第26話 ヒーラーの在り方
「おいフィリア、なんでそんな泣きそうな顔してるんだ?」
「してない」
人の顔をジロジロ見ないで。
私ははしゃぐ気分じゃない。
「してるじゃん」
「してないってば」
「フィリアはバルトがどこか行っちゃうのかもしれないって思って寂しいんだよね?」
「ばっ!! リーシャ何言ってるの!?」
顔から一気に火が噴いたかと思った。
ボンッ! って感じに一気に体温が上がる。
慌ててバルトを見るが、は? みたいな顔してるし、は? じゃないよ。
鈍感か!
「いや、どこにも行かないけど」
「は?」
それこそ、は? だ。
いやだっていま旅に出ようとか言ってたじゃないさ。
「思ってるってだけだ。別に今すぐ行くとかじゃない」
「ふうん」
「何で今度はむくれてるんだよ」
「むくれてない」
「へちゃむくれ」
「誰がへちゃむくれですって!」
「まぁまぁ、フィリアはバルトがどこにも行かないって分かって安心してるんだよ。ね?」
「やめて! これ以上私を辱めないで!」
リーシャも、ね? じゃないよ。
満面の笑みで話を振られて私がはいそうです安心しました、なんて言えるわけないじゃん!
別に好きでもなんでもないんだし! ただちょっと友達がいなくなるような気がして寂しくなっただけだし!
私は恥ずかしさを隠すようにお肉を頬張って、食事以外に興味ありませんという風体を保つ。
恥ずかしくて味が分からなくなってきた。
「治療院も高いしね……」
「あぁ、だからヒーラー職は引く手数多なのさ」
「そんなにいないの?」
「いないよぉ。いてもみんなすぐに転職しちゃうんだってさぁ」
「え? どうして?」
突然治療院の話に変わったけど、多分私が必死にお肉を詰め込んで現実逃避している時に話が進んだんだろう。
そしてなぜ転職するんだろう?
引く手数多ならチヤホヤしてくれるんじゃないの?
「なんかねぇ、道具扱いされてるみたいで嫌なんだってさぁ。この前転職した子に聞いたらそう言ってたよぉ」
「なにそれ。そいつダル」
「こっちはそんなつもりないんだけどな」
「え、だってそもそもヒーラーって回復したりするのがお仕事じゃない」
「思ってたのと違う、らしいぜ?」
「えぇ……意味わからないわよ」
「こっちだって意味わからないさ」
なんだその意味不明な理由は。
ヒーラー、というか聖職者に何を求めどんな幻想を抱いてるのか知らないけど、道具扱いうんぬんて、いや、ヒーラーなんて歩く回復薬みたいなものだろう。
前衛が怪我をすれば癒し、後衛がデバフくらったら癒し、味方の底力を上げるためにバフをかける。
みんなに怪我をさせないために結界を張ったり、対物対魔障壁を張る。
みんなを死なせないように立ち回るのがヒーラーではないのか。
もうどんどん道具扱いしてくださいって感じなんだけど。
あ、私的にだけどね。
聖女たるもの自己犠牲と博愛の心でみなを支えるべし、っていう教えもあるし。
私がちょっと苦労するだけで他が幸せだったり、無傷で帰れるのなら、それが私の幸せだ。
ただ最近はちょっと情緒不安定だったのもあって、そういう行為からは遠ざかっていたけども……けども、今回のことである程度はやれるって思えたし、またダンジョン、行ってみようかなとも思える。
単純だなぁ、と我ながら思うけど単純でも別にいいよね。
深く考えることも大事だけどさ。
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