳ありません」
「あ、いえ……」
じゃあこれでお願いします、と注文して。お兄さんはお待ちくださいと一言残して行ってしまった。
何となくで聞いてみたけど、まさかそこまでとは……
「やべぇな、1ヶ月か」
『……人魚族か』
「え?」
左肩に乗っていたアグスティンがそう呟いた。確かここは人魚族の国と近くはなかった気がするんだけど……
『人魚族の国の海域に誰かが侵入した、と考えられるが、それが1ヶ月となると、他の理由がありそうだ』
「他の理由?」
『あぁ、人魚族の国の女王・マーメイドクイーンを怒らせるほどの理由がな』
へぇ、マーメイドクイーンって言うんだ。かっこいいな。
けど、女王を怒らせるほどの事って何だろう。俺はこの異世界に来たばっかりだから見当がつかないな。よく知らないし。
でも、海が荒れててこの町の人達が漁ができないとなると……他の国にも影響が出てるのかもしれない。海に面してる国が、な。
面倒ごとには関わりたくないのが俺の考えだ。だからどっか別の国に移動することも頭に入れないとだな。
「お待たせしました」
と、持ってきてくれた料理は……めちゃくちゃ美味そうな見た目と匂い。え、やば、早く食べたい。てか大盛りにしといてよかった。
じゃ、いただきます。そう一言残して部屋に早歩きで戻った。
「……」
『……』
『……』
『……』
「おいバリス、よだれ垂らすな」
テーブルに置いたおぼんに乗る夕食。それを俺達は囲って凝視している。
ドイール達はここの飯は美味いって言ってた。じゃあ一体これはどれだけ美味いんだ。
『早く食べよ! 早く!』
「あーはいはい、でも最初は俺な」
『ずるいっ!』
「なぁにがずるいだ。これは俺のなんだからな、分かってるのか?」
ぶーぶー言い出す奴らをよそに、いただきますと手を合わせた。
「……んっ!?」
なにこれなにこれ!! なんじゃこれ!! え、めっちゃ美味っ!! 何の料理なのか分かんないけどめっっっっちゃ美味いっ!!
『ルアン! ルアン!』
『私達にも〜!』
「ほれ、順番な」
『はーい!』
とりあえず、俺ら全員ここの料理の虜となった。
これじゃあ、この宿から離れられないな。さっき違う国にとか考えてたけど、こりゃ無理だな。うん、面倒ごとに巻き込まれないよう最大限気を付けよう。
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