第30話 デザートは別腹

 飲み過ぎた方々をリカバリーして復活させると、彼らはまた飲める! と言って嬉しそうに夜の街に消えていった。

 お酒ってそんなに楽しいものなんだろうか?


 ちょっと興味あるけど今はまだ止めておこう。

 結構お金かかるって聞くし、飲み過ぎると手が震えて集中力も散漫になるっていうしね。

 

「良かったの? あの人たち」


「え?」


 お目当てのスィーツ屋さんに移動した私とリーシャは、とりあえずティーブレイクをしている。

 私はアップルシナモンティー、リーシャはトリプルベリー&ローズティーを啜っている。


「だってせっかく治ったのにまた飲みに行くって言ってたよ?」


「いいんじゃないですか? もしかしたら今日しかはしゃげないのかもしれませんし、誕生日なのかもしれません。男の人ってハメを外したい時っていうのがあるんでしょ? それを快く見送るのが女ってものだと教わりましたし」


「フィリアいい子すぎて眩しい」


「何がですか?」


「何て言うのかな。良妻賢母?」


「妻じゃないし母でもないかな!?」


「私なら回復させたんだから大人しく家に帰れー! って言っちゃうかも」


「あはは、まぁそれは人それぞれだと思いますよ」


 そんな事を話していると、頼んでおいたスィーツがテーブルに運ばれてきた。

 三段のタワーのような食器には宝石のような小さな可愛らしいスィーツ達がちんまりとおすまししている。


 やばい、これだけでテンション上がる!

 リーシャも目をキラキラさせて生唾を飲み込んでいるし。


 さっきたらふく詰めこんだお腹も、この妖精のようなスィーツに反応している。

 やはりデザートは別腹っすね。


「「いただきまーす」」


 んー、どれからいこう、どういこう。

 どう食してやろう。


 きっと私の今の目は獲物を狙う猛禽類さながらの獰猛さだろう。

 ねずみなんてひと睨みでイチコロだ。


 このスィーツタワー、それなりにお値段も張るのだけど今日はダンジョンクリア記念ということで。


 奮発してしまった。

 明日から頑張る。

 

「ほぉおおー……」


 リーシャがスィーツの一つを口に放り込んで至福の表情をしている。

 そんなにか! そんなにうっとりしちゃうほどなのね!


 心臓を高鳴らせながら「食べて?」と可愛らしくはにかむスィーツを摘む。

 親指の爪ほどしかない大きさのショコラの上には金粉が乗っている。


 この親指の爪ほどしかない大きさでリンゴが二つは買える、味わって味わって大切に味わい尽くさねばならない。


 一種の使命感のようなものに駆られながら口の中に放り込む。


「あっっっふぅ……!」


 これは大変だ、これは至高だ。


 口から舌から歯茎から、口の中のあらゆる器官が溶けていくような錯覚を覚える。

 そこからはもう私もリーシャもただ無言--いや、美味しい美味しいという賞賛の声だけを発しながらただひたすらに味わい続けた。


 私は決めた。

 いっぱいダンジョンに潜っていっぱい依頼をクリアして、いぱいお金を稼いで週の終わりには必ずここに来よう。


 そして翌週の英気をチャージしてまた頑張るのだ。

 また一つ目標が増えた、これは頑張らねばいかんなぁ!

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